二人の家 2
俺の大事な恋人のイルカとは十年前に知り合った。
二人が若かりし頃に。
イルカは任務先の野営地に来た中忍で、その時のイルカは細くて小さいくせに、あちこち、よく動き回って楽しそうにしていた。
何だか、いつも目に止まってしまって暇さえあれば、ずっと見ていたな。
人を惹き付ける笑顔をしていて。
イルカを見ていると俺の中の、何処かにある空洞が埋まるような気がしたんだ。
そのうち、見ているだけじゃ満足できなくなり、話すのが得意じゃなかった俺はイルカの体に、ぴったり寄り添うようになった。
体をくっ付けると暖かくて気持ち良くて。
だんだんと自分の体も心も暖まっていったのだ。
そんなある日、任務で俺は埋まりかけていた空洞が再び開いてしまって、どうにもならなくなった。
気持ちが収まらなくて、虚しくて寂しくて冷たくなっていく。
その気持ちは凶暴なものへと変化して、それは一番身近な暖かさを持つイルカへと向けられてしまった。
自分で自分が止められず、どうしようもなかったんだけどイルカが渾身の力で止めてくれた。
止めてくれた時、イルカの優しい気持ちが伝わってきて、気づいたときには俺の中の空洞は解けるように消えていた。
あの時もしも、凶暴な気持ちのまま俺が意図した通りに事が運んでいたら、多分、現在イルカと一緒に住むことはなかったと思う。
こんな関係にはなっていなかった。
恋人同士なんて、夢のまた夢であっただろう。
あの時の俺に向かって、時々思う。
早まらなくて良かったな。
そうしたら、こんな好いことが待っていた。
今の俺は途轍もなく、幸せだから。
イルカに会えて良かった、本当に。
でも、なあ。
俺は慢性的に悩んでいることを思い出した。
俺とイルカは確かに今、固く結ばれてはいる、精神面では。
精神面では・・・。
十年前、襲い掛かった時の震えるイルカが目に焼きついてしまっていて、未だに俺から離れない。
あれから、イルカを怖がらせるような、酷いことは絶対しないと心に決めた。
それから十年前の別れ際、自分の誕生日のことをわざわざイルカに、ばらした時はプレゼントにキスくらいしてもらえるかな、と思ってたんだけど。
イルカの中で、その選択肢はなかったみたいだった。
なんというか恋愛事に関しては疎いような気がする。
俺の期待したキスの代わりに、プレゼントだって約束事を書いた紙を渡されて、それでも充分嬉しかったけどね。
俺は、ふう、と息を吐き出し頭をがしがしと掻いた。
焦っても仕方ないか。
十年待ったんだから、あと十年くらいは余裕で待てるさ。
多分ね・・・。
俺は出勤してから、それとなくイルカの任務を調べてしまった。
いけないことだけど、だって、ちょっとだけ心配だったんだ。
イルカは変なところで運が悪いから。
任務は簡単なもので雪山の山道の整備で、期間は一週間だ。
早く帰ってくればいいな。
俺は、木の葉の里から見える遠くの山を眺めた。
山頂には黒い厚い雲がかかっていて、山全体は白く雪化粧をしている。
山の方は、かなり前に初冠雪が降ったから、もう結構積雪があるはずだ。
寒くないかなあ、イルカ。
風邪なんて引かないといいけど。
クリスマスまで一週間あったし、一人だったのでやることもない俺はクリスマスの準備をすることにした。
なにしろ、二人で過ごす初めてのクリスマスだからね。
気合も入るというものだ。
クリスマス用にワインを買ってみた。
イルカは甘いのが好きなので甘目のワインを。
それから、クリスマスらしくないけど鍋にしよう。
食べたがっていた蟹鍋とかね。
殻付きの食べ物がイルカは苦手なので、必然的に俺が殻を剥いて食べさせてやることになるし接触も増える。
ばっちりだね。
で、後は肝心のプレゼントなんだけど。
全然、決まってなかった。
クリスマス、明後日じゃん。
明日はイルカが帰ってくる日だって言うのに、用意できてないとは。
どうしよう。
悩んでいるうちに、あっという間は日は過ぎてイルカの帰還日になってしまった。
まあプレゼントは、きっとどうにかなるさ。
だが、当のイルカは中々帰ってこない。
もう、夜なのに。
帰還の予定時刻は、とっくに過ぎていて、俺は苛苛しながら受付けで待っていた。
ここにいれば真っ先にイルカに会えるから。
夕方からひどく冷え込んでいて窓の外を見ると、ちらちらと雪が降ってきている。
なんてことだ、益々寒くなるじゃないか。
皆はホワイトクリスマスだって喜んでいるけど俺にしたら、イルカの帰還の妨げになるんじゃないか、と気が気ではない。
雪なんてイルカが帰ってきてから、存分に降ればいいんだ。
忌々しい、と雪を睨みつけた時だった。
二人の家 1
二人の家 3
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