雨8
あれから数日後。
仕事や任務の都合でイルカ先生に会う機会がなく俺は寂しかった。
イルカ先生に会いたいなあ。
受付け所に報告書を出しに行ってもイルカ先生の姿はなく、がっかりする。
がっかりして家に帰ろう、と建物から一歩足を踏み出すと雨が降ってきていた。
ついてない・・・。
溜め息をついて濡れながら帰るか、と諦めた俺に後ろから声が掛かった。
「カカシ、傘に入っていく?」
振り返ると同じ上忍仲間の紅だった。
手には女性用と思われる傘を持っている。
白地に目の痛くなるようなピンクの花柄の傘だ。
・・・イルカ先生の傘みたいな、しっとりと落ち着いた雰囲気の傘がいいなあ。
その、いかにも女性用です、って傘には入る気にはなれない。
だったら濡れて帰るほうがマシだ。
断ろうと俺が口を開くよりも紅は言った。
「カカシの帰り道の途中に私の家があるでしょう。そこまで傘に入れてあげるわ。」
「・・・紅の家までってこと?傘を貸してくれないの?」
紅は、しれっとして答える。
「貸さないわ。返してもらうの面倒だもの。」
・・・・・・なんちゅー女だ。
くの一強い、ってのが俺の感想だった。
更に、こんなことも言う。
「ほら、入れてあげるんだから傘はカカシが持ってよ。あ、私が濡れないようにしてね。」
いつの間にか紅の傘に入って俺は帰ることになっている。
おまけに俺が傘を持つのか?
・・・まあ、それはいいけど。
私が濡れないようにって指示も頂き、もう既に俺は単なる紅の傘持ち役の気がする。
恐るべし、くの一。
でも、ここで断ったら後で怖いことになりそうだ。
止むを得ず、俺は紅の傘持ち役に徹することにした。
紅の傘を受け取り、ワンタッチの傘を開く。
ピンクの花柄は綺麗だけど、男の俺にとっては鬱陶しい。
仕方なく傘を差し紅を入れて雨の中を歩き出した。
ああ、隣のイルカ先生だったらなあ。
イルカ先生にだったら幾らでも傘を差してあげるのに。
ああ、イルカ先生、今どこにいるんだろう。
そんな俺の願いが叶ったのか、イルカ先生の姿が道の向こうに見えた。
雨の中、急いで走ってくる。
濡れないように胸に何かを抱えているところから、里内のお使いに出ていたのかもしれない。
隣にいた紅もイルカ先生の姿を見つけたようで「あら?イルカ先生じゃない。」と呟いている。
走っていたイルカ先生が、ふと、こちらを見た。
一瞬、俺と目が合う。
イルカ先生は雨でびしょ濡れになっていて、頭の天辺で結ってある髪も雨で重くなり垂れている。
ああ、この傘が俺のだったら、すぐさま入れてあげるのに。
走っていたイルカ先生が俺たちの近くまで来ると止まった。
雨がイルカ先生の体を伝って地面に落ちていく。
イルカ先生は驚きを含んだ、なんともいえない様な表情をしている。
視線を辿っていくと俺の隣にいる紅を見詰めていた。
紅が、どうかしたのだろうか・・・。
それよりも、そんなに雨に打たれたら体が冷えて風邪を引いてしまうのに。
早く濡れた服を着替えたほうがいいのに。
雨に濡れているイルカ先生に何もしてあげられないのが、もどかしい。
堪らず声を掛けた。
「イルカ先生、風邪を引きますよ。」
隣の紅も言う。
「お使いの途中なんでしょう、早く戻って濡れた服を着替えた方がいいわ。」
それから「傘に入れてあげられなくてごめんなさい。」と紅が続けるとイルカ先生は首を振って、何も言わず俺と紅の頭を下げる。
そして雨の中、走って行ってしまったのだった。
雨7
雨9
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