憧れの人2
カカシと、お付き合いが始まってイルカは穏やかな日々を過ごしていた。
お付き合いって、こういうものなのか・・・。
以前より一緒にいる時間や、お互いの家の行き来する回数も増えて、新密度が友人から親友になったような感じだった。
夜も、どちらかの家に泊まることが多くなって、朝から晩までカカシといる日もあるが嫌ではない。
カカシといると楽しい、とイルカは、よく思うようになった。
何をするにも一人でより二人の方が楽しく、カカシは優しいし、笑うのも一人の時より多い。
幸せだなあ、とイルカはカカシといると胸があったかくなった。
好きな人とは一緒にいるだけでいいんだ、と思ったのだ。
だがカカシは、ちょっと違ったらしい。
ある夜、寝ようとした直前、並んで敷いた二つの布団の上でカカシは真剣な顔で正座していた。
その対面にイルカも正座している。
カカシが、いつになく真剣な顔でイルカに座るように促したのだ。
「カカシさん、どうかしましたか?」
不思議そうにイルカが訊くとカカシは真剣な顔で真剣な声を出した。
「イルカ先生に、お話しがあります。」
「はい、なんでしょう。」
イルカは無邪気に訊く。
「俺たち・・・。」
正座した膝の上で作った拳に力を入れながらカカシはイルカに言った。
「お付き合いして、もう一ヶ月過ぎましたよね?」
「そうですねえ、もうすぐ二ヶ月です。」
「結構、経ちますよね?」
「はい!」
イルカは元気良く返事をする。
「長いお付き合いですね。」
嬉しそうな顔をした。
「でしょう?」
カカシは正座した膝を、つつつとイルカに膝に寄せる。
二人の距離が近くなった。
「だから・・・。」
ごくり、と唾を飲み込んだカカシは緊張した面持ちになる。
「もっと、俺たち密接な間柄になってもいいと思うんです!」
カカシは、きっぱりと言い切った。
しーん、とした部屋が静まり返り沈黙が流れる。
イルカが目を、瞬かせた。
何かを言おうとして口を開いたが言葉が見付からないようで再び、口を閉じてしまう。
その様子を見たカカシが焦ったように言った。
「あの、これは俺の真剣な気持ちなんです。イルカ先生を揶揄うとか騙すとかじゃなくて・・・。」
カカシの言葉にもイルカは、ぴんとこないようで首を傾げている。
「二ヶ月も経ってないから早いかなと思いましたが、でも俺たち同性だし、結婚とかの区切りがないし、だから・・・。」
「だから?」
明らかにカカシの云わんとすることが解ってないような様子でイルカは訊いてきた。
「だから、あのー・・・。」
はっきりと口に出すことは憚られてカカシは口篭ってしまう。
イルカの、あどけない瞳に見つめられると自分が悪いことをしてしまっているような気分に陥った。
「密接な関係って・・・。」
うーん、と考えながらイルカはカカシに言った。
「今のカカシさんと俺のような関係のことじゃないんですか?」
「ちょっと違います。」
イルカの悪気のない質問に、カカシは弱々しく答える。
「じゃあ、どんなのですか、密接って。」
「それは、あのですね。」
言っていいものかどうかカカシは迷う。
お付き合いというものに対して、今更ながら自分とイルカの考えに大きな隔たりがあるように思えたからだ。
だからカカシは質問をした。
訊きたくなかったが訊いてみる。
「イルカ先生、今まで何人かと、お付き合いってしたことありますか?」
自分以外の人間がイルカと付き合ったことなど、知りたくもなかったが仕方なしに訊いたのだ。
イルカは「多分、三人・・・。」と自信なさそうに答えた。
「多分?」
「ええ、まあ。」
寂しそうに笑ったイルカは話してくれた。
一人目の人とは、告白された次の日に告白された相手が遠隔地に長期任務に飛ばされて、そのまま任務先で結婚したらしく音信普通になってしまったこと。
二人目の人は、イルカに好意を抱くような素振りを見せて近づいてきたのに、本命はイルカの友人で言わば友人との繋がりを作るためのイルカは踏み台にされたようなこと。
三人目の人は、三日は付き合ったのだがイルカが任務で里を離れている間にイルカの死亡の誤報が里に入って、それを相手が信じてしまったためにイルカが任務から帰還した時は既に他の人間と結婚していたこと。
「だから、多分、三人ですかね。」
「・・・そうですか。」
聞き終わったカカシは溜め息まじりに肩を落とした。
複雑な心境で喜んでいいのか悲しんでいいのか、いまいち分からない。
イルカは「皆さん、幸せそうなので良かったです。」と暢気なことを言っている。
付き合いというべきなのか、イルカは破局の最短コースばかり経験しているような気がした。
だからなのかカカシが言った密接な関係をイルカは、付き合いが長いということが密接な関係だと解釈したのだろう。
どう言って自分の密接な関係を説明したものか、とカカシが思案しているとイルカが興味を持ったようにカカシに訊いてきた。
「俺は恋愛経験と失恋回数が同じになると思うんですが、カカシさんは?」
「えっ、俺?」
「カカシさんは、お付き合いってどのくらいあるんですか。」
「・・・付き合い自体はイルカ先生しかありません。」
「じゃあ、誰かに振られたことはあるんですか?」
その質問は好きな相手に訊くにはどうか、と思われるものだったが不意打ちを受けたカカシは素直に答えてしまった。
「振ったことしかないですけど。」
答えてから、しまった、と思ったカカシであったがイルカは「カカシさんて、もてるんですね。」と、ただただ感心していたのだった。
憧れの人1
憧れの人3
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