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忘れない人



「ところで、イルカ先生。」
ある日、カカシが改まって訊いてきた。
イルカの前に真剣な顔で正座する。
「お訊きしたい事があるのですが。」
「はい、なんでしょうか?」
カカシにつられてイルカも姿勢を正して正座した。



今日は珍しくカカシの家で二人きり。
偶には、とカカシがイルカを自分の家に誘ったのだった。
「俺ですね、ずーっと気になっていることがあるんです。」
「はあ。」
「話を蒸し返すようで悪いんですけど・・・。」
悪いんですけど、と言いながらカカシは訊く気満々なのが目の輝きで分かる。
一体なんだろうとイルカは思ったが「俺に答えられることなら。」と頷いた。



「ええとですね・・・。」
カカシは緊張した面持ちで、ごくりと唾を飲み込むと言った。
「あのね、イルカ先生が俺に別れるって言った時のことなんですけどね。」
「ああ・・・。」
「その時、イルカ先生の友人のことが好きだったって人の話しが出たでしょう。で、『俺ばっかり浮かれて』という言葉が、どうにも引っ掛かるんです。」
そういえば、そんな事言ったっけ?
イルカは余り覚えていなかった。
何しろ深く考えず、感情のままに吐き出してしまった言葉だったからだ。
「こんな話するとイルカ先生が嫌な気持ちになるかなと思って、訊くのと我慢していたんですけど、やっぱり気になるんです!」



カカシは切羽詰った表情で正座したまま、器用にイルカに詰め寄った。
「浮かれていたって、どういうことですか?やっぱり、その人のこと好きだったの?」
思いつめたようにカカシは訊いてくる。
「え、っとですね・・・。」
まさか、カカシがそんなことを気に掛けているとは思わなくてイルカは、たじろいだ。
「前に俺が初恋の人だって言っていたけど、やっぱり違うんですか?」
「あー、それは・・・。」
「他に好きだった人がいたの?俺が初恋じゃないの?」
妙にカカシは『初恋』に拘っている。



「まあまあ、カカシさん。」
イルカはカカシを宥めるように、膝にあったカカシの手を軽く叩いた。
「落ち着いてください。浮かれていたってのは、多分、誰かが一緒にいてくれる、もう一人でいなくていいんだとか、そんなこと思って浮かれていたんじゃないですかねえ。」
だから、好きという感情とは少し違っていたんだと思いますよ、とイルカは説明する。
「前に言ったじゃないですか、『相手の人たちのこと嫌いじゃないとしても好きじゃなかった』って。」
「そっか・・・。」
イルカの言葉にカカシは安心したように微笑んだ。



「じゃあ、イルカ先生は俺だけが好きで俺のことしか愛していない、ということですね!」
急に上機嫌になる。
ぐっとイルカの肩に手を回して自分の方に引き寄せた。
「もうイルカ先生には俺がいるし、絶対に一人になんてしませんからねえ。」
にこにこと、とカカシは笑顔が止まらない。
「嬉しいなあ、イルカ先生の生涯の中で俺だけを好きになってくれるなんて。」
「あ、あの、カカシさん!」
嬉しそうなカカシの言葉に恥ずかしさを感じたイルカは、カカシの胸を押し返してカカシから離れようとする。



そして、話題を逸らすようにカカシに話を振った。
「だったら俺もカカシさんに聞きたいことがあります。」
「なあに?」
「どうして俺と付き合おうと思ったんですか?俺、男なのに・・・。」
「ああ、それはね。」
カカシは、あっさりと白状した。
「理想の人だったから。」
「理想って、俺が?」
「そうそう。俺の理想の人です、イルカ先生は。」
「理想、ねえ。」
イルカは首を傾げている。
「俺のどこに、そんな要素があるんです。それに、お付き合い前に殆どカカシ先生にお会いしたこともなかったのに、何で理想の人?」
解りません、と不可解な顔をする。



「俺の理想の人はねえ。」
にやっとカカシは笑った。
「周りの人を笑顔にする人がいいなあって。」
「笑顔・・・。」
「七班の子供たちがイルカ先生のことを話す時は、いっつも笑顔になるんです。楽しそうにね。」
「・・・そうだったんですか。」
自分の知らない事実を知ってイルカは照れてしまう。
「そんな人を好きになれば俺もいつも笑顔になって、あわよくば幸せになれるかもって思ったんですよ。」
実際、会ってみたら思っていた以上に予想を上回っていて、どんどん好きになっていきました、なんて告白してくる。
「好きになれば性別なんて気にしませんからね。」なんて言っている。



