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雨宿り2



その日。
カカシに忠告されたのにも関わらず、結局、イルカは残業で帰るのが遅くなってしまった。
帰り道は暗く冷たい風が吹いている。
「寒い。」
イルカは、ぶるっと体を振るわせた。
なんとなく寒気がする、ような気がする・・・。
あったかい風呂に入って、あったかくして寝よう。
早く家に帰りたい。
イルカは足を速める。
あったかい布団が無性に恋しかった。



次の日の朝、イルカは喉の痛みで目が覚めた。
昨夜、家に帰ってから、あったかい風呂に入って休んだのだが生憎と家には風邪の薬がなく、薬を飲まずに寝てしまったのだ。
痛む喉に顔を顰めてイルカは呟く。
「寝る前に薬を飲まなかったからかな・・・。」
声は出るのだが喉は痛い。
咳は出ていないのでイルカは仕事へと行くことにした。
忙しい時期なので休んではいられない。
少しくらい体が辛くても頑張らなくては。
それに職場へ行けば誰かが風邪薬と持っているかもしれないし。
そしたら分けてもらって薬を飲めばいい。
飲んだら良くなるだろう、とイルカは軽く考えていた。



今日は午前中は受付業務を任されていた。
朝、いつも通りに任務の依頼書を手渡していく。
受付所はばたばたとしていて忙しく、イルカは風邪薬のことを誰にも言い出せずにいた。
相変わらず、喉は痛い。
朝の混雑が一段落したら医務室へでも行くか、と考えていたら次の人に、ぬっと手を出された。
手には見覚えのある指なしの手袋をしている。
カカシ先生?
座ったまま、見上げると確かにカカシであった。
カカシは何やら不機嫌そうにイルカを見つめている。
怒ってる・・・。
覆面から出ているカカシの片目は、やや、つり上がりイルカを睨むように見ていた。



そんなカカシに任務の依頼書を渡しながらイルカは思わず訊いてしまった。
「どうかなさいましたか、カカシ先生。」
何か受付で不備でもありましたか、と。
なのにカカシは更に不機嫌そうになっただけであった。
どうしたらいいだろう。
平静を装ってはいるもののイルカは心中、焦ってしまう。
俺、カカシ先生に何かしたかなあ。
考えても思いつかない。
どうしよう、理由を訊いて謝った方がいいのか・・・。
でも理由を話してくれないかも。



カカシは受け取った任務の依頼書を折りたたみポケットに入れると、じろりとイルカを睨んできた。
やはり怒っているらしい。
とりあえず謝ってしまおうか、とイルカが思った時だった。
カカシがイルカの顎を掴んで上を向かせた。
掴まれた顎は見かけほど力も入っておらず、どちらかというと痛くないようにと気を遣われた掴まれ方だったのだが、朝の受付所にはたくさんの人がいて一様に皆、カカシの行動に驚いていた。
中忍が上忍に何かをされている、しかも上忍は、あのはたけカカシだと。
どよめく受付所を余所にカカシは顎を掴んだイルカの顔を、じっくりと眺めていた。
二人の顔は近く、お互い見つめあう形になっている。
「あ、の・・・。」
イルカはカカシの意図が分からず動くこともできず、ただただ、されるがままだ。
逆らうこともできず振り払うこともできずにいる。
散々、イルカの顔を眺めたカカシは、そうっとイルカの顎から手を外した。
掴んでいた顎を労わるように、ちょっと撫でて。
優しく撫でてから。
そして、そのまま何も言わずに受付所を出て行ってしまった。



「なんだったんだ、あれ?」
一部始終を見ていた同僚に訊かれたがイルカは答えることができない。
むしろ、自分の方が訊きたかった。
あれは、一体なんだったんだ?
何が何だか、さっぱり分からなかった。



午前中の受付業務を終えたイルカは午後からはアカデミーで業務であった。
一応、風邪薬は受付業務の間を見て飲んだのだが効いているのかいないのか。
体が少しだるくなっていた。
いよいよ、本格的に風邪を引いてきたのかな・・・。
そういえば昼も食欲がなくて、いつもの半分くらいしか食べられなかった。
喉の痛みも増している。
気休めにのど飴なんて舐めているけれど、喉の痛みはなくならない。
うーん、どうにかして良くならないかな。
今日、一晩寝れば治るかなあ。
つらつら考えながら廊下を歩き、角を曲がったところでイルカは足を止めてしまった。
昨日と同じ場所で。
そこには、またカカシがいたのだ。




カカシは朝、受付所で見たとおりの不機嫌そうな顔で壁に寄りかかっていた。
腕を組んで。
しかし昨日と違うところが一点あった。
何やら小さな袋を持っていた。
・・・誰かと待ち合わせ?
昨日に引き続き、今日もカカシが自分を待ち伏せていたなんて夢にも思わないイルカは一礼してカカシの前を通り過ぎようとした。
「ちょっと!」
いらっとした口調のカカシに呼び止められしまった。
「イルカ先生!」
「は、はい。」
どきりとしながらイルカは答える。
怒っているカカシは、ちょっと怖い。
つかつかとイルカの傍に来たカカシは、きっとイルカを睨んだ。
「昨日、俺が言ったとおりにしなかったでしょ。」
「え、言ったとおりって・・・。」
「風邪の引き始めだから早く帰って休むように言ったでしょう?」
「あ。」
「なのに、今日、見たら完全に風邪を引いて悪くなっているし。」
くどくどとカカシは言う。
「喉も少し腫れているし顔色も冴えないし昨日より体は熱っぽいし、昼飯は碌に食べないし。昨日の夜、イルカ先生の様子を見に行けばよかった。」
どうやらカカシはイルカの体調を心配しているらしい。
受付所で顎を掴んでまで顔を見たのは体調を診ていたようなのだ。
厚意が分かり難い人だなあ・・・。
そんなカカシに、ほんのりと好意を抱いたイルカであった。




雨宿り1
雨宿り3




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