雨10
次の日の朝、イルカ先生が心配だった俺は真っ先に受付け所に行ってみた。
イルカ先生が受付け所にいなかったことに、ほっとする。
きっと風邪で休んだのだろう、と思ったのだ。
昨日の様子では、今日一日、家で休めば元気になるだろうと推測した。
本当はイルカ先生の自宅まで訪ねて行って様子を見たかったが流石に、それはどうだろう・・・。
多分、イルカ先生の中で友人の位置、少し親しい上忍くらいに思われているような気がするから、押しかけて逆に迷惑に思われたりしたら・・・。
こういうことになると俺は気が弱いな〜。
っていうか、ぐじぐじと悩んでしまって駄目な奴だ・・・。
戦術の駆け引きなら幾らでも思いつくのに、恋の駆け引きでは丸っきり先へと進めない。
友達なら様子を見に行ってもいいかと思うのだが、昨日、イルカ先生に拒絶されたことが俺の気持ちに中で尾を引いている。
もー、どうしようもないなあ、とはっきりしない自分に苛立ってしまう。
うーん、と考えて、イルカ先生が心配なので任務が終わったら夕方、少しだけ・・・。
少しだけイルカ先生の家に寄ってみよう。
イルカ先生が寝て応対してくれなったら、それはそれでいいとして、でも起きているのに会ってくれなくて、また拒絶されたら・・・と俺は、そこまで考えて、考えるのを止めた。
まあ、その時はその時だ、と一応、腹を括った。
夕方、任務の報告書を出した俺はイルカ先生の家へ行こうと決意を固めた。
サクラから風邪を引いた人へのお見舞いの品も、ばっちりリサーチしてきたし。
よし、大丈夫!と拳を握り締めて、自分を元気付ける。
で、報告書を出して受付け所がある棟から外を出ようとして空を見上げた。
曇っていて今にも雨が降り出しそうな空模様になっている。
また、雨が降るのか・・・。
雨さえ降らなければイルカ先生も風邪なんて引かなかったのに、忌々しい。
思わず舌打ちが出てしまったが同時に、あることに気がついた。
「俺も傘、買えばいいじゃないか!」
ナイスアイディア、と、ぽんと手を打った。
なんで早く、この事実に気がつかなかったんだろう。
イルカ先生みたいに、どっかに置き傘して雨の日はイルカ先生を俺の傘に入れてあげれば、自然な流れで相合傘ができるの間違いなし。
傘はどちらかというと小さくて、大人二人が入ったら肩を寄せ合うくらいの大きさがいい。
それがいいそれがいい、と自分の考えに浸って、いざ帰ろうとしたら雨が降っていた・・・。
バッドタイミングだ。
この時期、何故こうも雨が降るんだろう。
全く、と溜め息を吐いていると背後に人の気配がした。
人間、一人の気配。
でも、それはここにはいないはずの人物で。
まさか、と思いながら振り返ると、そこにはイルカ先生がいた。
「イルカ先生!」
名前を呼ぶとイルカ先生は、びくっと体を揺らす。
顔色は昨日と、さほど変わっていない。
まだ、風邪が治っていないのだろう。
なんで、この人、ここにいるの?
その思いは、そのまま言葉に出た。
「なんで、ここにいるんですか?」
俺が一歩、イルカ先生に近づくとイルカ先生は一歩後退した。
「な、なんでって、仕事が終わったので家に帰ろうかと・・・。」
声は昨日みたいな掠れ声じゃなかった。
喉の痛みは治まったのかな。
でも・・・。
「今日、仕事だったんですか!休みじゃなくて?」
「はい、アカデミーで仕事でしたけど。受付けに用があったので帰りがけに寄ってきて。」
目の前のイルカ先生は俺の剣幕に、ちょっと驚いているようだった。
「だって、昨日、あんなに風邪引いて具合悪そうだったから俺は、てっきり休みだと・・・。」
休みだと自分で勝手に思い込んでいたんだ・・・。
がっくりと肩が下がった。
そうだよ、イルカ先生が大事な仕事を、ちょっとやそっとで休むはずはなかったんだ。
もう、この人は・・・と俺は自分の考えが甘かったのを認識して、それから言った。
「今日はイルカ先生を家まで送っていきますから。」
「え、でも・・・。」
「でももしかもありません。イルカ先生のことが心配なんです、俺。」
自分の気持ちをイルカ先生に伝えられて、ほっとした。
「イルカ先生の傍にいたいんですよ。」
なるべく優しい言葉遣いで諭すように言う。
「風邪を引いているのに無理しないでください。」
下を向いて俺の言葉を聞いていたイルカ先生は「はい。」と返事をしてくれた。
「じゃ、帰りましょうか。」
と俺は言ったのだが、外は雨が降っている。
どうしよう、イルカ先生を負んぶして全力失踪すれば濡れないかな?
風遁で竜巻を起こし雨を吹き飛ばして帰るとか・・・。
「あのう、カカシ先生。」
おずおずとイルカ先生が言ってきた。
後ろ手に持っていたものを出してくる。
「これ、使いますか・・・。」
それはイルカ先生の置き傘だった。
雨9
雨11
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