憧れの人24
「あーあ、寝ちゃった。」
眠ってしまったイルカを腕に抱えてカカシは残念そうに、それでもすごく嬉しそうな顔をした。
疲れていたのか、寝ているイルカの顔は少し、やつれている。
「色々、ごめんね。」
イルカの額に、ちゅっとキスを落とす。
「でも、大好きだからね。」
そう、囁くと寝ているイルカの顔が柔らかくなったような気がした。
「ほんと、可愛いなあ。」
カカシの眦は垂れ下がり、顔は限りなく若気けていた。
イルカを抱えたまま、カカシは布団に潜り込んだ。
布団は二つ敷いてあったが、一つの布団で二人で寝てみる。
そういえば一緒に寝るのって初めてかな?
二人の体温で布団の中は直ぐに温まりカカシは、ぬくぬくとしてきた。
これが幸せってやつかなあ、と思ってみたりする。
本当のことを言うとイルカに名前を呼ばれ、記憶が戻った瞬間に有ろう事か別れを切り出されていて、その状況に気持ちが追いつけず体が動かなかったのである。
情けないので、これはイルカには秘密だ。
だから、イルカの家に先回りしてイルカを待っていた。
待っている間、落ち着かず家事なんてしながら。
ついでにイルカの記憶がない間、カカシはイルカ宅に来ることはなかったのでイルカの家に来て、中の様子に変わりがないかチェックなんてしてしまった。
誰もイルカ先生の家に来ていないみたいだ、俺以外は家に上がらせてない。
そのことに、ほっとした。
イルカ先生・・・。
カカシは腕の中で眠る愛しい人の名を、そっと呟いた。
俺の望んだ、密接した関係になるのは、まだまだ、程遠そうだけど・・・。
でも、と、すやすやと安らかに眠るイルカの顔を覗き込む。
心というか気持ちは、より深いところで繋がったかなあ、と思う。
これも所謂、一つの密接した関係だよね。
気持ちが緩んだのか、ふわあ、とカカシは欠伸が出てきた。
眠い。
一安心して疲れが出てきたみたいだ。
しんどい疲れじゃなくて、心地よい疲れが。
カカシは腕の中のイルカを起こさぬように離すと、素早く部屋の電気を消して、これまた素早くイルカの布団に戻ってきた。
寝ているイルカを抱きしめ直すとカカシは目を閉じる。
とても幸せだった。
イルカに普通の日常が戻ってきた。
普通の日常とはカカシがいる生活だ。
カカシがいると不思議に落ち着いた。
なんていうか、安定する心も体も何もかも。
同僚二人がイルカに声を掛けてきた。
「イルカ、はたけ上忍と仲直りしたのか?」
「仲直り?」
「喧嘩みたいなやつ、していたんだろう?」
心配してくれていたらしい。
「喧嘩じゃないけど・・・。」
ちょっと照れながらイルカは笑った。
「仲は元通りに戻ったよ。」
「そっか〜。」
一人が肩の力を抜き安堵したように、イルカの肩を叩いた。
「よかったな、ほんと。」
「だよなあ、よかったよかった。」
もう一人も、うんうんと頷いている。
そして、カカシのことを褒めた。
「さすが、はたけ上忍!」
「良い人だ、はたけ上忍!」
カカシのことを褒めるには何か理由があると思ったのだが、イルカは敢えて訊かなかった。
この二人とは長い付き合いで自分のことを本当に心配してくれると知っていたので。
まあ、いいかと思ったのだ。
「ねえ、カカシさん。」
イルカは、ある夜、隣の布団で横なるカカシに話しかけた。
部屋は真っ暗になっており、後は眠るだけになっている。
「ん、なあに?イルカ先生。」
暗闇の中でカカシが答えた。
「あのですね・・・。」
カカシが戻ってきてからイルカには、ある変化があったのだ。
それを、なんとなくなのだがカカシに聞いてほしかった。
「実はですね。」
過去に、自分ではなく友人を好きだったという人を久しぶりに見たことを話した。
「カカシさんが俺の記憶を失くしている時に見かけて・・・。」
それで・・・、と少し言葉を詰まらせたイルカをカカシは「それで、どうしたの?」と優しく相槌を打つ。
イルカは、それに勇気をもらったのか話し出した。
「その人を見かけた時は、俺、すごく苦いような気持ちになったんです。」
声がカカシの寝ているの方向に響いてくる。
イルカが布団から身を乗り出してカカシの寝ている布団に顔を寄せてきたのだ。
「でも、カカシさんが俺を思い出してくれて、俺に関しての記憶が戻ってきてからは、その変なんですけど・・・。」
「うん。」
カカシも布団から身を乗り出してイルカに顔を近づける。
暗闇の中で、二人は身を寄せ合って話をしていた。
「それから、その人を見ても、なんとも思わなくなったんです。」
苦い気持ちも沸き起こりません、とイルカは言った。
「見かけても、ただ、ああ、そういうことがあったなあと思うだけなんですよ。」
変でしょう?とイルカはカカシに問い掛ける。
「何ででしょうね?」と首を傾げるイルカにカカシは暗闇の中で笑った。
イルカの耳に、ひそっと答えを囁く。
「それはね、俺に愛されてるから。」
「えっ。」
「俺がイルカ先生を大好きで愛しているからイルカ先生は、他のことが気にならなくなったの。」
それだけだよ、と密やかに言うとイルカは真面目に、それを受け取った。
「・・・愛って大切なんですね。」
「そうそう。」
手を伸ばしたカカシはイルカの手首を掴んで、勢い、そのままに自分の布団に引っ張り込んだ。
「イルカ先生が好きで好きで。愛しまくってますからねえ。」
恥ずかしい台詞を口にするカカシにイルカは赤くなった。
でも。
「俺もカカシさんのことが好きですよ。」と返す。
「でしょーでしょー。」
カカシは嬉しくなって腕の中のイルカを抱きしめた。
「愛されて、そして愛しているから、それでいいの。」
「はい。」とイルカは素直に頷いた。
「ね、だから。」
カカシは続ける。
「そろそろ、一つの布団で一緒に寝ましょうよ。」
あとキスも、もっとたくさんしたいな、と、ちょっぴりだけ願望を口に出す。
するとカカシの唇に、ふわりと落ちてくるものがあった。
甘い雰囲気の伴った、それは口づけで。
イルカからキスだった。
カカシは、それに当然の如くお返しをする。
そんな二人は、とても幸せで。
イルカの憧れの人は、いつしか憧れの人から愛する人へと変わり、いつまでもイルカの傍にいたのだった。
終わり
憧れの人23
忘れない人
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