15歳 7
「あー、じゃあ、俺は帰るから」
隊長が仔鹿に軽く手を上げた。
「今回は急に呼び出してしまって悪かったな」
「いえ、こちらこそ・・・」
「次の定期連絡は二ヵ月後だな」
「そうですね」
二ヶ月後は既に年が明けて二月になっているはずだ。
現在は十二月初旬で北風が吹いている。
寒くなってきたのか、仔鹿がぶるっと体を震わせた。
隊長もカカシも肩出しの暗部服の上に外套を羽織っているが仔鹿は、前回カカシと会った時と同じ服装だった。
長袖の黒いティシャツ一枚。
「上には俺がよーく説明しておくから心配は無用だ」
「いつもすみません」
ぺこっと仔鹿は頭を下げた。
隊長に対しては素直になれるようだ。
「えー、俺はまだ帰りたくないなあ」
「なに言ってんだ」
「だって、こじかはどうすんのさ」
カカシは小指を立てた。
「コレと会うってことになっているんでしょ?すぐに帰ったら、おかしいじゃないの」
「コ、コレって・・・」
カカシの表現に仔鹿は、ほんのりと頬を染めた。
「恋人との密会ってのは、すぐに終わらないものだよ」
色々することあるんだから、と言いかけて隊長に「いい加減にしろ」とまたまた強烈なデコピンを喰らっていた。
「いったー!でも、どうやって時間を潰すのさ」
すぐには帰らないんでしょ?とカカシに聞かれて仔鹿は不承不承認めた。
「・・・すぐには帰らないけど」
「でっしょー?」
「・・・俺にも用事があるし」
「あ、そうなの」
カカシは面の下で、ニコニコと笑った。
「それは好都合。俺は用事がないんだ〜」
「・・・だから?」
「今日の任務は、これで終わりでしょ。帰っても待機だし」
そうでしょ?と隊長に確認すると隊長は不承不承認めた。
「そうなるな」
「だからさー」
だから、とカカシはイルカに歩み寄った。
仔鹿が一歩、後退する。
「だから仔鹿の用事に付き合うよ。あ、デートでもする?」
ごく軽く、あっさりと誘う。
「で、でーと・・・」
仔鹿の顔が信じられないという風にカカシに向けられた。
真っ黒な目が大きく開いてカカシを映している。
よっぽど意外な言葉だったらしい。
顔を隠すことも忘れていた。
何かを言おうとして口を開けて止まっている。
時が止まったかのように、仔鹿は硬直していた。
「そ、デート」
カカシが頷き、もう一度、デートという言葉を口にすると、ぱっと仔鹿の顔が朱に染まった。
「デ、デデデ、デートだなんて・・・」
顔までか、下ろしてある髪の間から覗く耳も真っ赤になっている。
「デートだなんて、俺・・・」
恥かしいのか、自分の両手で自分の頬を包み込む。
「だって、デ、デートって」
両手を頬に当てたまま、カカシを見る。
その目は深遠の如く黒かったが、いつもとは違う色があった。
恥かしさや照れも含んでいたが、もっと違う艶みたいなものが。
カカシの喉が獲物を狙うかのように、ゴクリと鳴った。
「デートは、こ、恋人同士がするものだから、その・・・」
本当に仔鹿は色事方面は苦手らしかった。
「好きな人と恋人にならなきゃデートはできない・・・」
仔鹿には仔鹿のデートの法則があるようで。
消え入りそうな声で伝えてきた。
「・・・うーん」
隊長は腰に両手を当てて考え込んでいる。
今までの成り行きを傍観していた。
「仔鹿は何でも顔に出るって本当だったんだなあ、それに仔鹿の目は口ほどに物を言うってのも」
ついでにカカシを見る、仔鹿から目を離せないカカシを。
「そして目で殺せるから、仔鹿の目は隠しとけっていうのも頷ける。武器にもなるけど諸刃の剣でもある」
何やら分析している。
隊長は仔鹿を見つめて動かないカカシの肩を叩いた。
「俺、もう帰るから。明日の朝までには帰って来いよ」
「あ、うん」
カカシは生返事を返す。
「んじゃ、後は若者同士で青春してくれ!」
どっかの誰かが言いそうなことを言い残して隊長は、すっと姿を消した。
「あ、待って!行かないで!」
咄嗟に仔鹿が呼び止めたのだが間に合わない。
「一人にしないでよ!」
「一人じゃないでしょ。俺がいるでしょーが」
「もう帰る!」
「まあまあまあ」
混乱しているのか、カカシに腕を掴まれた仔鹿は容易くカカシの腕の中に収まってしまう。
寒くて震えていた仔鹿をマントの中に招き入れる。
寒くないようにマントで体を覆った。
「離してってば!」
「まあまあまあ、落ち着いて」
「イヤだってば!」
「まあまあまあ、ちょっと話を聞いてよ」
「気軽にデートだなんて言うヤツなんて嫌いだ!」
「そう?」
暴れる仔鹿を傷つけないように押さえつけてカカシは仔鹿の耳元で囁いた。
「俺のことは嫌い?」
ぴたり、と仔鹿は動きを止めてカカシを凝視した。
黒い目にはカカシが映っていて、いいなと思う。
「俺はね・・・」
後に続いた言葉を聞いて仔鹿は全身を朱に染めたのだった。
15歳 6
15歳 8
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