雨 余談
朝、目覚めると何かに拘束されていた。
動くことができない。
ぎゅっと体に何かが絡まっていて締め付けられているような感じだ。
でも、とってもあったかくて安心する温かさだ。
手で押し返そうとしたのだけれど片手は体と一緒に絡められていて動かず、もう片方の手は・・・・・・。
もう片方の手は誰かと繋いでいた!
繋ぐっていうより、俗に言う指が一本一本絡んでいる恋人繋ぎとかいうやつで。
誰だ、と一瞬、焦ったのだが気を落ち着けると寝る前のことが徐々に思い出されてきた。
そうだ・・・。
俺、風邪を引いてしまったんだっけ。
それでカカシ先生に、カカシ先生に・・・。
そこまで思い出して、かーっと体が熱くなる。
この熱さは風邪のよる発熱とかじゃなくて、恥ずかしさによるものだ。
俺、寝る前にカカシ先生に何て言った?
ええ、自分?と自分を問い詰める。
「傍にいて。」とか「帰らないで。」とか言ったような気がする。
なんとまあ、砂でも吐きそうな言葉だ。
風邪で弱っているにしても、これは親か、もしくは恋人にしか言わないような言葉なんじゃなかろうか。
なんで、あんなこと言ったんだ!って自分を叱りつけたくなった。
子供みたいじゃないか、大人なのに。
今、自分を何歳だと思っているんだって。
心臓が勝手に、どきどきと高速で動いていた。
昨日のことを思い出したのもあったけど、そこから導き出される結論から今の自分の状態が、どうなっているのか想像できたからだ。
多分、と俺は熱くなった頭と体で考えた。
この体に絡まっている何かってカカシ先生の腕じゃないのか?
そんでもって、あったかいのはカカシ先生に抱きしめられているからで・・・。
俺の頭がカカシ先生の胸に押し付けられてるような体制になっている気がする。
片方の手が握られているのは俺が寝る前にカカシ先生に握っていてほしいと手を伸ばして、それから、ずっと律儀に握っていてくれたのに違いない。
「・・・優しい人だな、カカシ先生。」
思わず呟くと頭の上から低い声がした。
「優しいですか、俺。」
驚いて顔を動かすとカカシ先生の顔があった。
や、っぱり・・・。
想像が当たったことで再び、胸が高鳴った。
実は真実が知りたくなかったんだよな・・・。
だって、そこには身悶えるような真実しか待っていないからだ!
カカシ先生は抱きしめる腕は、そのままに俺を自分の胸の高さから同じ目線まで引っ張り上げると、もう一回言った。
「俺って優しいですか?イルカ先生。」
そんなことを言って、こつんと額をぶつけてくる。
間近に見るカカシ先生の顔は覆面をしていなくて、カッコいい顔が丸見えだった。
そのカッコいい顔が、にこりとする。
カッコよかった・・・。
うっと言葉に詰まった俺は、咄嗟に言った。
「あ、あの、ええっと。あ!風邪が治ったら抱きしめて眠ってほしいって言ったのに、約束破りましたね。」
・・・違う、そうじゃない!
言うこと違うだろ、俺〜。
「ああ、それだったら。」
相変わらずカッコいい顔でカカシ先生は言う。
「昨日、イルカ先生が寝てから暫く様子を見ていたら、夜半過ぎには症状も落ち着いてきて通常の状態に戻ったので、抱きしめてもいいかな〜と思ったんですよ。本当に風邪の引き始めだったみたいでしたから、早めに休養取ったのが良かったんでしょうね。」
だから、抱きしめて眠ったんです、約束は破っていませんよ、と。
「そ、そうですか。」
そう言われると言い返す言葉がない。
「ねえねえ、それよりも。」
カカシ先生が内緒話でもするように耳元に口を寄せてきた。
こんなに近くにいるのに・・・。
「イルカ先生、俺ね。」
「はい?」
耳に聞こえる声が甘く響くのは気のせいだろうか。
その甘い声でカカシ先生は言った。
「俺ね、イルカ先生のことが好き。」
・・・・・・・・・好き!
「そう、イルカ先生のことが好きなんです。」
・・・・・・・・・好きって、どうして?
