The Three3
「俺、イルカ先生と迎えに来たんですよ。」
もう仕事終わりですよね?とカカシは打って変わって穏やかに言った。
イルカの滅多に見ない、怯えた様子に流石にやり過ぎたと感じたのか、今度は本当に笑ってみえた。
カカシは、本気でイルカに怒ることなんてできないなあ、と心の隅で思う。
惚れた弱みか何なのか、一生、頭が上がらないなと、とっくに解っていたのだ。
そして、あんなこと言わなきゃよかった、と先ほどの上忍控え室での発言を思い出してカカシは激しく後悔した。
アスマに揶揄われて、思わず答えてしまった。
「恋人とはね、キス二回だけ。」
恋人とは同性ではあるが、可愛い年下の人、イルカを指す。
キス二回とはカカシがイルカが思っているファーストキスの前に、一回、治療行為の一環として口移しで薬を飲ませてたというのも数に入れて答えたのだがイルカ自身は、このことを知らない。
何しろ、口移しで薬を飲まされた時、イルカは気を失っていたのだから。
事実上、カカシとイルカはキスを一回だけしかしていないことになっている、カカシとイルカの二人の間では。
カカシの答えを聞いてアスマは、再び、大笑いしていた。
笑いが収まってから、また聞いてきた、
「じゃあ、カカシ。その大事な恋人と、どこまでいきたんだ?」
大笑いされて、むすっとしたまま、カカシは静かに答えた。
「・・・・・・三回目のキスしたい、今年中に。」
「なんだ、えらく控えめじゃねえか。」
アスマが態と吹き付けてきた煙草の煙をカカシは手で払う。
「煙いっつの。それに、うっさい。」
イルカのこととなると冷静さを少々欠いてしまい、自分でも顔が熱くなっているのが分かり、照れ隠しのために怒ってみせた。
「悪かった悪かった。」
アスマはカカシを手で制すると、くいっと廊下を指差した。
「廊下に誰かいたんじゃねえのか?」
「え?」
「多分、イルカが。」
「なに!」
自分でも気づくのが遅いと、我ながら呆れてしまうが、廊下に出てみるとカカシにしか分からないイルカの残り香が微かにした。
「イルカ先生の匂いがする。」
ここにいたんだ、とカカシが呟くとアスマが罰の悪そうな顔をした。
「もしかして、話を聞いていたかもな。すまん。」
手を合わせてカカシの顔を拝んでくる。
「ちょっと、調子に乗っちまった。ほんとーに、すまん。」
「・・・いや、いいよ。」
途端にカカシは、そわそわと落ち着きがなくなった。
イルカの反応が、どう思ったのかが、ひどく気になった。
「俺、もう受け付け所に行くから。」
カカシは自分に用事がない日は、イルカを職場まで迎えに行き、一緒に帰るのが習慣になっていた。
この日は、イルカの受付けの仕事が終わるまで時間が、まだあったが到底、待っていられる気がしない。
一刻も早くイルカに会いたかった。
イルカが変な誤解をしないうちに、会って話をしたい。
あの人、ほっとくと最悪な展開にを考えて、その通りにし兼ねないし。
話がおかしな方向に行かないうちに、イルカを引き止めないと。
そして、何よりイルカが自分の発言で傷ついていないか、と考えるとカカシは胸が痛くなる。
内心、焦ったカカシはアスマに適当に手を振った。
「じゃね。」
言い終わるか終わらないうちにカカシの姿は、そこから消えていた。
泡を食って、カカシが受付け所の前まで来ると中から声がした。
イルカの声だ、誰かと話している。
カカシの耳にイルカの話している内容が途切れ途切れに聞こえてきた。
―カカシさんとは・・・・・・無理かも。
―暫く、里を離れて・・・・・・。
そして誰かがイルカに説得しているようである。
―駄目だ駄目だ。・・・・・・はたけ上忍と別れるとか言うに決まっている。
別れる!
カカシが聞けたのは、そこまでだった。
聞こえてきた衝撃的な内容に自分でも抑えが余り利かぬまま、ひっそりと受付け所にいるイルカの後ろに音も無く降り立った。
不穏な気配がカカシから駄々漏れだったが、カカシを止められる者はいない。
いつもは何かとストッパーな役をしている五代目火影は、今日の受付け所に不在だった。
カカシがイルカの発言に対して詰め寄ると、イルカはカカシに怯えたのか退いてしまう。
かつてない焦燥感に駆られてカカシはイルカの肩を掴んだ。
イルカを逃がしたくない、どこにもやりたくないという強い想いが湧き上がってくる。
明らかに、どきどきしているイルカを見ていると、こんな場合なのに可愛く映ってきた。
まるで、仔猫か仔兎か仔鹿のように。
それは、カカシの目にだけだったが・・・。
素直に口を付いて、そのままが言葉が出てしまう。
「仔猫ちゃんか、それとも子兎ちゃん?いやいや仔鹿ちゃん?」
いや、もっと、ぴったりなものがある。
「子羊ちゃんが最適かな。」
そして怯えたイルカを見て、現在、カカシは激しく後悔していたのだった。
イルカを傷つけてしまったことにだ。
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