憧れの人16
金髪の子供から知らせを受けたイルカは仕事の合間を見計らって、急いでカカシのいる病院に駆けつけた。
カカシが大怪我して里に帰ってきた、入院していると聞き、いてもたってもいられなかったのだ。
予め、教えられていたカカシの病室を見つけ扉を開けてベッドの上のカカシを見た時、心底、安堵した。
・・・生きていた、良かった。
肩の力が一気に抜けていく。
カカシは包帯で体のあちこちを巻かれていたが比較的、元気そうに見えた。
ちゃんと、ここに帰って来たんだ・・・。
イルカは万感の想いを込めて、カカシを見詰めた。
しかし、カカシの反応は違っていた。
イルカを見て首を傾げている。
こちらを窺い、警戒するような目をしていたのだ。
嫌な予感がした。
以前にも経験し、覚えがある光景だった。
もしかして、と思ったらカカシの口から、案の定、あの言葉が発せられた。
長閑とも言える口調で「覚えてないんだよね〜、あなたのこと。記憶にないんだよね〜。」と告げられる。
そして、ふっとカカシの瞳が翳り表情が曇った。
「忘れちゃって、ごめんね。」と続けて言われたのだが、その言葉にはイルカを慰めるような、詫びるような響きがこもっている。
イルカには、そう聞こえた。
「・・・いいんですよ。」
咄嗟にイルカの口から、そんな言葉が飛び出た。
「俺・・・。いえ、私のことは気になさらないでください。」
イルカはカカシの記憶から自分の記憶だけが失くなっていることに、すぐに気がついた。
多分、カカシは任務で何か記憶を失う状況に陥り木の葉の里に帰って来て、通常の記憶は戻ったがイルカのことだけ忘れている。
カカシの周りにいる子供たちとは普通に話していることから、そんなことが推測された。
あの未完成の術、カカシさんが自分で自分に掛けた術の所為で俺のことを忘れている・・・。
だったらイルカがカカシの名を呼べば、いいことであった。
そうしたら、イルカを思い出すとカカシは言っていたから。
でも、とイルカは自分を思い止めた。
カカシに忘れられて、ショックだったのは事実だ。
そのことを考えると胸が痛い。
自分を思い出してほしいとは思うが、大怪我をしているカカシに、あの未完成の術とやらの解術を施したら体に負担が掛からないだろうか・・・。
ただでさえ未完成の術だって言っていたのに解術に失敗でもしたら、怪我をしていてチャクラの安定していないカカシに、これ以上、体に負荷をかかるのでは、と不安になる。
それにカカシが生きていたこと、里に帰って来たことの喜びの方がショックな気持ちを上回った。
・・・不思議だ、とイルカは思い、ベッドの上のカカシを見る。
好きな人が生きていたことが、とても嬉しい。
自分のことを忘れていても、例え怪我をして帰って来ても、生きていることが一番、良いことなんだ。
そう思ったイルカは、この場で、いつものように「カカシさん」とカカシの名を呼ぶことが止めてしまった。
先決問題はカカシの体の治癒であって、自分の記憶の回復でない。
イルカはカカシに向かって、にこりと笑ってみせた。
「お騒がせして申し訳ありませんでした。」
ぺこり、と頭を下げる。
「無事なお姿を拝見して安心いたしました。・・・はたけ上忍。」
「イルカ先生?」
「どうしたの?」
「変だぜ・・・。」
急にカカシに向かって他人行儀になったイルカを見て驚いた子供たちが寄ってきた。
いつもは気軽に名を呼び合って親しげにしている二人の姿を目の当たりにしたので、どうしたことかと心配してくれたのだ。
「・・・あー、うん。」
イルカは、しゃがんで子供たちを目線を合わせて一人一人の頭を優しく撫でながら微笑んだ。
「えーと、な・・・。」
どう説明したらいいものやら、とイルカが苦笑いして思案していると察しのよい桃色の髪の女の子がイルカの耳に、ひそっと囁いた。
「・・・カカシ先生が記憶を失くしていたの分かったの?」
イルカは頷く。
「そのこととイルカ先生の態度、何か関係があるのかしら?・・・もしかしてだけど。」と聡明な桃色の髪の女の子は推理した。
「カカシ先生、イルカ先生のこと忘れちゃっているみたいだし・・・。」
簡単にイルカが来る前にあった、医者とカカシのやり取りを説明する。
「そっか・・・。」
ふーっとイルカは胸の重く蟠るの鈍い痛みを吐き出すように大きく息を吐き、子供たちを安心させるように笑った。
「・・・先生のことなら心配しなくていいからな。」
それから、もう一回、子供たちの頭を撫でて立ち上がりカカシに向かって会釈した。
「お大事になさってください、はたけ上忍。」
そうして、イルカはカカシの病室を後にした。
カカシは、その間、頬杖を突いてイルカから片時も目を離さずに、ただただ、じっと見詰めていたのだった。
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