あなたへの言葉10
意外なことにカカシに看病されたイルカは、次の日の朝には元気になっていた。
カカシの家に連れて行かれて、一晩、寝ると風邪も吹っ飛んだ。
好きだという人に看病されたお蔭なのか、具合が悪かったのが嘘みたいな回復の早さであった。
「元気になってよかったね、イルカ先生。」
カカシがイルカの額に手を当てて本当に熱がないか確認してから、安心したように言う。
「すみません、色々とご面倒を掛けてしまいました。」
イルカは、ぺこりと頭を下げた。
「本当にありがとうございました。」
「そんなこと気にしないでください。寧ろ、俺はイルカ先生のこと、もっと看病したかったなあ。」
「え。・・・もっと?」
聞き返すイルカにカカシは、さらりと流して朝食へを促した。
「そう、もっとイルカ先生と居たかったってことね。・・・それより、朝ご飯でも食べますか。作ってありますから。」
「あ、どうも。」
カカシが、どうして、そんなことを言ったのか問い質したかったのだが、イルカは朝ご飯の誘惑に負けてしまった。
お腹も、ぐーっと鳴っている。
とりあえず、イルカは欲求を満たすことにした。
カカシの作ってくれた朝ご飯は、この上もなく美味しかった。
それから、なんとなくイルカはカカシのことを意識するようになった。
それからとは、自分がカカシのことを好きなんだ、と思うようになってからである。
看病してもらった日の朝に言ったカカシの言葉の意味も結局聞かず仕舞いだった。
受付け所で報告書を出しに来ただけのカカシを見ると胸が高鳴り、カカシと話すと頬が熱くなってきてしまって上手く話せない。
二人だけになると妙に、そわそわしてしまってカカシの顔も見れないし、早く、カカシの前から去ってしまいたい衝動に駆られてしまう。
一緒にいたいのに、いたくない、という矛盾した気持ちに襲われていた。
そしてカカシに食事や飲みに誘われても、ついつい、断ってしまっていたのだった。
ある日、痺れを切らしたようにカカシは、イルカと二人きりになるのを見計らって誘ってきた。
「イルカ先生、今日の夜は久しぶりに飲みにでも行きませんか?」
せっかくのカカシのお誘いなので行きたいのは山々ではあったが、今のイルカには好きな人の目の前にいるということが、どうしても駄目だった。
緊張して、手の平にも背中にも変な汗を掻いてしまう。
「えっと今日は・・・。」
自然と断る理由を探してしまっていた。
だが、カカシの方が一枚上手でもあった。
「今日は、もう受付けもアカデミーも火影さまのところの仕事は終りで無いでしょう?それに俺もイルカ先生も明日は休みだしね。」
「それはそうですけど・・・。」
「何か不都合でもありますか?」
そう言われてイルカは逃げる術がない。
しかし、イルカは何とか言い切って逃げ切ってみせようと足掻いてみた。
「俺、そのう、あのう・・・。」
きょろきょろ、と辺りを見回して助けを探すが見つかるはずもない。
「用事はないんですよね?じゃあ、いいじゃないですか。」
カカシがイルカの手首を軽く掴むとイルカの体は、びくりと反応した。
そのことに自分でもびっくりして、イルカは慌ててカカシから自分の手首を取り返す。
「とにかく、その・・・。俺、急用が入ってしまって・・・。」
「急用?いつ?」
「い、今です!」
「あのねえ、イルカ先生。」
カカシが呆れたような声を出した。
「俺から逃げるつもりなの?」
両手を腰に当ててイルカを威圧するような雰囲気を醸し出す。
イルカは、一歩後ずさった。
「逃げる・・・なんて、まさか・・・。」
好きな人に追い詰められて、イルカは別の意味でドキドキしてしまう。
カカシさん、目が超怖いんですけど。
「最近、付き合いが悪いじゃないですか。俺、何か気に障るようなことしましたか。」
「それは、カカシが先生悪いんじゃなくて・・・。」
「俺、寂しいなあ。」
次にカカシは、多分であるが、意識的にイルカのことを上目遣いで見てきた。
やたらと哀愁を誘う眼差しだ。
「せっかくイルカ先生と友達になれたと思ったのに。」
「俺だって、そう思ったんですけど。」
そう思っていた相手を好きになってしまったなんて、とイルカの心は罪悪感で、いっぱいになり申し訳なくなってきた。
カカシの顔も、まともに見ていられなくなる。
だからカカシの言葉も聞いてはいなかった。
「俺はイルカ先生と、もっとずっと親密になって、できたら友達じゃなくて・・・・・・。」
「ごめんなさい!」
勢いよく、頭を下げたイルカはカカシの言葉を思い切り遮った。
「全部、俺が悪いんです。ごめんなさい!」
それだけ言うとイルカは、有りっ丈の力でカカシの前から、どろんと姿を消した。
「あっ、イルカ先生・・・。」
後に残るはカカシ一人だけになった。
引きとめようとしたのか、イルカがいた場所に空しく手を伸ばすカカシがいる。
「はああ。」
カカシは手を下ろして深い溜め息をつく。
「上手くいっていたはずなのになあ。どこで間違ったんだろう。」
誰ともなく、切ない声で呟いた。
「俺は、こんなに好きなのに。」
あなたへの言葉 9
あなたへの言葉 11
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