雨11
「昨日は修理に出していた、この傘を取りに行ったのでカカシ先生を雨の中、置き去りにしてしまいましたけど。」
バツが悪そうな顔をする。
だから俺を一緒に帰るのを断ったんだ。
拒絶された理由が分かって安心した、俺が嫌いだからとかじゃなかった。。
「もし、よかったらですよ?だってカカシ先生、この傘より、もっと綺麗な傘の方が似合いますし・・・。」
「綺麗な傘?」
「ほら、この前、紅先生と相合傘してたでしょう。」
「・・・・・ああ。」
そんなこと、すっかり忘れていた。
イルカ先生は自分の傘を大事そうに胸に抱えながら話す。
「綺麗な傘の下に立つカカシ先生と紅先生の立ち姿、雨の中、本当に絵になっていて、はっとしました。」
・・・思いも寄らなかった、イルカ先生の眼には、そう映っていたんだね。
「そしたら自分の、この古めかしい傘にカカシ先生を入れたのが悪いなと思って。この傘、壊れて何回も修理に出して使っているし、実はカカシ先生、この傘、かっこ悪いなと思っているけど断りきれなくて、この前、入ってくれたのかなと考えちゃって。」
「それだけ大切に使っているんでしょう、イルカ先生。」
大切にしている傘に入れてもらえて俺の方こそ嬉しい。
「イルカ先生が思っているようなことは一度も思ったことありません。」
きっぱりと言う。
「紅との相合傘は、あれは相合傘にカウントしません。」
何故ならば、ただの傘持ち役だっただけだから。
そう言うとイルカ先生は、くすっと笑った。
久々のイルカ先生の笑った顔が見れた。
和やかな雰囲気が流れる。
「さ、帰りましょう。」
俺が手を出すとイルカ先生は素直に俺の手を取ってくれた。
イルカ先生から傘を受け取って俺が開き、二人で中に入った。
これこそが真の相合傘をいうものだ。
俺はイルカ先生の家までイルカ先生を送っていった。
でも、なんとなく心配でイルカ先生が寝るのを見届けて帰ることにした。
イルカ先生、また、無理するんじゃないか、と思って。
風薬を飲み、布団に寝たイルカ先生が俺を見上げる。
「カカシ先生、帰っちゃうんですか?」
「イルカ先生が寝たらね。」
熱を診る振りをしながら額を撫で撫でするとイルカ先生は、風邪で気だるげな目で俺を見ながら言った。
「実は、俺、風邪とかで具合が悪くなったことが余りないので・・・。」
俺に手を伸ばしてくる。
その手を俺は握った。
「一人になると眠れなくて。具合が悪いけど一人で家にいるのが嫌で仕事に行ったんです・・・。」
不安そうに俺を見る。
それは、もしかして・・・。
ちょっと、どきどきする。
いや、すっごいどきどきする。
「俺に帰ってほしくない、ってことですか?」
不覚にも声が震えてしまった。
イルカ先生に俺の存在が求められているっていうことだ。
その事実に、ぶち当たると俺の心臓は血液が逆流しているのかを思うほど勢いよく全身を回り始める。
「・・・駄目でしょうか?」
弱っている声で俺にお願いしてくるイルカ先生は、こんな時に不謹慎だけど可愛かった。
「カカシ先生にいてもらえたら風邪が直ぐに治る気がするんです。」
ご迷惑かもしれませんけど、と頼りなげな、か細い声が聞こえる。
「そんな!迷惑だなんて!」
そんなこと全然ない。
寧ろ願ったり叶ったりで、嬉しさの余り俺は握っていたイルカ先生の手にキスしてしまった。
「あ・・・。」
イルカ先生は風邪を引いて、頭が朦朧として正常な判断ができないのか少しだけ笑う。
「そんなことしたら風邪がうつりますよ。」
それだけ言った。
「ですよね。あははは〜。」
誤魔化し笑いをした俺を見詰めながらイルカ先生の瞼は、ゆっくりと落ちていく。
うつらうつらし始めたイルカ先生は切れ切れに、こう言った。
「本当は・・・、カカシ先生に抱きしめてもらって眠りたいけど。・・・今、風邪引いているから。」
瞼は今にも閉じそうだ。
「・・・風邪が治ったら、抱きしめてほしい。・・・カカシ先生といると一番・・・安心します。」
そこで瞼は落ちて完全にイルカ先生は眠りに就いた。
俺はイルカ先生の告白を訊いて、ぽっと胸があったかくなる。
それってそれって、俺のことが好きだってことだよね!
まさか、イルカ先生から先に告白してもらえるとは思ってみなかったので、すごく嬉しい。
いや、これでカカシ先生なんて好きじゃありません、とか言われたら、その発言は即刻翻さすけどね、と物騒なことを考えつつ、俺はイルカ先生の寝顔を見詰めた。
「今日は帰らないでイルカ先生の傍にいますよ。」
寝ているイルカ先生に囁く。
「俺の愛の力で風邪なんて治してみせますから。」
早く元気になってね、とイルカ先生の瞼にキスをした。
これくらいなら風邪はうつらないだろう。
イルカ先生が起きたら、好きだと言って、好きだと言ってもらおう。
これからは俺たち二人の間に、たくさんの幸せが待っていると思う。
嬉しい。
思えば、雨が切っ掛けの縁だったな。
雨降りは悪いことばかりじゃない。
雨の後は綺麗な虹が見えるけど、それが、きっと俺にとってイルカ先生だったに違いない。
終わり
雨10
雨 余談
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