二人の家 1
俺は人生で一番、悩んでいた。
何って、イルカに贈るクリスマスプレゼントのことで。
十二月に入ってから、ずーっと悩んでいるのだ。
だってイルカの欲しい物が、さっぱり見当がつかない。
十年ぶりにあった最愛の恋人と過ごす、初めてのクリスマスにプレゼントを贈りたいのに。
イルカと再会して一緒に住むようになって分かったけど、だいたいにしてイルカは欲がない。
あれが欲しいとか、これが欲しいとか言ってるのを聞いたことがない。
テレビや雑誌を見ていて、食べたいものがあると「今度、一緒に食べに行こうね。」とか、行きたいところがあると「今度二人で行こうね。」とは言うのだけれど。
だが、言うだけなのだ。
言うだけで終わってしまって実行されたことがない。
イルカは言うだけで満足してしまうらしいから。
クリスマスまで残すところ一週間になってしまった。
なので、思い切って俺は聞いてみることにした。
「あのさ、イルカ。」
ちょっと、どきどきする。
だけどさ、聞くときは場所と時間を選ぶべきだよな。
朝の忙しい時に聞いたのが悪かったらしい。
「ん?何、カカシ?」
イルカは歯磨きを終えて洗面所から出てきたのだが、口の周りに歯磨き粉が付いていた。
いつも、ちゃんと拭かないから。
「歯磨き粉付いてるよ。」
とりあえず、俺はタオルで丁寧に口の周りを拭いてやる。
イルカは「ありがとう。」と笑うと思い出したように言った。
「あ、カカシ。あのね、クリスマスのケーキ予約しておいて。テーブルの上のカタログに丸をしておいたから。」
「あ、うん。」
「一番、大きいのだよ。忘れないでね。」
「分かった。」
イルカは肩に急いで鞄を引っ掛けると、更に急いで玄関に向かう。
今日、イルカは早めの出勤なのだ。
俺は見送りに玄関に行く。
「ケーキの予約、忘れないでね。」
イルカは大事なことのように俺に念を押す。
「分かったって。忘れ物はない?」
「うん、大丈夫。じゃ、行ってきます。」
玄関を出たところで振り返った。
「そういや、今日から一週間、里外任務だったけ。クリスマスには帰ってくるからね。」
「えっ。」
「行ってくるね。」
玄関のドアが無常にも、ぱたんと閉まった。
「イルカ・・・。」
今日から任務なんて今、聞いたよ。
それ、ケーキより大事なことだから。
結局、俺は重要なこと聞きだせず仕舞いだ。
おまけに。
任務よりケーキが優先事項なのか、イルカの中では。
楽しみにしてはいるんだろうけど、少しだけケーキに妬ける。
ケーキの予約はするけどさ。
俺は人けのなくなった家の中を、とぼとぼと歩いて居間まで引き返してケーキのカタログを手に取った。
ケーキのカタログを一通り確認した。
「イルカ、どこにも丸なんて付いてないんだけど。」
イルカのことだから忘れたに違いない。
「もー、イルカってば。」
でも約束したのでケーキの予約はしなければ。
確か、一番大きいのって言っていたっけ。
今日の俺の朝は、クリスマスのケーキ選びから始まった。
二人の家 2
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