雨4
それ後、イルカ先生に傘を返そうとしたものの、俺は任務が入ってしまってイルカ先生に会うことは叶わなかった。
イルカ先生も風の噂では任務に行ったみたいだし。
早く会いたいなあ。
そんなことを思いながら今日も、せっせと任務に励む。
任務が終わればイルカ先生に会えるって自分に言い聞かせながら。
幸い、今日の任務は偵察というか密偵みたいなもので、とある敵地を視てくるだけだったので楽だと言ったら楽だった。
誰も傷つける必要のない任務が一番いい・・・、と言っても、そういう任務ばかりじゃないしなあ。
偵察の任務を終えて、さて里に戻ろうした矢先、先ほどから曇っていた空から雨が降ってきた。
ぽつぽつ、と小粒の雨が地上に落ちてくる。
マントを羽織っていた俺はマントに備えついていたフードを頭に被った。
木の葉のマントは防水性や防寒性が高いので、羽織っているだけで大抵の雨や雪は凌げる優れものだ。
雨が、だんだんと強くなってきたので本降りになる前に里に急ぐ。
里の大門が見えてきたところで、大門へ向かって歩いている人物が俺の目に飛び込んできた。
その人物は項垂れて頭の天辺で結っている髪も、それに倣って項垂れているのが遠めから見える。
とぼとぼ、と一人で歩いている姿は、ひどく頼りない。
だが、後ろ姿に何となく見覚えがあった俺は足を速めて、その人物に追いついて顔を覗きこんだ。
「・・・イルカ先生。」
その人はイルカ先生だった。
雨で濡れたイルカ先生の忍服は色が変わり雨が滲みこんで重そうで、額当ては首元まで落ちていた。
項垂れた顔に髪から雨の雫が伝わって次から次へと、ぽたぽたと垂れて止まることがない。
俺の声にイルカ先生は俯いていた顔を上げた。
「その声は・・・。カカシ先生?」
俺を見て瞬かせた目から、睫に溜まった雨が頬を伝って零れ落ちる。
イルカ先生が、一瞬、泣いているような錯覚に俺は陥った。
いつもの明るさはなく冴えない顔色で、くたびれているように見えたから。
「ええ、そうです。」
マントのフードに隠れていた顔を出すとイルカ先生は微笑を浮かべたが、それは直ぐに消えた。
「・・・任務だったんですか?」
「ちょっとね。イルカ先生もですか?」
「はい。そうなんです。」
イルカ先生は任務のことを口にしたくないのか俺から視線を逸らした。
雨は激しくなってきていて、イルカ先生の体を容赦なく雨粒が叩いては落ちていく。
はあっと口から疲れたような吐息を漏らした、イルカ先生の息は白かった。
雨で体が冷たくなって体温が下がっているのかもしれない。
自分のマントをイルカ先生に掛けようかとも思ったのだが、こんなにも濡れてしまったイルカ先生に今更、俺のマントを渡しても余り、防寒の効果はないように思える。
でも、こんなイルカ先生を放っておくのは嫌だ。
「イルカ先生、報告書はこれからですか?」
「いいえ。」とイルカ先生は首を振った。
「報告書は一緒に任務に行った別の仲間が先に里に帰って出しているはずです。俺は、後処理をする方だったので・・・。」
言葉を濁す。
「そっか。」
なら、話は早い。
俺も今日の任務は報告書は不要、後で口頭で火影さまに報告するつもりで急ぎじゃないし、だから・・・。
「イルカ先生。」
マントの中から腕を伸ばして俺はイルカ先生の手首を掴んだ。
その手首は驚くほど冷たい。
氷のようだった。
これでは、幾ら鍛えている忍者でも体によくない。
早急に体を温めないと。
俺が見たところ、イルカ先生の今の様子では自分なんかどうでもいい、というような投げやりな感じが漂っていて、ひどく心配になった。
自分の家に帰っても、ちゃんと体を温めて、飯を食べるのかどうかも怪しい。
意を決した俺は掴んであった手首を、そのままにイルカ先生を自分のマントの中に引き入れた。
イルカ先生から少し抵抗があったものの、そのまま腕に絡め取る。
たちまち、濡れたイルカ先生の体から俺の忍服へ冷たい雨水が滲みこんできた。
「俺の家に行きましょ。」
「えっ・・・。」
突然の俺の提案にイルカ先生は、ぎょっとして体を強張らせる。
「大門からなら、俺の家の方が近いし。」
「何、言って・・・。」
イルカ先生から戸惑いが伝わってくる。
「いいからいいから。この前の恩返しです。」
この前、俺を雨宿りさせてくれたことのね。
恩返しは食事を奢ってもらったので、既に終わっています、とイルカ先生の俺の腕の中で主張していたけど、俺は構わずイルカ先生を連れたまま自分の家へと急いだのだった。
雨3
雨5
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