「いつの間にか好きなっていました。イルカ先生の人柄に惹かれたの。勿論、可愛い顔も大好きですよ。」
・・・・・・・・・ほんとに?
「本当ですよ。嘘じゃありませんからね。」
俺の心を読んだかのようにカカシ先生の言葉が次々と続いた。
カカシ先生の顔が正面に戻っていて迫ってきたかと思うと唇が触れる。
キスだ!
そっと優しくされたキスは抱きしめられるのと同じくらい安心できて、あったかかった。
なんで?
カカシ先生は、ふっと瞳を揺らして俺を見ると微笑んだ。
見透かしたように笑っている。
「戸惑っていますね、イルカ先生。でも、認めてしまいなさいよ。」
「認めるって。」
「俺のことを好きだってことです。」
「それは・・・。」
それは、どうだろうか・・・。
俺が黙っているとカカシ先生の笑っている顔が怖くなった。
笑っているのに怖い。
「俺のこと警戒もせずに最初に泊めた夜から一緒の布団で寝たり、食事に行った帰りに俺のこと恋人のようだと言ったりして。抱きしめられると落ち着いて安心するんでしょう?それって俺に心を許している、要するに好きだっていうことです。」
・・・そうなのかな。
「だから風邪、つまり病気で気弱になった時に一番、傍にいてほしいのが俺だったんです!」
そうかもしれない。
「深層心理では俺のこと、好きなんだけどイルカ先生は、それに気がついていないんです!」
宣言されてしまった。
でも、まあ、そうなんだと思う。
カカシ先生でなければ、きっと今までの発言や行動はなかった。
自分でも哀しいことに恋だの愛だのについて鈍いのは解っているし。
だから俺は言ってしまった。
「そうですね。俺もカカシ先生のことが好きなんだと思います。」
言うのは少々、恥ずかしかったが思い切って言ってみた。
俺の言葉を聞いたカカシ先生が、ぱああっと明るくなる。
「ホント?」
「はい。」と頷くと、ぎゅーっと抱きしめられた。
抱きしめられるのは心地いい。
俺もカカシ先生を抱き返した。
誰かに抱きしめられるのも、誰かを抱きしめるのも心を満たす気持ちのいい行為だ。
これが好きってことなのかな。
・・・と雰囲気に酔っていた俺の目に時計の針が映った。
時刻は、もう出勤時間になっている。
「やばい!仕事!」
風邪が治ったのなら仕事に行かないと!
大慌てで布団から飛び起き、急いで身支度を終えてカカシ先生は?と見ると既に身支度終えて立っていた。
「一緒に出勤しましょう。」と言われる。
「遅れそうなので急ぎますけどいいですか?」
「いいですよ。手を繋ぎますか?」
差し出された手を俺は握った。
「人がいたら離してくださいね。」
念のため、言っておく。
カカシ先生からは「は〜い。」と行儀よく返事を返ってきた。
家を出てから早足でアカデミーを目指す。
「ねえ、イルカ先生。」
カカシ先生が忙しいのに話しかけてくる。
「俺のことカカシ先生じゃなくて、カカシさんって呼んでほしいなあ。」
「なんでですか?」
「恋人だから。」
「・・・分かりました。」
俺のことはイルカ先生と呼ぶみたいだけど。
それでいいかもなあ、呼び捨てとか、さん付けされたら照れちゃうかも。
アカデミー前でカカシ先生と別れて仕事に向かう。
繋いだ手は結局、分かれる直前まで繋いでいた。
気持ちが、とても明るく気分がいい。
仕事も、いつもより捗った。
好きな人ができると、こんな感じなのかなあ。
世界が眩しく見える。
夕方、カカシ先生は態々、アカデミーまで迎えに来てくれた。
「雨が降っていましたから。」
カカシ先生の手には傘があった。
そういえば俺の置き傘は家に忘れてきてしまったんだっけ。
「俺も傘を買ったんですよ。」
照れたように笑っている。
「一緒に傘に入っていきましょう。」
言われて入った傘は男性二人にしては小さめで傘の中で、お互いの肩が触れてしまう。
カカシ先生となら、こんな傘もいいかと思った。
好きな人と同じ傘の下は、うきうきする。
雨の日が、ほんの少しだけ楽しみになった俺だった。
雨11
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