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憧れの人9



そして、その後、イルカは口を閉ざして何も言わず、カカシも聞かず仕舞いだった。
どちらかというとイルカの様子を見て言及できなかった方が正しい。
故意ではないとはいえ、自分の発言でイルカが忘れていた辛い記憶を呼び覚ましてしまったからだ。
イルカ自身のトラウマとなっていて忘れていた記憶を思い出させるようなことになってしまってカカシは悔やんだ。
以前に過去の失恋のことを話してくれた時は明るく、さっぱりとして特に何も感じなかったのだが・・・。
忘れていただけだったのか・・・。



沈むイルカは、ふとカカシを見た。
カカシがイルカを押し倒したままになっているので、下からカカシを見上げる体制だ。
「ごめんね、カカシさん。」
「・・・何がです。」
「暗い話をしてしまって。」
あははは、とイルカは振り切るように笑った。
「もう終わったことですからね、いいんですよ。気にしないでください。うっかり、思い出してしまいましたけど・・・。」
まるで自分に言い聞かしているようだった。



でも、とカカシは思う。
イルカは過去のことを思い出してしまって不安がっている。
どうやってかイルカの不安を消し去る方法はないものか・・・。
暫く思案していたカカシは、とある術に思い至った。
「イルカ先生、いい方法があります。」
にこにこしながら、押し倒しているイルカを抱き起こす。
「いい方法?」
不思議そうな顔をしているイルカを前にカカシは正座すると説明した。



「そう、あのねえ。この術は、ある部分の記憶を自分の頭の中で隔離してしまう術でね。」
カカシは印を組み始めた。
「ややこしくて面倒で、ちょっとアレだから、よっぽどじゃないと使わないんですが・・・。」
印を組んでいるカカシの術式はイルカも見たことがないものである。
でも、ちょっとアレって何だろう?
「キーワードを指定して、そのキーワードに関する記憶を、例えて言えば『箱』みたいなものに入れてしまうんですよ。」
「へええ。」
そんな術があったのかとイルカは感心した。
「面白い術があるんですねえ。」
「で、この場合のキーワードは『イルカ先生』に設定して、イルカ先生に関する記憶を『箱』に入れて・・・。」
何やらカカシが小難しい印を組む。
「あ、イルカ先生、今、ここで俺の名前呼んでくれますか?」
「え?あ、はい。カカシさん・・・でいいですか。」
「いいです。」
名を呼ぶと何になるのだろう? イルカが興味を持ってカカシを見ていると印を組むのが終わったらしく、ぽんとカカシの手の中で白い煙が上がった。



目を閉じていたカカシだったが、ぱちと目を開くと「完了です。」とイルカに言った。
「イルカ先生に関する記憶は俺の中で隔離できました、『箱』に。そして箱を開ける『鍵』となるのが、イルカ先生の言った俺の名前になります。さっき、名前を呼んでくれたでしょ、あれです。」
「つまり?」
「俺が記憶を失くしてもイルカ先生が俺の名前を呼んでくれれば、イルカ先生に関する記憶は俺の中で復活するんです!」
にこーっとカカシは笑う。
「これで、いつ記憶を失くしても安心でしょ。」
「はあ、まあ。」
果たして本当に安心なのか、判断がつかずに曖昧にイルカは頷いた。



しかし、落とし穴はあった。
「でも、この術って、もし記憶を失くして本来の記憶が元に戻った後でも、術で隔離した記憶だけは戻らないんですよねー。」
「えっ!どういうことですか?」
驚いてイルカが訊くとカカシは、しれっとして答える。
「イルカ先生が俺の名前を呼んでくれなければ、俺の中でイルカ先生に関する記憶は決して戻ることはないんです。」
「・・・それって、もしもですよ、もしも。」
ごくりと唾を飲み込んだイルカが、ある可能性について尋ねた。
「仮定の話として、カカシさんが記憶を失くした時に俺が死んでしまってカカシさんの名を呼ばなかったら、どうなるんですか?」
「イルカ先生に関する記憶は俺の中で隔離されたまま、要するに一生封印されたままになります。」



しん、と部屋の中に沈黙が落ちた。
イルカの背筋に嫌な汗が流れる。
その術って、結局、俺がカカシさんの名前を呼ばなかったら、ずーっとカカシさんは俺を忘れたままってことなのか・・・。
それって、すごく嫌じゃないか?
「カカシさん、直ぐに術を解いてください!」
イルカはカカシに詰め寄った。
「そんな術、使わなくていいですから。」
「でも、この術、未完成でね。」
「・・・未完成って、あの。」
「解術方法、まだ確立されていないんですよ。」
さらりとカカシは白状してしまう。
イルカの考えていることには行き着かないらしい。
のんびりと「あ、『鍵』は名前を呼んでもらうことじゃなくて、キスしてもらうことにすればよかったかなあ。」なんて言っている。



術を使う時、最初に言った、ちょっとアレとは、このことだったらしい。
未完成で解術方法がない、ということを指してしたのだ。
だから、よっぽどじゃないと使わない、っていうか使わないのが普通じゃないのか・・・。
だがカカシがイルカのためを想って使ってくれたことを考えると強くは出られず、どうしたもんか、と溜め息が出てしまうイルカであった。





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憧れの人10





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