トラトーレ 1
カカシは、五代目に単独で至急という呼び出しを受けた。
このような時は、高いランクの任務が予想される。
そう思い、火影の執務室まで来てみれば。
「おお、カカシ。来たか。」
満面の笑みで五代目はカカシは迎えた。
「お呼びですか?」
カカシがやや真剣な面持ちで聞くと、五代目は大きく頷いた。
「ああ、頼みがあるんだが。」
任務のことか、とカカシは覚悟を決めた。
「はい。」
「ちょっと、お前、虎になっておくれよ。」
「虎、にですか?」
「ああ。」
動物に変化して、任務を遂行しなければならないのだろうか。
カカシは慎重かつ正確に虎に変化した。
大きな体躯に長い髭、長い尾は地面から浮かせて、毛は艶やかに光り。
黒くて大きい目は鋭く、前歯は長く尖っている。
変化したものとは思えないほどの見事な変化であった。
虎に変化したカカシを満足げに五代目は見ている。
「上手いじゃないか、カカシ。」
「そりゃ、忍びですから。」
喉の奥から、くぐもった声を出してカカシは答えた。
動物の声帯で、人の言葉を話すの難儀だ。
「で、五代目。どんな任務なんですか?」
「任務?」
「虎の姿が必要な任務なんでしょう。」
「いや、任務じゃないよ。」
五代目はあっさりと否定した。
「では、何故?」
すると五代目は、やや嬉しげに話し始めた。
「いや〜、さ。この前、ある大名のところへ行ったんだがね。」
「はあ。」
「そこで、虎を飼っていてさ。すごく可愛かったのさ。」
「で?」
「私も飼ってみたいと思ってさ〜。」
で、カカシに変化してもらったのさ、と軽く言う。
「じゃあ、つまり、俺を飼い虎にしようと?」
カカシの声が明らかに呆れたものになった。
可愛いから虎を飼いたい、と思うのも、ちょっとアレだが。
五代目は「いいだろ?二、三日だけだからさ。」と言っている。
当然のことながら、カカシは。
「お断りします。」
そう言って変化を解こうとしたとき、火影室の扉がノックされた。
「お入り。」と五代目が促すと入ってきたのは、中忍の海野イルカだ。
「火影様。明日の会議で使う資料をお持ちしました。」
書類の束を五代目に渡すと、イルカは傍らの虎に目を止めた。
「立派な虎ですね。」
「だろ?」
「すごく可愛いですね。」
「だろう?」
「触ってもいいですか?」
「いいよ。」
カカシの許可も取らずに五代目は勝手に返事をする。
イルカは虎になっているカカシに近づくと、そっと虎の首に両手を回した。
「わー。」
笑顔になる。
「すごい、ふかふかの毛ですね。柔らかい。」
「そうだろう?」
五代目は我が意を得たりとニヤリとする。
虎愛好家の同士を見つけたようだ。
「虎って可愛いよな、イルカ。」
「はい、とても。」
そして、先ほどから身動ぎしないカカシに言った。
「ほーら。虎は可愛いって皆、思うんだよ、カカシ。」
それに驚いたのはイルカの方だった。
「カカシって。もしかして、この虎はカカシ先生ですか?」
イルカが腕の中の虎のカカシを見ると、ぷいと顔を背けられる。
「カカシ先生?」
イルカの再三の呼びかけにカカシは渋々を答えた。
自分が変化したのを知られたくなかったらしい。
「はい、俺ですよ。イルカ先生。」
「本当にカカシ先生なんですね。」
イルカは再び、虎のカカシをぎゅーっと抱き締めた。
「わー、毛皮の感触がヌイグルミとは全然違いますね。」
「ヌイグルミ?」
イルカの発言を五代目は聞き咎めた。
虎のカカシは、話すなと云う風にイルカの口元をぺろぺろと舐めて、発言を阻止しようとしている。
にも関わらずにイルカは話してしまう。
「この前、誕生日祝いにって、カカシ先生から大きな虎のヌイグルミを頂いたんです。」
嬉しそうに話すイルカ。
「すっごい大きくて、ふわふわしてるんですけど。やっぱり、本物には適いませんね。」
「イルカの誕生日に大きな虎の、ヌイグルミ〜?」
五代目の意味有り気な視線にカカシは気づき、不貞腐れたように言った。
「別にいいでしょ。俺が誰に何をあげるかなんて、五代目には関係ないじゃないですか。」
「そりゃあ、関係ないけどね。」
五代目がにやりとする。
ふっふっふっと笑って、カカシとイルカを見た。
「へえー、そうだったんだ。なるほどねえ。」
むっとしたのか、カカシは虎の変化を解いてしまう。
変化を解いたカカシを見て、五代目は更に、にやりとした。
「和気藹々?その格好は友情の証かい?」
「格好?」 イルカは虎のカカシに抱きついていたのだから、カカシが変化を解いて人の姿になった時も当然、抱きついていた。
それは、まあ、置いといて。
何故か、カカシの手もイルカの背に回っていた。
二人で抱き合う形になっているのを五代目は揶揄したのだ。
「放っておいてください。」
カカシは五代目に一瞥をくれると「行きましょう。」とイルカの手を引いて火影室を出て行った。
イルカは慌てて、五代目に頭を下げていた。
トラトーレ 2
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