15歳 8
「俺はね・・・」
言いかけてカカシの頭に悪戯心が涌き上がる。
「キス、デート、恋人」と仔鹿の耳元で囁いてみた。
思い切り、甘い声で。
仔鹿は見る見るうちに赤くなりカカシの胸を押してきた。
「や、やめろってば・・・」
もう一度、言ってみる。
「キス、デート、恋人」
「セ、セクハラだ!」
「あのねえ」
カカシは世紀の大発見か大昔の化石でもしたように仔鹿を眺めた。
「いまどき、これだけで赤くなるなんて初心過ぎない?よく、そんなんで潜入だの諜報だのしているねえ」
「う、うるさい!」
赤い顔で怒鳴られても迫力はない。
「いいだろ、任務に関係ないんだし。誰にだって、苦手なものの一つや二つや三つくらいある」
「あー、そうだねえ」
斯く言うカカシは天麩羅が苦手だったりする。
「苦手なものはあるねえ」
「そうだろ」と赤くなって迫力のない顔で仔鹿はカカシを睨んだ。
もはや顔は隠していなかった。
「もう俺、帰るから、ほんとに」
仔鹿はカカシのマントから逃れようと体を捩る。
「貴重な時間が失われていく、時間が惜しい」
「この後、どうするのさ?」
「どうするって・・・」
仔鹿は言おうか言うまいか、迷っているようであったがカカシなら大丈夫と判断したのか吐き出した。
「誰にも見つけられない俺だけしか知らない安全な場所に行く」
「で?」
「そこで少し眠る」
「眠るの?」」
「いいだろ」
仔鹿の口調は拗ねている。
「眠気は常にあるし・・・。睡眠は重要だ」
「ああ、そういや、前に来たとき、アンタ眠っていたもんねえ」
「・・・そういうこともあったな」
気が緩んできたのか、仔鹿は欠伸をした。
一回、欠伸をすると止まらないのか、連発している。
「里に帰ったらさ・・・」
うとうとしているのか、カカシの腕の中で目を閉じたり開いたりを繰り返していた。
目が、とろんとしている。
「里に生きて帰れたら死ぬほど眠りたい」
「それって矛盾してない?」
カカシの突込みにも反応が鈍い。
「死ぬ前に一度、ゆっくり眠りたいだけだ・・・」
眠いのか体を揺らしている仔鹿を胸に引き寄せると抵抗はなく、呆気なく寄りかかってきた。
ことん、とカカシの肩に仔鹿の小さい頭が乗っかる。
「ねえ、いつまでに帰ればいいの?」
「・・・明け方・・・までに」
「そ、りょ〜か〜い」
あやすように仔鹿の背中を叩くと、仔鹿は目を閉じた。
眠ってしまったのだろう。
仔鹿の全体重がカカシに圧し掛かってきた。
それを難なく受け止めてカカシは仔鹿を胸まで抱き上げる。
抱き上げると風の当たらない木の根元に腰を下ろし、そのまま、ただ眠っている仔鹿を抱きしめて。
空からは白い雪が舞い降りてきていた。
「ねえ、ちょっと」
カカシに呼び止められて隊長は足を止めた。
「なんだ?どうかしたのか?」
「どうかしたじゃなくてさー、どうかしてんの!」
少し苛立った声のカカシに隊長は眉を潜めた。
「なんだ、腹でも減っているのか?」
「さっき食べたばっかりでしょー」
「ああ、そうだったな」
「んもー、しっかりしてよねー」
何故か、隊長がカカシに叱られていた。
「悪い悪い。で、どうした?」
「アレだよ、アレ。例の案件!」
「ああ・・・」
隊長が思い出したように頷いた。
「いつになったら終わりになるのさ」
実はカカシは仔鹿の定期連絡に一人で行かされたのだ。
季節は、もう二月で冬真っ盛りだ。
定期連絡ではいつも通り仔鹿から巻物を二つ渡されただけで、これといって変わったことがなかった。
「十二月に会ったときには、もうすぐ任務最終回みたいなこと言っていたのに最終回が引き伸ばされてなーい?」
「・・・最終回ってなんだ」
「いったい、いつになったら、あの子は任務から開放されるのか知りたいだけだっての!」
「あー、はいはい。そういうことね」
含みのある言い方をして隊長は面の下で口角を上げた。
カカシの仔鹿に対する呼び方が、アイツからあの子に変わっているのに気がついたのだ。
「気になるってわけだな。なるほどね、ふーん」
「あのねえ、いやらしい言い方しないでくれる?」
「だって、前に緊急で会ったときカカシは結局、朝帰りだったよなあ」
「朝帰りって、そんなこと、あの子の耳に入ったら軽蔑されるから!」
カカシは、じろっと隊長を睨む。
「朝帰りしたって言っても俺は寝ずの番していただけなんだから!」
「寝ずの番?」
「あの子が眠っちゃったから俺は寒くないようにチャクラであっためていただけで、なーんにも疑われるようなことしてないの」
「へえ」
隊長が感心したようにカカシを見た。
「何にもしてないのか?」
「何にも」
「意外に一途で純情なんだな、見直した」
「意外には余計。それに俺はこれまで別に特に誰とも何もないから」
誤解されるような発言は慎んで、とか一丁前に言っている。
「大人になったなあ」
本気で言った隊長はカカシの頭を、ぽんぽんと叩いた。
すっかり話がずれている。
「それにさ〜」
話が、ずれているのにも関わらずカカシが嬉しそうに話してきた。
「この前、会いに行ったときにさ、あの子。髪を天辺で一つに結っていたの。もう、顔を隠さなくてもいっかーとか言って」
「ふーん」
「それが、またすっごく似合うんだよねえ。かわいいの」
「・・・ふーん」
「髪を結っている紐はシンプルな黒で、それも似合うんだけど今度、俺も髪紐をプレゼントしたいな〜なんて思っているんだけど」
「・・・・・・ふーん」
「あの子はどんな色が好きなのかなあ?どんな色が似合うかな〜?ねえ、どう思う?」
「さあ、俺には皆目見当がつかん」
好きなのあげれば?と隊長は、どうでもいいと言いたげにしていたが適当に助言した。
「うん、そうするよ。明るい色もいいけど淡い色もいいかもねえ。かわいいから可愛い系の紐もいいかも」
可愛い系の髪紐って、と突っ込みたいのを隊長は辛うじて堪えた。
せっかく春が訪れようとしている部下の邪魔をしたくなかったのだ。
冬の中では一番寒い時期ではあったが。
一頻り、あーだこーだと一人で髪紐論議をした後にカカシは、ようやく本題に入ったのであった。
15歳 7
15歳 9
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