率直に愛情を向けられて、なんと答えていいか解らなくてイルカは困って俯いてしまう。
耳や首筋は仄かに赤くなっていた。
そんなイルカを見てカカシは、ふふふ、と楽しそうに笑って、再びイルカを自分の胸に引き寄せた。
イルカは嫌がらない。
「そして幸せになりました、俺は。」
ぎゅーっとイルカを抱きしめるとカカシの背にイルカの腕が回される。
「俺も。」
小さい声だったがカカシの耳に、それは届いた。
「幸せです、幸せになりました。」
二人の間に穏やかな空気が流れる。
それは、いつまでも続き、満ち足りた気持ちがカカシとイルカを包んだのだった。





後日、ふと思いついてイルカはカカシに言った。
「カカシさん、前に『キーワード』を設定して記憶を封じる術使っていましたよね?」
「ああ、あれねー。」
解術のできない未完成の術で、それが原因で、色々とややこしいことが起こったのだ。
「あの術が、どうかしましたか?」
イルカ先生、自分にも掛けてほしいとか言うのかな、それは嫌だなとカカシが危惧しているとイルカは全く、別のことを言ってきた。
「もしも、俺に術を掛けたとしたらカカシさんが、きっと『キーワード』、鍵になる言葉を言いますよね?」
「まあ、それは、そうでしょうね。」
「カカシさんは『キーワード』として、どんな言葉を俺に言うつもりですか?」
カカシが何を言うのかとイルカは、そこに興味をもったらしい。



「キーワードねえ。」
カカシは、いそいそと忍服のベストの内側から小さいメモ帳らしき冊子を大切そうに取り出した。
「これになりますかねえ。」
ぴら、とページをイルカに見せる。
「・・・なんですか、これ。」
イルカが書いてある内容に思わず眉を潜めるとカカシは胸を張った。
「ここに書いてあるのは俺がイルカ先生をこんなに好きだと思う気持ちと共にイルカ先生の言動に対しての俺が思った気持ちを綴ってあります。」
「いつの間に、こんなもの・・・。」
冊子には小さい文字で事細かに、いつ、どこでイルカが何をしたのか書いており、カカシの感想らしきものも記されている。
好きだとか可愛いだとか、そんなことばかりだ。
イルカは中身を見て絶句していた。



「いいじゃないですか。」
さり気なくカカシはイルカの手から冊子を取り返して元の場所に仕舞い込む。
「愛の結晶とも言うべき俺のイルカ先生への愛の集大成みたいなものですよ。」
でも、ちょっと内容が・・・と眉を顰めるイルカにカカシは、しれっとして言った。
「これ、忍服のベストの内側の隠しポケットに入れてあったんですよね。イルカ先生の記憶を失くした時に見ていたらイルカ先生と俺の間柄が分かって、もっと早くどうにかなったのかもしれないのになあ。」
ちょっとカカシは悔しそうだ。
「で、あのー。」
イルカは、かなり躊躇ってから訊いてみた。
「・・・そのメモした内容をキーワードにしようと思っていたりするんですか?」
「もちろん!全部、暗記してありますからね。」
満面の笑みでカカシは頷く。
「俺はイルカ先生の記憶を戻すためなら、時と場所を選ばず特に躊躇も羞恥もないので、例え人が大勢いる場所でも、この愛の集大成を皆の前で朗読します!」
きっぱりとカカシは言い切った。



「そ、そうですか・・・。」
イルカは、幾分か引き攣った笑いを浮かべてから、すっと表情を改めてカカシに言った。
「俺は記憶を失ったりしないから安心してください。」
穏やかな口調で、しかし真面目な声でカカシの目を真っ直ぐに見る。
「カカシさんのことは、いつまでも覚えています。忘れたりしませんから。」
ね、と微笑まれるとカカシは射ても立ってもいられない。
「俺もです!」と答えると力いっぱいイルカを抱きしめたのだった。






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愛しの人





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