地球征服物語 1
最近、矢鱈に視線を感じる。
何時、何処にいても常に視線を感じるが、見ているのは唯一人だ。
その一人が誰なのかもカカシは分かっている。
今、担当している子供たちの元担任のアカデミーの先生。
受付けで、時々会っているので顔は知っている。
それに頻繁に火影さまの執務の手伝いをしているので、だいたいの忍びが顔は知っている。
おまけに人が良くて、仕事熱心で、妙に愛嬌があるから好かれていたりする。
その人は、海野イルカという中忍。
「ん?」
またか、と思ってカカシが視線を感じる方向を見ると建物の影に隠れてだろうか、イルカがそっとカカシの様子を伺っていた。
ここんとこ、ずっとこうだ。
見ているだけで話しかけたりはしてこない。
ただひたすら見ているだけ。
最初の頃は用事があるのかと思って自分から近づいてみたのだが、カカシが近づくと一目散に逃げていく。
「何なんだろ?」
何か目的があるとは思うのだが、当の本人が捕まらないから仕方が無い。
そのうち分かるだろう、とカカシは放っておいた。
特に被害も無いしね。
それにイルカ先生なら気にもならないし。
そんな日が続いたある夜のことだった。
その晩は晴れ渡り、月が綺麗な夜であった。
星の一つ一つの輝きがはっきり見える。
カカシが単独任務を終えて里に帰ってくると、里の開けた場所の空が見渡せる場所で、イルカが一人で佇んで空を見上げていたのだ。
ある夜空の一点を見つめている。
夜空を見ている、その目は、どこか必死なものが伝わってくる。
何かを待ち望んでいるような。
誰かを待っているような。
カカシも空を見てみたが、空には燦然と輝く月と星しかない。
長いこと空を見ていたイルカは肩を落として項垂れた。
頭の天辺で結んでいる黒い髪の毛も項垂れる。
「やっぱり来ない。」
イルカの低く呟きがカカシの耳に届いた。
一言だけなのに、それには哀愁が漂い、絶望のようなものが感じられる。
そしてイルカには元気がない。
昼間、見かける笑顔も明るい雰囲気も微塵も無い。
何かを耐えているようで、只只、不憫な様子だった。
話しかけたほうがいいかな? カカシは元気がないイルカを見ていられず、何かをしたいと思ってしまう。
だが近づくと、いつも逃げてしまう人間が果たして、こんな時に話しかけて逃げないものだろうか、と危惧してしまう。
うーん、と考えているとイルカの方がカカシに気が付いてしまった。
はっと振り返りカカシを見止めたイルカは、途端に罰が悪そうな顔になる。
悪戯が見つかった子供のような顔だ。
何か悪いことでも企んでいたのか、しようとしていたのかな?
思わずカカシは深読みしてしまう。
だが、そんなことはなかったようだ。
イルカは罰が悪そうな顔から何かを決心した顔になり、カカシの方につかつかと寄って来た。
自分の方からである。
カカシ先生。」
イルカが固い声を出した。
「ごめんなさい。」
「・・・なにが?」
いきなり謝られてカカシは間抜けな声が出てしまった。
「俺・・・。」
イルカは躊躇っている風だったが、きりりとした顔になる。
「俺、どうしてもあなたの命を奪わないといけないみたいなんです。」
「・・・は?」
「俺の望みを叶える為に、あなたの命が欲しいなんて最低だと思います。」
「はあ。」
「でも、どうしてもやらなければいけないみたいなんです。」
イルカはカカシに頭を下げた。
「明日から、カカシ先生の命を狙わせていただきます。」
そして走り去ってしまった。
「命って。」
誰が誰を狙うって?
普通、そういう事って相手に宣言してからやるものなのか?
そんなことしたら、目的が達成出来ないんじゃないの。
カカシは半ば、呆れながらもイルカのあの様子では、何か並々ならぬ事情があるのかもしれない、と推理した。
カカシの命を狙うと言っておきながら、それはイルカの本意ではないような気がする。
本当は命を狙うのが目的ではないような、他の何かがだ。
イルカの真意を探る必要がある。
カカシは密かに決意した。
被害が拡大しないうちにね。
俺以外に「命狙う。」なんて言ったら、イルカ先生は同胞殺しになっちゃうかも知れないし。
本来ならば、里の仲間に命を狙われたら里長に報告しなければならないのだが。
なのに、それをしようとしない、躊躇わせるものがイルカにはあった。
そんな自分にカカシは疑問を感じながらも自分を納得させた。
今担当している子供たちの元担任だし。
先生が処分されたりしたら子供達が悲しむし。
理由をそうつけてカカシは、明日からイルカが自分のことを見ているだけではなくて、近寄ってくるのかと思うとちょっと楽しくなり始めた。
イルカに対して、不思議に悪い感情は沸き上がって来なかった。
地球征服物語 2
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