憧れの人1
イルカにとって上忍は仄かな憧れであり、その上忍の中でも、はたけカカシは密かな憧れであった。
会ったことはないが噂や武勇伝などは数知れず、人伝てにそれを聞いたいたイルカは、すごい忍なんだなあと子供の頃から、いつも思っていた。
まさか、そんな伝説の忍にイルカは会えるとは露ほどにも思っておらず、ただ憧れていただけであったのだから、会った時は本当に驚いた。
目が点になるとは、こういうことを言うのかも知れない。
アカデミーで担任していた子供たちに、偶然か否か『あの』はたけカカシが上忍師として就いてくれることとなったのだ。
それを子供たちから聞いた時、イルカは、いいなあ、と思ったけれども、まさか会えるとは思ってもいなかった。
自分はアカデミーを主とする仕事だったし、そして偶に任務に出るが短期単発のもが多く、上忍と組むような大きな任務は回ってこないと思ってたし接点がないなら会う訳もなく、自分の目の前に、はたけカカシが現れた時は幻術にでも掛かったのかと思ったほどだ。
初めて会うイルカにカカシは魅惑的な低い声で笑い「あなたがイルカ先生?」とイルカの名を呼んだ。
「そうですが・・・。」
軽い警戒心を抱きながら答えたイルカにカカシは手を差し出した。
「俺は、はたけカカシです。」
「あなたが!」
はたけカカシの名は有名だったし、イルカは長年、憧れていた忍であったので勿論知っていた。
イルカは自分の名を名乗りカカシが差し出してきた手を、そっと握り返すと思いのほか強い力で握られる。
驚いて身を引こうとしたのだがカカシの力は、それを許さなかった。
「あの・・・。」
戸惑うイルカにカカシは、片目を出している顔で微笑んだ。
「子供たちから、イルカ先生のことを色々、聞いて興味が出てしまいましてね。どんな人かと思って会いたくなったんですよ。」
カカシの人のいい微笑みにイルカの警戒心は緩んだ。
「そうですか。それは光栄です。」
子供の頃からの憧れの上忍に会えてイルカに気持ちは弾む。
「こちらこそ、お会いできて嬉しいです。」
素直に喜んだ。
そんなイルカを見てカカシは目を細める。
「いいえ、俺こそ会えて嬉しいですよ。」
喜ぶイルカを余所に口の中で小さく呟いた。
「ホント、会いにきて良かった、こんなところで理想の人に巡り会えるなんてねえ。」
俺は性別は気にしないしね、というカカシの呟き声は幸いにもイルカには聞こえることはなかった。
そして、暫くの後。
イルカはアカデミーの仕事と兼任して受付け所の仕事もするようになり、必然的にカカシと会う回数も増えた。
カカシは受付け所に任務の依頼書を貰いにきたり、報告書を提出しにきたりしてイルカを顔を会わせては二言三言会話をする。
会う回数が増えれば、一緒にいる時間も増えていった。
また、カカシはイルカの仕事が終わりそうなタイミングを見計らっているのか、終業時間になると姿を見せる。
「イルカ先生、もう仕事終わりですか?」
何気なくカカシが声を掛けるとイルカは頷く。
「今日は、もう終わりです。」
「そうなんですか。俺も今、帰るところです。」
そうなると必然的に一緒に帰ることになった。
一緒に帰れば、お互い独りなので食事でもという流れになり、いつの間にかイルカはカカシと一緒にいることが多くなる。
時々ではあるが、家にも招かれたり招いたりした。
上忍と中忍なのに、まるで友人みたい、とイルカは思い、こんなの楽しいのは久しぶりだなあ、と、のんびりとした気持ちになる。
憧れていた人が、こんなに近くにいて自分と話したりしているなんて夢みたいだ、と嬉しくなってもいた。
ある夜。
カカシと酒を飲んだ帰り道。
明日は休みということもあり、少々、ほろ酔い加減になったイルカは口を滑らしてしまった。
「俺、実はカカシさんに子供の頃から憧れていたんですよねえ。」
にこにこしながら、そんなことを言ってしまったのである。
その頃にはイルカはカカシのことを、はたけ上忍からカカシ先生を経て、カカシさんと親しげに呼ぶようになっていた。
「へええ、俺に?嬉しいなあ。」
カカシは目を細める。
細めた目は優しげながらも目の奥が、何かを狙っているように鋭く光っていた。
「はい、そうなんです。」
酒の酔いも手伝って、ご機嫌なイルカは、カカシの目の鋭い光には気がつかない。
「憧れていたっていうか、今も憧れているんですけどね。」
照れたようにイルカは頬を染めて笑う。
「憧れの人が目の前にいるなんて、今でも信じられないような、そんな感じです。」
「ふうん。」
カカシは意味ありげに笑って訊いてきた。
「俺に憧れているってことは、俺が好きだってこと?」
「・・・え。」
思いもよらぬことを言われて、咄嗟にイルカは返答できない。
「憧れているってことは、好きだってことだよね?」
重ねて言われてイルカは考えた。
憧れているから好きなのか、好きだから憧れているのか・・・。
憧れているからには少なくとも嫌いではない。
どちらかというと好きだという感情に近いのだと思うのだが。
断定するには自信がなかった。
本当に憧れの存在で、近くにいて一緒の時間を過ごすようになって、いい人だというのは分かったけれど。
それが、好きだということなのか。
考えたイルカは無難な答えを出した。
「・・・嫌いじゃないので、好き、だとは思いますが。」
それは憧れの範疇の中の好きであって、少し大げさに言えば友人みたいな感じでカカシのことが好きだった。
しかしカカシは、その答えで満足したようだった。
「そう。なら、俺たち・・・。」
カカシは、にこやかに宣言した。
「付き合いましょうか、これから。」
「これから?」
「これから、ずっと、いつまでも。」
「誰と誰が?」
「俺とイルカ先生が。」
「どうして?」
「イルカ先生が俺を好きだから。」
「えっ。」
「決まりですね。俺たち、お付き合いしましょう。」
決定事項として付き合いを宣言されたイルカは、その日から本当にカカシと付き合うことになったのであった。
憧れの人2
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