好きと言わない1
イルカには付き合っている人がいた。
もう三年にもなる。
恋人といっていいと思う。
好きになって自分から告白した。
まさか受け入れてくれるとは思っていなかったので相手が自分と付き合ってくれることになった時には息が止まるほど驚いた。
告白して、それで終わりだと玉砕覚悟でいたので。
二人きりになれる場所に来てもらって何度も深呼吸して、最高潮に緊張しながら思いを告げた。
「迷惑だと思いますけど」
その瞬間まで、言うのを止めようかとまだ迷っていた。
「はい、なんでしょう」
相手の優しい声が聞こえ、その声に後押しされて言ってしまったのだ。
「・・・好きです」
言った後、どっと後悔が襲ってきた。
やっぱり言わなければよかった。
言ったことで今まで築いてきた関係は崩れ去ってしまった。
結構、良好な関係だったのに。
ああ、俺って馬鹿だ・・・。
激しく後悔していると、とんとんと肩を叩かれた。
はっとして顔を上げると、そこには自分を見つめる相手の顔があった。
ちっとも怒っているようには見えず、気を悪くした風でもない。
相手は聞いてきた。
「それから?それで終わりですか」
「は?」
それからって?
意味が解らず瞬きを繰り返していると相手は少し眉を顰めた。
「好きですの続きの言葉はないんですか?」
「つ、続きって」
そんなの全く考えていなかった。
告白することだけしか頭になかった。
他に何があるのだろう?
続き続き、続きって・・・。
何も考えれなくてイルカが頭を真っ白にさせていると相手が教えてくれた。
「好きですの後は、付き合ってください、でしょう」
「え、付き合ってって・・・。付き合う!」
そんな台詞はイルカの頭の中にはなかった。
「付き合うって誰が誰と?」
思わず言ってしまうと相手は困ったように苦笑した。
「誰と誰って」
相手がおかしそうに笑う。
「告白した人と告白された人が、ですよ」
「そ、それって、つまり・・・」
告白したのはイルカだ。
告白されたのは・・・。
「俺とカカシさんが付き合うってことですか!」
「そうです」
告白された相手は、はたけカカシであった。
上忍でイルカと同性の男性で、冷静沈着で忍犬使い。
有名で強い忍者。
はたけカカシとは、そんな人だ。
イルカは自分とは釣りあわないと本気で思っていた。
思っていても好きになってしまったのだ。
「どうして付き合うんですか?」
イルカの素朴な疑問にカカシは僅かに肩を落とした。
「どうしてってイルカ先生、俺に告白したでしょ」
「しましたけど」
好きです、と気持ちを伝えた。
同性に告白されると迷惑だと思って、事前に断って。
それに男同士が付き合えるとは思っていなかった。
「なら付き合ってくださいってのが告白のセオリーでしょうが」
「そうなんですか?」
「そうなんです」
断言したカカシはイルカに告白の続きをするように要請してきた。
「さ、イルカ先生。もう一度、最初からです」
「最初から?」
「そ。俺に好きですって告白するところから、もう一回です」
「そんなあ」
あんなに緊張して言ったのに、それをもう一回だなんて。
イルカの心境としては泣きそうであった。
「さあ、頑張って!」
カカシがイルカに声援を送る。
「ちゃんと聞いていますから。ね?」
そんなことを言われると余計に緊張してしまう。
「あのっ、カカシさん」
「はい、なんでしょう」
「俺にこんなこと言われて迷惑だとは思いますが」
「迷惑じゃないですよ」
「すみません、勝手だとは解っているんですが」
「大丈夫ですよ」
「実は、俺・・・」
先ほど告白した時よりも数段、緊張が増している。
何しろ、カカシがじっとイルカを見ているから。
目を片時も放さずにイルカを見ている。
深呼吸をしても落ち着くことができない。
口の中が、からからに乾いてきた。
水が飲みたい、とイルカは頭の片隅で思っていた。
「カカシさんのことが」
「俺のことが?」
イルカが言いたいことを知っているのに言わせようとするカカシは、ちょっとずるい。
「好・・・」
どきどきとして言葉が出てこない。
好きな人の前だと誰でもこうなるのか・・・。
告白するって、すごいことなんだなあ。
今更ながらに実感した。
じれったくなったのかカカシがイルカの耳に囁いた。
「好きです、でしょイルカ先生」
「は、はい」
こくこくと頷いたイルカは、やっとのことで言った。
「・・・好きです」
「はい」
カカシは嬉しそうな顔になった。
イルカの両手を掬うように自分の両手で包み込んでくる。
「それから?」
「はい、ええっと」
カカシに教えられたとおりに言ってみた。
「・・・付き合ってください」
「喜んで」
その頃になるとカカシは何故か、いつもしている顔の覆面をとり素顔を晒していた。
片目を覆っている額宛も外されている。
素顔をカカシが目の前にいた。
いつもは片目しか出していないカカシであったのでカカシの素顔をイルカは初めて見る。
その顔に見蕩れてしまった、格好良くて。
「カカシさんて・・・」
格好良い、と言う前にカカシに唇を塞がれた。
何が起こったのかイルカには解らない。
こんなことは初めての経験だった。
生きてきて初の体験だ。
告白して付き合うことになったら、すぐにキスするものなのか。
イルカには判断がつかない。
長いこと唇を合わせて、ゆっくりと唇を離したカカシは微笑んでいた。
「付き合って最初のキスですね」
そうしてイルカはカカシと付き合うことになったのだった。
好きと言わない2
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