憧れの人11
受付け所から出たカカシは先ほど聞いた二人の話を反芻する。
イルカが失恋したのは十代の頃なのは判明した。
一番目に告白を受けた時のイルカは十六歳だったらしい。
相手から告白を受けたと言っていたが、その相手は次の日に遠隔地に長期任務に行くことを既に知っていながらイルカに告白したらしい。
「なんとなくですが、イルカのことが本当に好きだったというのではなく里から離れる寂しさを紛らわす相手にイルカが丁度、よかったのではないでしょうか?」
受付けの中忍は言っていた。
「相手が長期任務で遠くに行った後、イルカは真面目に手紙を出していましたが。」
しかし、返事は一度も来なかったらしい。
やがて相手は任務地で知り合った相手と結婚をしてしまいイルカは風の噂で、そのことを知った。
それだけでも、かなり気持ちにダメージを受けたと予想されるが、その後、偶然にも会った相手に健気にもイルカは言ったらしい。
「ご結婚おめでとうございます。」と。
すると相手は嘘か真か知らないが、こう答えたらしい。
「誰?あなたのことなんて知らないし悪いけど覚えてないわ。記憶にないのよね。」と、けんもほろろに言われたという。
それを言われたのは大勢の人前で、言われたイルカは何も言わずに潔く相手の前から立ち去ったらしい。
「なんていうか、イルカ先生ってば・・・。」
カカシは再び、溜め息を吐いた。
聞いた話を思い出す度に溜め息が出て止まらない。
イルカの二番目の失恋話も思い出すのが嫌だった。
失恋になるのかは、ちょっと疑問に思うのだが・・・。
十七歳のイルカに、イルカの友人目当てに近づいてきた女性は、本命の人と成就した際に言わなくてもいい余計なことをイルカに言ったらしい。
すなわち「なんで、あなたのことを私が好きだと勘違いしたのかしらね。あなたのことなんて好きになる訳ないじゃない。」と言い放ち、周囲から物凄く反感を買い、そんな人間がイルカの友人と上手くはずもなく破局し、逆恨みをイルカにしたらしい、と。
イルカ先生もいい迷惑だよな〜、とカカシは思った。
出会う人に縁薄いのだろうか、と心配になったが、さっきの受付けの二人のようにイルカのことを心配している友人もいるので、あながち、そうも言い切れない。
単に運が悪かった、ついてなかっただけなのかもしれない、とカカシは考え直した。
そして三番目の失恋の話も思い出す。
「これも酷い話だよなあ・・・。」
任務に行っている間にイルカの死亡の誤報を信じたのは仕方がないといえるが、やっとのことで生きて帰って来たイルカへの仕打ちが酷だった。
多分、相手は何気に言ったのかもしれない。
「あら、死んだんじゃなかったの?もう、死んだと思っていたのに。」
既にイルカに興味を失っていた人間の言葉だった。
その言葉にイルカは呆然としていたらしい。
続けて「生きていてよかった。」という言葉も言ったらしいのだが、イルカは頷くだけで精一杯らしかった。
「イルカは呟いていましたよ、『俺、生きていてよかったのかな・・・』って。」
受付けの中忍二人はイルカとは一度目の失恋の頃からの知り合いで、任務も重なることが度々あり、イルカのすぐ近くにいることが多かったのだ。
だから、色々知っていた。
「十八歳という若さなのに、すごく人生に疲れた顔して『死んだ方がよかったのかもな』って寂しそうに笑って・・・。それから暫くの間、イルカが笑うことはなかったです。」
その時のイルカの気持ちを慮ってもいるのだろう、だから自分に、あんなお願いもしてきた。
イルカを悲しませないでください、と。
「悲しませるわけないじゃない。この俺が!」
カカシは呟くと、せかせかと歩き出した。
手に持っていた任務の依頼書は、ぐしゃりと潰れている。
聞き出したイルカの話を思い出すと手に力が入り持っていた依頼書が、ぐしゃぐしゃになってしまっていた。
そのことにカカシは気がついていない。
イルカが仕事に没頭し過ぎる、仕事熱心なのも、そういう経緯や過去があったからなのだ。
さらっと自分の過去の失恋のような話をしていたけれども実際は、まだ心の傷が癒えていないのかもしれない。
だから自分に忘れられたら、二度目はもう駄目かもと言ったのだ。
カカシに会いたくないと言ったイルカの気持ちも、なんとなく察せられる。
不意にカカシは立ち止まった。
「・・・もしかして俺はイルカ先生に、まだ信用されていない?」
だから大量の仕事を家に持ち帰ってきているのか。
いつ失恋してもいいように、無意識のうちに準備しているとかね・・・。
その考えに背筋が冷やりとする。
「いや、そんなことはないよ。」
カカシは自分に言って歩き出した。
「イルカ先生は俺のこと好きだし、俺もイルカ先生のこと好きだし。」
でも、自分の気持ちは寝ているイルカにしか伝えていない。
「決めた!」
カカシは拳を握った。
「今日の夜にでもイルカ先生に伝えよう!」
好きだって、ちゃんと。
「起きているイルカ先生に言わないと駄目だよね。」
カカシは今夜、イルカに告白しようと決意を固めたのだった。
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