憧れの人4
次の朝、イルカは台所から聞こえる物音で目が覚めた。
上半身を布団から起こし、音がする方を見るとカカシが朝食の準備をしている。
「あ、イルカ先生起きたの?おはよう。」
カカシから眠そうな声が聞こえた。
「おはようございます。」
答えながら台所に行くと既に朝食が出来上がっていた。
「どうしたんですか、こんなに朝早くから。」
いつも、朝のカカシは寝覚めが悪く、イルカより早く起きることなど任務意外では今までなかった。
「あ、もしかして今日は任務で早出とか?」
思いついた事を訊くとカカシは首を振る。
「いえ、休みですけど、眠れなくて目が覚めちゃったんですよ。」
「眠りが浅かったんですか。」
イルカの気遣いにカカシは苦笑いをした。
「まあねえ。でも、それは自分でも悪いと思って反省しているのでいいんです。」
「・・・はあ。」
カカシの言うことは、よく分からなかったが「朝飯食べましょう。」と促されたのでイルカはカカシと共に朝食を食べ始めた。
朝食の席でカカシは言った。
「俺はですね。最初に、いっぺんにしようと思っていたのが間違いだと気がつきました。」
「なにがです?」
カカシは溜め息混じりの息を吐いた。
「昨日のことですよ。」
「ああ、昨日の・・・。」
昨日のって、なんだろう?とイルカは心の中で呟いたが黙ってカカシの話を聞くことにした。
自分が口を出すと、ややこしくなりそうだったから。
「イルカ先生は俺のこと、一応恋人として見てくれていますけど、親友という方に重きを置かれているような気がして・・・。」
確かに、親友の感覚の方が近いかもしれない。
「もっと恋人としてアピールするべきだったかな、と。」
恋人のアピール・・・。
「俺、イルカ先生に告白するのも触れるのもキスするのも昨日、その・・・・・・。密接な関係になる時に一度にしようとか、まあ、それがロマンチックかなと色々夢見ていたんですけどね。」
だから、付き合ってから全部我慢していたのに、とカカシは、ごにょごにょと言っている。
そういえば、そうだなあ、とイルカはカカシと付き合ってからの、今までを思い出した。
所謂、お付き合いを始めてからキスも抱擁もなかったけ。
昨日、カカシさんに初めて抱きついたんだよなあ。
抱きつくと、すごく気持ちが落ち着いた、とイルカは漠然と思った。
でも特に何もなくても自然だ、と思っていたので恋人のアピールとやらがなくても少しも疑問を抱かなかったが・・・。
しかし、カカシの話を訊いたところで疑問が沸いたので、率直に訊いてみた。
「ねえ、カカシさん。」
「はい?」
顔を上げたカカシはイルカを見る。
疲れた顔をしていた、どちらかというと精神的なものによる疲れかもしれない。
「恋人同士のキスって、いつ、どこで、どんな風にやるんですか?」
「・・・・・・え。」
イルカの質問にカカシは口に含んだ茶を噴出しそうになっていた。
噴出すのは、どうやら堪えたものの疲労感は、どっと増したらしい。
「・・・・・・そんなの決まってないですよ。」
「そうなんですか。」
「はい。」
朝からカカシは、ぐったりと疲れてしまったようだった。
「俺、今日は休みなので、また寝ます。」
「分かりました。」
食べ終わった食器を洗い場に下げてイルカは元気よく出勤の準備をする。
「行って来まーす。今日は遅くなりますけど、先に寝ていてくださいね。」
にこっと笑うと手を振って、仕事に行ってしまった。
その日、イルカの帰りを待っていたカカシは中々、帰ってこないイルカにイライラとしていた。
朝、遅くなると言ってはいたが時計は零時を回っている。
「遅いなあ。」
急な任務でも入ったのか、と懸念していたところへ、丁度イルカが帰って来た。
「ただいま〜。」
「あ、イルカ先生。お帰りなさい。」
居間に来たイルカは肩から掛けていたカバンを床に置いた。
どさっという重そうな音がする。
「イルカ先生、夕飯は?」
「えっと、今日はいいです。ちょっと、あれなんですよね・・・。」
置いたカバンの中をイルカは、がさごそと漁った。
中には大量の書類やら教科書やらが詰まっている。
「あ、この書類に今日中に目を通さないと。あれ?これ、明日やろうと思って机に置いてきたと思ったのに持って帰ってきちゃったのか。ま、いっか、やっておこう。」
イルカは次々にカバンから仕事関係を思しき書類を取り出した。
「あ、これもだ。火影さまから頼まれていたの持ってきたのか・・・。ついでに、これもやってしまうか。」
呆れるほど大量の仕事が出てきて、それをイルカは、これから家でやろうとしている。
「イルカ先生、それ、本当に今からやる気?」
見ているカカシでさえ、それを全部やっていたら夜が明けるんじゃないかと思うほどだ。
「まあ、出来るところまで。無理せずに。」
ちょっと笑ってイルカは言ったのだが、もう、とっくに無理をしているように見える。
どうせ、止めてもイルカはやるに決まっているからカカシは、一旦、寝室に引き上げた。
少しして仕事をしているはずのイルカを見に行くと書類を枕に、机に突っ伏して眠っていた。
「やっぱりね。」
よっこらしょとイルカを持ち上げて布団を敷いた寝室に運んで、横にならせる。
起こさぬように、そっと布団を掛けると、ふっとイルカが息を吐き出した。
肩の力が抜けたようだった。
イルカと付き合ってから思ったのだが、イルカは真面目で勤勉だ。
仕事に対して誠実過ぎて、やれることは何でも全力でやっている。
しかも手を抜いたりしない。
自分の仕事の以外に、他の仕事を頼まれることも多いが断ることは少ない。
「だからなのかなあ。」
寝ているイルカの顔に見入ってカカシは呟いた。
「仕事ばっかりに気がいって、他のことは解らなかったり察しが悪かったり・・・。」
特に恋愛に。
「そんなところも全部、ひっくるめて好きだけどね。」
カカシはイルカに初めて自分から好きだと言って、初めてイルカにキスをした。
触れた唇は思いのほか柔らかく心地よい。
しかしイルカは眠っていて、そのことに気がつくことはなかったのだった。
憧れの人3
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