愛しの人
「イルカ先生!」
風呂上りのカカシは鬼気迫る表情でイルカに言った。
「俺、考えたんですけど。」
「はい?」
イルカも既に風呂に入っていて、風呂上りのビールを美味しそうに飲んでいた。
ちょっと、ほろ酔い加減で機嫌がいい。
機嫌がいいというよりも、ノリがいい。
「なんですか、カカシさん。」
にこーっと笑うイルカは実に楽しそうだ。
お酒を飲んで楽しげにしている。
カカシもイルカにビールを進められて飲んでいた。
そしてイルカがほろ酔い加減になる頃合を見計らって、話を切り出したのだ。
すう、とカカシは大きく息を吸い込んだ。
そして言う。
「俺たち、そろそろ、愛の一線を越えてもいいんじゃないかと思うんです!」
「あいのいっせん?」
「はい、そうです!」
カカシの言葉に、うーんと考え込んだイルカはビールを一口飲んだ。
考えながらビールを飲んでいる。
中々、答えようとはしない。
イルカの答えを、じりじりとしながら待っているカカシは緊張して喉が渇いてしまい、ビールをごくごくと飲んだ。
やがて、イルカは答えた。
「愛に一線があったんですか?」
「ありますよ、存在します。」
ふーん、と言うイルカは、どこか解ってないようだった。
「それって、例えば死線のようなものですか?」
「え、視線?それとは違うような・・・。」
「じゃあ、どんな線ですか?」
「どんなって言われても・・・。えーと、境界線みたい、なものか、な?」
「へー、協会の線。どこの協会ですか?」
なんだか、どんどん会話が本来の趣旨とは、ずれてきているような気がする・・・。
「あの、イルカ先生。愛の一線っていうのは・・・。」
お酒を飲めばイルカに隙が出来ると思い、そこを狙ったカカシだったが、それがかえって仇になっているような気がして、ストレートに言ってしまおうか、と思った時だった。
イルカがカカシが飲んでいたビールの缶を手に取った。
「あ、カカシさん、もうビール、飲み終わったんですね。」
新しいの取ってきますね、とイルカは冷蔵庫のあるキッチンへ行ってしまった。
「ああ・・・、イルカ先生〜。」
手を伸ばしてイルカを引きとめようとするカカシの声は、ちょっぴり哀愁を含んでいる。
前にも思ったけどイルカ先生て変なところで手強いんだよなあ、とカカシはイルカの手強さを再認識した。
さて、どうするかと思案していると台所から冷たいビールを持ってイルカが戻ってきた。
「はい、どうぞ。」とイルカがビールのプルタブを開けてカカシにビールを渡そうとしてくる。
「あ、どうも。」
カカシがビールを受け取ろうとした時、何を思ったのかイルカがビールを引っ込めた。
「イルカ先生?」
不思議に思ったカカシがイルカを見ているとイルカはビールの飲み口に、ちゅっとキスを落とす。
それから、カカシにビールを渡してきた。
「俺からの愛を、たくさん込めてみました。」
「・・・ど、どうも、ありがと。」
カカシは、どきどきしながらビールを受け取って口を付けた。
一口飲むと、摩訶不思議なことにイルカの愛の味を感じてしまう。
「全く、もう。」
ビールを飲みながらカカシは口の中で呟いた。
「ナチュラルに、こんなことされると・・・。」
自棄になって、一気にビールを飲み干す。
「困っちゃうなあ、ほんと。」
横目でイルカを伺うとイルカは、にこにこしながらカカシを見ていて・・・。
その顔は嬉しそうで、幸せそうで。
愛しい人を見つめる眼差しだった。
そんなイルカにやられたカカシは、愛の一線を越えるのは、またいつか、と決意を新たにするのであった。
忘れない人
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