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15歳 10



カカシが戻ってくると同時に小舟は岸を離れた。
背中に負っていたイルカと、そっと船底に横たえる。
イルカの体は、そこかしこから血が滴っており服を塗らしていた。
顔色は、すこぶる悪い。
「出血しすぎだな」
船の舵をとりながら隊長がイルカの顔を覗き込む。
「このままじゃ、失血死してしまう、カカシ」
「あ、うん」
腰から造血用の丸薬を取り出し、イルカの口元に持っていく。
「ちょっとでいいから起きてよ、これ飲まないと」
意識が朦朧としているのか、カカシの呼びかけに反応しない。
「バカだなあ」
隊長が呆れたように言った。
「こういうときは四の五の言わずに口移しと相場が決まっているだろ」
「・・・口移し」
「じゃ、俺がやるか?」
「・・・いい、やる」
丸薬を口に入れ、イルカの頭抱き上げて口元に顔を近づけると、本能なのか急にイルカの目が薄く開いた。
「な、なに」
言葉に力がない。
「何って造血剤の口移しで飲まそうとしてんだけど」
「や、やだ・・・」
抵抗のつもりか、血だらけの手が途中まで上がり、カカシの胸を押そうとして力なく落ちた。
「男から口移し、なんて」
「あのねえ、飲まないと死ぬから!今の状況だと」
「女の子が、いい」
「じゃ、女の子に変化する?」
「本物の女の子がいい・・・」
死にそうなっていながらも、しっかりと自分の主張をしている。
「もー、我が侭だなあ」
有無を言わせず、面をずらしたカカシはイルカの唇に唇を重ねた。
口の中に薬を入れてやるとイルカの喉が、ゆっくりと動き嚥下したのが確認できた。



造血用の丸薬を飲んだイルカの頬に少し赤みが増したような気がした。
「止血するからね」
薬を飲んで目を閉じたイルカの体に止血の処置を施していく。
「ちょっと痛いかも」
なるべく痛くないように、とイルカの体に刺さった弓矢を抜いた。
やっぱり痛かったようで弱弱しい声が出た。
「・・・・・・いたい」
「あ、ごめん」
傷口から血が溢れてきたが、すぐに止血をして血を止める。
「大丈夫?」
イルカからの返事はない。
閉じてしまった瞼は開かなかった。
「まさか、死・・・」
最悪の事態を想定して血の気の引かせたカカシに隊長が冷静に指摘した。
「眠っただけだ、心配するな。そうそう死なん」
「ほんとに?」
イルカの口元に耳を近づけると微かな寝息が聞こえた。
「ほんとだ、寝てる」
ほっとしたカカシはイルカの顔に血で張り付いていた髪を取ってやった。
顔に付着した血を丁寧に布で拭っていく。
ばらばらになっていた髪を手で梳いて整えてやると、やっといつものイルカに戻ったような気がした。



「髪、解けちゃったね」
寝ているイルカに話しかけるが返事はない。
「今度、俺がイルカに似合う髪紐と贈るからね」
小舟の用意してあった毛布をイルカの体にかけてやった。
寝ているイルカを、じっと見るとカカシはあることに気がついた。
「今日の寝顔は安らか、だ・・・」
眉間に皺は寄っていないし、難しい顔もしていない。
安心しきった顔をしてイルカは眠っていた。
「このまま、川を下れば明朝には里に着く」
「うん」
「すぐにイルカは病院に放り込むことになると思うがな」
「そだね」
カカシは頷く。
そういえば、と隊長に質問した。
「なんで俺の本名を知っていたわけ?」
暗部は基本、身分を明かさない。
「今まで一度たりとも言ったことないよね」
それと。
「仔鹿の名前も知っていたけど、どうして?」
すると隊長は意味深に「ふふふ」と笑った。
面をしているのでカカシが「超美形」と評した素顔は隠されている。
「隊長は何でも知っている」
言うつもりはなさそうだった。
「あ、そう」
呆れたような声を出したカカシは一つ溜め息を吐いた。
相変わらず食えないヤツだと。



