憧れの人19
自分からカカシとの距離を空けるようなことをしてしまったイルカは落ち込んでいた。
あの後、カカシには中々、会えなかったのだ。
聞くところによると単独任務で里を離れてしまい、里に帰ってくるのは一週間先らしい。
はあ、とイルカは知らず知らず溜息をついた。
最初はカカシさんに自分のこと思い出してもらいたいと思っていたけれど・・・。
時間が経つに連れて、なんだかカカシが自分を忘れている状況に慣れてきて、段々、投げやりになってきているような感が芽生えてくる。
このまま、カカシさんが俺のこと思い出さなかったら、どうなるんだろう。
・・・カカシさんのこと好きなのに。
それが、なかったことになってしまうのか、と考えてイルカは再び、落ち込んだ。
深夜の受付には二人の中忍がいた。
イルカの同僚で長い付き合いのある、カカシとイルカが付き合っていることを唯一知っている、例の二人である。
二人は深夜、人けがない受付所で、ひそひそと話をしていた。
「最近、イルカの様子、おかしくないか?」
「ああ、やっぱり・・・。俺もなんとなく、そう思っていた。」
「疲れているようなのに仕事に、ひたすら打ち込んでいるし、あんまり笑わなくなったし。」
「そうだな・・・。」
一人の同僚は眉を顰めた。
「あの時と似ている・・・。」
「あの時か・・・。昔、手酷く振られた時に、ってことだよな。」
同僚二人は同時に、大きく息を吐いた。
「考えられる原因は、ただ一つだけだ。」
「ああ。」と、もう一人の同僚は深く頷く。
「イルカの口から出なくなった名前の人が原因だな。」
「今までは頻繁に口に出していたのに、今では話題にもしない。」
二人は顔を見合わせた。
「多分・・・。」
「おそらく・・・。」
「いや、しかし・・・。」
「でも、きっと・・・。」
一人が恐る恐る、口に出す。
「はたけ上忍とイルカは別れたんだ。」
「だな・・・。」
二人は、がっくりと肩を落とした。
「可哀想だなあ、イルカ。」
「傍から見ても、あんなに、はたけ上忍のこと好きみたいだったのに。」
「また、振られたのかな・・・。」
「かもな〜。」
話は暗い方向へといってしまう。
「なあ。」
「うん?」
「イルカを励ます会でも発足させるか。」
「そうだな。会員は俺たち、二人だけだけど。」
ははは〜、と疲れた笑いを二人はする。
その中忍二人に音もなく忍び寄ってきていた人物がいた。
「ねえ、面白そうな話してるね。」
気配が少しも感じられなかったのに、その人物は、いつの間にか受付所に存在していた。
「げっ!」
「は、はたけ上忍!」
立っていたのは上忍、はたけカカシである。
腕組みをして受付をしている中忍を見下ろしていた。
単独任務から帰還し、報告のために受付所を訪れたのだ。
睨むような目で見下ろされた中忍二人は動くことができない。
「イルカ先生の名前が出たから何事かと聞いていたんだけど。」
カカシは、一歩、中忍二人に近寄った。
「そしたら、俺の名前も出てくるし、内容は非常に興味深いしで、つい聞き入っちゃってね〜。」
口調は穏やかで、顔には笑みさえ浮かべていたが目が笑っていない。
「その話、もっと詳しく、事細かに聞きたいな〜。」
笑っているのにカカシは怖かった。
「話してくれるよね?」
それは、ただのお願いではなく、どちらかというと強制に近いお願いであった。
二人の話を聞き終わったカカシは何事か考えているようだった。
ふと、手に持っていた報告書に気がついて提出する。
「あの〜、はたけ上忍。イルカのことですが・・・。」
一人の中忍が思い切って話しかけるとカカシは「大丈夫。」と答えた。
「まあ、なんとかするから。心配しないでよ。」
自分の中でイルカの記憶は戻っていないが宣言する。
中忍たちの話を聞いて、周囲の自分とイルカに対する微妙な雰囲気と、イルカが気になって気になって、しょうがないことから考えていた自分の推測が裏づけされたのだ。
「それに、俺とイルカ先生は、多分・・・。」
ちょっと言うのを躊躇った。
イルカの気持ちに確信が持てていないので少しばかり自信がない。
「別れてなんていないから。俺が振ったなんてこともないと思うよ。」
それと、と受付所を立ち去るときに振り向いてカカシは一言、言った。
「イルカ先生を悲しませて、ごめんね。」
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