雨宿り4
カカシを見送って窓の外を見る。
窓から見た空は雲が多く、昼間なのに暗くなっていた。
雨が降り出しそうな気配もする。
大丈夫かな、カカシさん。
イルカは密かにカカシの身を案じたのだった。
午後からはイルカの体調は良かった。
カカシがくれた薬を飲んでから喉の痛みも治まり、体のだるさも抜けた。
「上忍の薬ってすごいなあ。」
薬の威力にイルカは、びっくりしている。
「こんなに調子が良くなるなんて。」
体調が回復したイルカは仕事に精を出したのであった。
イルカが、それを言われたのは夕方だった。
帰ろうとしていた間際。
「イルカ、ちょっと頼みがあるんだけど。」
「ん、なんだ?」
快調に仕事をしていたイルカに同僚が言ってきた。
「演習場のある山、分かるか。」
山の位置を説明されてイルカは頷いた。
「うん、分かるよ。」
「その山にさ。」
同僚が言うには午前中、その山で演習を行ったのだが忘れてきた物があるということだった。
「さっき練習用のクナイと擬似起爆札の数を確認のために数えたら、幾つか足りないのに気づいてさ。」
アカデミーの備品は皆が大切に使っており、定数が決められているので足りなければ困るものだ。
「そっか、それは大変だな。」
「で、だな。」
同僚はイルカに、ぱんと両手を合わせて拝むような姿勢になった。
「俺、今日はこれから夜勤なんだ。イルカに、こんなこと頼むのは気が引けるんだが・・・。」
演習をした山まで言って備品を回収して来てほしいとのこと。
「いいよ。」
イルカは笑って言った。
「俺、明日、休みだし。」
「すまん。」
同僚は深く頭を下げた。
「備品は休み明けにでも持ってきてくれればいいから。」
そう言って足りない備品の種類と数をイルカに教え「頼む!」と、もう一度イルカを拝んだのだった。
同僚に頼まれ事をされたイルカは、その足で演習が行われた山へと向かった。
空を見上げると黒い雨雲が空一面に広がっており、昼間より雨が降りそうな気配が濃厚だ。
「雨具、持っていった方がいいかなあ。」
イルカは迷った。
「でも、早く終わって帰ってこれそうな感じもするし。」
山に行ってアカデミーの備品を素早く回収すれば家に帰れる。
「まあ、いいか。」
体調も優れているし頼まれた事も、すぐに終わるに違いない。
イルカは、そう判断して雨具を持たずに出発した。
カカシから貰った薬はアカデミーの机の引き出しに入れたままで。
せめて薬だけでも持っていけばよかった、と後悔する羽目になるとも知らず。
山に着いた時、まだ雨は降っていなかったが空気が、だいぶ湿り気を帯びていた。
気温も下がってきている。
「・・・ヤバイ、雨が降るな、これは。」
イルカは同僚から言付かったとおり、手際よく備品の回収をしていく。
程なくして備品は総て回収できた。
後は、これをアカデミーへ持っていけばいいだけで。
ほっと一息つく。
だけども息を吐き出したイルカは、気が緩んだのか自分の体調の変化に気がついてしまった。
体がだるい、喉も痛い。
頭痛もする。
カカシから貰った薬の効き目が切れたらしい。
やはり継続して服用しなければ薬の効果は出ないらしい。
カカシは三日間服用するようにと言っていた。
良くなったと思ったのは、あくまで一時的なものだったのだ。
気温が下がり寒くなってきたと思うのと同時にイルカも、また寒気を感じた。
ぞくぞくとした悪寒が背筋に走る。
「・・・寒い。」
両腕で自分を抱きしめるようにしたイルカは大きな木の根元に座り込んでしまった。
ぶるぶると体は震え、止まらない。
本格的に風邪を引いてしまったに違いない。
イルカにも、はっきりと分かった。
この場から早く立ち去って家に帰ろうと思っているのに体が動かない。
自分が想像していたよりも風邪が悪化して体が言うことを利かなくなっていた。
ぽつりぽつり。
雨も降り出してきた。
雨粒が木の葉の当たる音が聞こえる。
辺りは暗闇に覆われていて人の気配は皆無だ。
座り込んだイルカは膝を抱えて蹲る。
気休めだったが少しでも体温を逃がさぬようにとの処置だ。
大きな木は葉が生い茂り、かろうじて雨は落ちてこなかった。
少しだけ、ここで雨宿りして・・・。
多少、休めば動けるようになるかもしれないし。
僅かな望みにイルカは賭ける。
こんな時に思い出されるのはカカシのことだった。
カカシ先生から、せっかく薬を貰ったのに。
心配されて忠告もされたのに全然、生かされていない。
心細さも相成ってイルカは呟いてしまった。
「カカシ先生・・・。」
「なーに?」
「ごめんなさい・・・。」
「どうして謝るの?」
「だって俺・・・。」
俺は誰と話しているのだろう?
ぎょっとして顔を上げると目の前にはカカシが立っていた。
雨宿り3
雨宿り5
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