「で、もう仔鹿のことはイルカって呼んでいいんでしょ?ってか、もう呼んでいるけど」
「いいんじゃないか」
小舟は川を順調に下っていく。
辺りは闇に包まれている。
「イルカも本当の名前を呼ばれた方が落ち着くだろうし」
心の仕えも少しは晴れるかもな、と付け足した。
「胸のつかえも下りるだろう」
「胸のつかえ?」
「うん、まあ」
そうだな、と隊長が簡単に説明する。
「潜入の任務で今の今まで相手方を騙して自分を味方と思わせていたわけだろ」
「そりゃあ、まあ」
「潜入が長期に渡るほど、相手方への情の沸くこともある。もちろん、里への忠誠心はあるのが前提だ。潜入で一番、弱いところは最後の最後で自分のことがバレて相手に裏切り者と責められることだそうだ」
「元々、最初から裏切っていたのに変じゃない。矛盾しているよ」
「そうなんだ。潜入なんて心理的駆け引きが主だから、相手に気に入られようと手を尽くす。相手からいかに信用を得られるというな。まあ、人伝手に聞いた話しだが」
なんとなくイルカの顔を見てしまう。
「だから、イルカのように長期の任務が終わる心理的ケアが必要となる場合が多いから、当分、里にいることになるだろうなあ」
「じゃあ、俺が里に帰ればイルカはいつでも里にいるわけ?」
カカシは明るい声を出す。
「イルカに会い放題?」
「切り替えが早いヤツだなあ。シリアスな話をしていたつもりだったのに」
ぼやくように隊長が言うとカカシは、すかっと切り捨てた。
「そんな話より楽しい話が断然いいよ」
やる気も出てくるしね!と前向きだ。
「・・・若いなあ」
「十六歳だからね!」
カカシは胸を張る。
「イルカは十五歳か、一歳差ってちょうどいいと思わない?」
「何が?」
隊長が思い切り聞き返してもカカシは浮かれていた。
「イルカって、かわいい名前だよねえ。これからは、たくさん呼ぼうっと〜」
「青春っていいよな」
ぽつりと呟いた隊長は舟を漕ぐ。
若者たちの明るい未来は、すぐそこにあるようで。
それを示すかのように東の空が明るくなってきていた。



それから数週間後。
カカシはイルカの病室を訪れていた。
身体面からも心理面からもイルカは長期の入院を余儀なくされていた。
「イルカ〜、中忍試験落ちたんだって?」
ばばーんと病室の戸を開けたカカシは開口一番に、こう言った。
「筆記試験だけ病院から抜け出して受けたけど、途中で貧血で倒れて見つかって怒られて病院に連れ戻されたって聞いたよ〜」
「う、ううう、うるさい!」
体中、包帯だらけのイルカが枕を投げつけてきた。
「言うな!落ち込んでいるんだから!」
「だから、慰めにきたのに〜」
投げつけられた枕を受け止めてカカシはイルカの傍に来る。
当然のようにイルカのベッドに腰を下ろした。
二人の距離が、ぐっと近くなる。
「中忍試験なんて、また来年受けたらいいでしょ」
「今年、受けたかったんだ!」
「いいじゃない。来年、万全の体調ならイルカは絶対に合格するって」
「来年じゃ、もう十六歳じゃないか〜」
カカシから枕を奪い取ったイルカが枕を抱きしめて喚く。
「人より進級が遅いから、せめて十五歳の時に受験して合格して中忍になりたかったのに!」
「もう十六歳になったんだっけ?」
「一昨日なったよ!」
「そっか」
カカシは、にっこりと笑った。
「誕生日、おめでと」
包帯が巻いてある額に、さり気なくキスをする。
「はい、これ」
持ってきた小さな包みを手渡した。
「あ、ども。何これ?」
包みを開くと、髪を結う紐が出てきた。
「イルカに似合いそうな色の糸があったから、誂えてもらってきた」
「ありがと」
お礼を言ったものの、イルカは不思議そうな顔だ。
「もう何十本も髪の紐貰っているけど?」
「いいのいいの、俺の気持ちだから」
「うん・・・」
イルカが入院してから暇さえあればカカシはイルカの元へ通って来ていた。
素顔は晒しているものの、カカシは己の身分は名乗っていなかった。
だがイルカは何となく察したらしい。
特にカカシが誰かを問い詰めるようなことはしなかった。



「早く退院できるといいねえ」
窓の外を見ると澄み切った晴れ空が見えた。
季節は初夏で新緑が目に眩しい。
「イルカと手を繋いで青い空の下を歩きたいなあ」
カカシの言葉にイルカは、きょとんとしている。
「空の下は歩きたいけど・・・。手を繋ぐって?」
「まあ、今に分かるよ」
分からせる、とカカシが心の中で決意しているとイルカが暢気な声で言う。
「それよりも俺、眠りたいなあ、自分の家でさ」
「木の葉の里に帰ってきて入院したと思ったら、二週間も寝っぱなしだった人が何を言っているのさ」
「あれは!」
イルカが、ふるふると頭を振る。
「あれは意識不明っていうの、俺が言っているのは睡眠、眠ること!」
「あー、はいはい」
「でもさ」
ふとイルカが発した言葉にカカシは思わず顔が赤くなった。
「眠るときにカカシが一緒だったらいいなあ。抱きしめてもらえると、よく眠れるから」
「そ、そう?」
「うん!」
無邪気なイルカの笑顔はカカシのハートに直撃し。
恋に落ちたのだ、と改めてカカシに知らしめたのであった。


終わり




15歳 9
15歳 余談



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