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雨宿り1



朝の受付所。
イルカは任務の依頼書を手渡すために受付にいた。
朝の受付はひと際、混雑するので手伝っていたのだ。
混雑する朝の受付が終わったらアカデミーへと戻って、通常の業務、授業をすることになっている。
イルカは手際よく任務の依頼書を手渡して「おはようございます」とか「お気をつけて」と笑顔で対応していた。
たいていの人は、そんなイルカから任務の依頼書を受けて取る際に何か一言返してくれるのだが、中には無言で依頼書を受け取る者もいる。
それが上忍のはたけカカシであった。
最初の頃は薄らと会話した覚えがあるのだが、いつしか、それはなくなってしまっていた。




カカシはイルカが受付所にいる時は必ずイルカから任務の依頼書を受け取り、任務の報告書も同様に出す。
それなのにイルカとは目を合わそうともせず、特に会話もしたことがない。
その日の朝も、そうだった。
イルカから任務の依頼書を渡されたカカシは一言も話さなかった。
「おはようございます、カカシ先生。」
その言葉にもカカシは僅かに頷いただけだ。
「これが今日の任務の依頼書です。」
依頼書を差し出すとカカシは片手はポケットに入れたまま、もう片方の手で受け取る。
乱暴に受け取ったりせず、どちらかというと、ゆっくりとした動作で受け取っていた。
なんとなくだが少しでもイルカから依頼書を受け取る時間が長引くような感じで。



その日は、いつもとちょっとだけ違った。
依頼書を渡す際にカカシの指先とイルカの指先が少しだけ触れた。
ほんの少しだけ。
指なしの手袋から出ているカカシの指先とイルカの指先が微かに触れ合ったのだ。
触れ合った瞬間、カカシは明らかに、びくっと肩を震わせて何故か、ひどく驚いたような顔でイルカを見た。
「あ・・・、すみません。」
慌ててイルカは謝る。
カカシの不興を買ったのかと思ってしまった。
それでなくても上忍はデリケートな存在だ。
五感が優れて並外れた戦闘能力を有する、普通の域を逸脱した者にとっては他人と触れ合うことが苦痛になるのかもしれないこともある。
イルカは、そのように考えた。



でもカカシは。
イルカと触れ合った指先を大切そうに眺めて。
何やら、うっとりとした表情のまま受付所を出て行ってしまった。
そんなカカシを見送ってイルカは呟く。
「・・・どうしたんだろ、カカシ先生。」
てっきり文句でも言われるかと思ったのに。
イルカは拍子抜けしてしまった。
いつも何も言わないのは俺のことが気に入らないからじゃなかったのかなあ。
自分とは口も利いてくれないので、そんな風に思っていたのだが。
もしかして違うのかも・・・。
違っているのなら。
もう少しだけカカシ先生と仲良くなれたらいいなあ。
イルカは小さな可能性を考えてしまうのであった。



朝の受付所が一段落するとイルカはアカデミーへと向かった。
これからアカデミーで授業をして夕方は、また受付所を手伝うことになっている。
最近、忙しいなあ。
疲れが溜まっていた。
それに季節の変わり目で体調を崩しやすい。
体調管理には気をつけないとな・・・。
あれこれ考えながら廊下の角を曲がる。
しかしイルカは、ぎょっとして足を止めてしまった。
カカシ先生!
廊下の角を曲がった先には腕を組み、廊下の壁に寄りかかったカカシがいたのである。



どうして、ここに。
任務に行ったはずじゃなかったのか・・・。
カカシは壁に寄りかかったまま、一点を見つめ動かない。
もしかして、さっきの受付所でのことで苦言を呈しにしたのか。
カカシの顔には何の表情も浮かんでいないので怒っているのか、それとも機嫌が良いのか悪いのかさっぱり解らない。
どうしよう。
立ち止まったまま、イルカは動けない。
カカシ先生の前を横切らなきゃ、アカデミーへは行けないし。
いや別のルートから遠回りして行けないこともないけど。
でも、あからさまにカカシ先生と避けるような行為は避けたい・・・。
何が原因かは不明だけど、これ以上カカシ先生と仲がこじれるようなことにはなりたくないしなあ。
何か言われたら、その時はその時だ。
覚悟を決めたイルカは大きく息を吸い込むと、てくてくと歩いてカカシの前を通り過ぎようとした。
だが、その時。



「ちょっと待ってよ。」
カカシに呼び止められてしまった。
「なんでしょう?」
どきどきしながらカカシの方へ振り向くと、おもむろにカカシは、いつもしている手袋を外すと直にイルカの顔に触れてきた。
そっと頬を撫でられる。
触り方は極めて優しく思わず目を閉じて、その安心感に身を委ねてしまうような、そんな触り方だった。
何回かイルカの頬を往復した手は最後に、するりとイルカの頬を撫でると離れていった。
触り終えてからカカシは溜め息交じりに言った。
「やっぱり・・・。」
「やっぱり、なんですか?」
カカシの言い方にイルカは首を傾げる。
呼び止められてカカシに、いきなり顔を触られて抵抗しない自分にも首を傾げていた。



「やっぱりイルカ先生、熱っぽいですよ。」
「え・・・。」
「さっき、受付所で指が触れた時、いつもより熱いなと思ったんです。」
「いつもより、って。」
カカシはイルカの平均的な体温を知っているのだろうか。
「ここんとこ、急に寒くなりましたからね。」
イルカはびっくりして、目をぱちくりとさせていた。
喋るカカシに驚いている。
カカシ先生の声が聞こえるよ・・・。
「きっと風邪の引き始めですよ。イルカ先生、仕事も忙しくて疲れ気味ですし。」
俺の名前を言っている、ってか忘れていなかったんだ・・・。
そのことにもびっくりしてしまう。
名前を呼ばれるなんて初めて会った時以来じゃなかろうか、と。
「とにかく、今日は仕事を早めに終えて家に帰って休むことです。」
カカシはイルカに強めに言って「いいですね」と念を押す。
「薬も、ちゃんと飲むんですよ。」
それだけ言うと、すたすたと行ってしまった。



「カカシ先生。」
一人取り残されたイルカは呟く。
「俺のこと心配して、わざわざ、ここで待っていてくれたのか。」
いい人だなあ、とイルカは思ったのだった。




雨宿り2



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