憧れの人3
「ね、ねえ、イルカ先生。」
カカシは慌てて話題を変えた。
振ったことしかない、なんて嫌味以外の何ものでもないような気がしたのだ。
イルカに変に誤解されたら、たまったものではない。
「イルカ先生は俺のこと、どう思っているの?」
これは、実はカカシが付き合い始めてから気になっていたことだ。
成り行きというか、半ばイルカの言葉を逆手にとって付き合い始めたような仲だったのでイルカが自分を、どう思っているのか非常に気になっていた。
嫌われてはないのは解っているが、でも位置的にはどうなのだろう?
「え、カカシさんのことですか?」
「うんうん。」
急いで首を縦に振るとイルカは、にこにこして屈託なく答えた。
「親友みたいな恋人です。」
一応、位置づけは恋人らしい。
そこには密かに、ほっと胸を撫で下ろしたカカシであったが、ちょっと最初の言葉に引っかかる。
「・・・親友じゃ駄目です。」
「あっ、じゃあ・・・。」
訂正したイルカの言葉は破壊力があった。
「恋人みたいな親友です!」
「・・・・・・それじゃ、もっと駄目です。」
がっくりと肩を落としたカカシを慰めるようにイルカは言う。
「余り違いはないと思うんですが・・・。それに今の俺たちのお付き合いって、親友みたいな感じだと思うんですけど。」
違うんですか?とカカシにとっては、ぐさっと胸に突き刺さるようなことを訊いてくる。
イルカにとっては憧れだった人が近くにいるだけで満足なのかもしれない。
「・・・違いますって、親友とは。」
さっき密接な関係になりたいって言ったでしょ?
カカシは、ぐったりとしてしまって力なく反論した。
「うーん、密接ねえ。」とイルカは首を捻っている。
「まあ、密着とも言いますが。」
おそらくイルカには解らないだろうと思ってカカシは、そこまで言ってしまった。
「あ!」
イルカが目を、きらっとさせてカカシを見た。
何かを思いついたようだったが、カカシは嫌な予感だけがする。
「解りました!」
「・・・何がです?」
何の前触れもなくイルカが自分の両腕を広げてカカシに、がばっと抱きついてきた。
腕をカカシに背中に回して、ぎゅっと抱きついている。
恋人に抱きつくというより、子供が親に甘えているように見えるのは気のせいか。
「カカシさんの言っているのって、こんな感じですか?」
カカシに抱きついたイルカは、すりすりとカカシの肩に頬を寄せて懐いている。
お互い、寝るだけの格好になっていたので身に着けているのは薄手の寝間着だけだ。
薄い生地を通して互いの肌の感触が伝わり、普段は解らない双方の匂いも、ふわりと漂ってきた。
「これなら密接というか、密着って言ってもいいですよね。」
イルカはカカシを抱きしめることで、ご機嫌になっている。
肌の温かさとカカシの匂いに安心感を覚えていた。
「そういえば、お付き合いしてから、こんなことしたことなかったですねえ。」
カカシからは返事がない。
「普通、恋人になったらするのかなあ。」
そこら辺の知識が所謂、本当のお付き合いというものをしたことがないイルカには哀しいことに欠如していた。
それは仕方がない。
「ねえ、カカシさん?」
ふと、カカシの顔を覗き込むとカカシは俯いていて表情が見えなくなっている。
ん?と背中の気配にイルカが振り向くとカカシの両手がイルカの背中に触れるか触れないかとのところで止まっていた。
カカシもイルカを抱きしめようとしたのか、その形のまま空中で手が固まっている。
心なしか抱きしめているカカシの体温が上がっているような気がした。
唯一、見えている耳が仄かに桃色になっている。
「カカシさん、具合悪いんですか?」
心配になったイルカが訊くとカカシの両手が一瞬で動き、がっとイルカの肩を掴み、くるりとイルカの身を自分から翻させた。
俯いたままのカカシから小さな声が聞こえる。
「今日は・・・・・・。も、いいです。」
寝ましょう、と言ったカカシは目にも止まらぬ早業で電気を消すと、あっという間に布団に入ってイルカに背を向けた。
「あの、カカシさん?」
「おやすみなさい、イルカ先生。」
それだけ言うとカカシは眠ってしまったようだった。
気配が急激に薄くなる。
「おやすみなさい。」
カカシの行動に少々、疑問を抱きながらイルカも布団に入り、いつしか眠りに落ちていたのだった。
憧れの人2
憧れの人4
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