憧れの人23
「えっ!」
好き?
カカシに言われたことに驚いてイルカは思わず体を離してカカシの顔を覗き込んだ。
瞳の色は真剣そのもので嘘を言っている風ではない。
「あの、怒ってないんですか?」
「なんで?」
カカシが不思議そうに訊いてくる。
「なんでって・・・。」
訊かれたイルカの方が戸惑ってしまった。
「俺、だって・・・。」
別れる、と言う言葉を口に出したくなくて口篭ってしまう。
「・・・酷いこと言っちゃったし。もう、カカシさんに嫌われたんじゃないかって。」
ぼそぼそと言い訳するとカカシが、ふっと笑った。
イルカの総てを包み込んでしまうような笑顔だ。
その顔にイルカは何故か安心してしまった。
大丈夫だ、と思ってしまう。
「まあ、それはね。」
カカシは体を離してしまったイルカを再び、腕の中に抱え込んだ。
きっちりと己の体で抱え込み、一つになろうとでもいうように。
忘れていた時間を取り戻そうかとするように。
「イルカ先生の記憶がない間の俺の行動を思えば、イルカ先生が俺に、あんな風に言ったのもしょうがないかな〜と。」
「・・・う。」
イルカは返す言葉がない。
「イルカ先生、俺がイルカ先生のことを忘れていて寂しくて、ちょーっとだけ拗ねちゃっただけなんだよね?」
カカシが抱いているイルカの背を優しく摩れば、イルカは頷いてしまう。
「だから、あんなこと言っちゃったんでしょう?ついつい思わず、自らの意思に反して、あんなことちっともこれっぽっちも一欠けらも一片も少しも思ってないのに勢いと衝動で言っちゃったんだよね〜?」
「ええ、まあ。」
悔しいが、当たっていることもない。
「そして、色々と不幸な偶然が重なって・・・。」
イルカを抱いているカカシが自分の頬をイルカの頬に、ぺとと合わせてきた。
「ごめんね。」
謝られた。
「俺が不用意に変な術なんて使ったばっかりに・・・。」
声には悔いが感じられる。
「カカシさん・・・。」
カカシの真摯な態度にイルカも反省した。
「俺こそ、すぐにカカシさんの名を呼べば、こんな、ややこしいことにならなかったのに・・・。」
イルカの腕がカカシの背に回り抱き返した。
「一度、機会を逃すと中々、呼べなくなってしまって。そして、段々と、なんか、どうでもよくなって。」
ごめんなさい、とイルカが謝るとカカシの雰囲気が、ふっと優しくなった。
「いいんですよ。」
イルカの顔を見る。
「そういうところも含めて、全部、イルカ先生のこと好きになったんですから。」
カカシに微笑まれてイルカは本当に心から安心してしまった。
本当にカカシが帰ってきてくれた!
「カカシさん!」
自分から抱きついていく。
「お帰りなさい、カカシさん。」
「ただいま、イルカ先生。」
カカシも答えて安心したように、深く息を吐いた。
「じゃあ、あの言葉は撤回ということでいいですよね?」
「あの言葉?」
「別れる、というやつです。」
念には念を、という感じでカカシが強く言ってくる。
「ああ、はい。」
もちろん、イルカも異論はない。
「ところで・・・。」
安心したところでイルカは気になっていたことを訊いた。
「なんで、カカシさんが俺の家にいるんですか?」
「ああ、それは・・・。」
カカシが眉を顰めた。
「本当は、あの後イルカ先生を追いかけようとしたんですが、追いかけるとイルカ先生は逃げてしまいそうで、かえって藪蛇かなと思って。で、イルカ先生の家の前で待とうと家の前まで来たら、ドアが細く開いていて悪いと思いつつ、あがらせてもらったら落ち着かなくて・・・。」
だから、食事や風呂の支度をして気を紛らわせていたらしい。
「そうだったんですか。」
「そうですよ。それに鍵は、ちゃんと掛けないと無用心ですよ。」
カカシがイルカに注意した、自分のことは棚に上げて。
「すみません、最近、忙しかったもんですから・・・。」
注意力散漫でした、と、しょげるイルカが可愛くてカカシは頭を撫でてしまう。
こういうとこも可愛いんだよなあ、と口には出さず心の中で思っていた。
「でも、大丈夫。もう、俺が、ずーっといつまでもイルカ先生の傍にいますから鍵くらい安心して掛け忘れてください。」
「・・・鍵は掛けます。」
渋い顔でイルカが言うのを見てカカシは笑った。
それを見てイルカも笑ってしまう。
普通の日常が戻ってきたのだ。
カカシのいる日常が。
肩の力が、どっと抜けたイルカは急速に眠くなってきた。
疲れが、いっぺんに押し寄せてきたようだった。
カカシに凭れかかると知らず瞼が落ちてくる。
そして、そのまま寝てしまい朝まで起きなかったのであった。
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