Slow Starter1
「カカシ、ちょっといいか。」
「うん?」
逗留している野営地でカカシは、同じく逗留している仲間の一人に話しかけられた。
仲間はカカシより年上だ。
「ここから少し先に大きな宿場町があってな。」
仲間は宿場町があると思しき方向を指差した。
「そこで、仲間が情報収集している。情報が集まり次第、ここに届けに来る手筈になっているんだが。」
次の任務地に向かわなければいけないのに、ここに逗留している理由は、その仲間からの情報待ちらしい。
「さっき、連絡用の式が来てな、情報を集めるのにもう少し時間が掛かると言うんだよ。」
「ふーん。」
カカシは、つまらなそうに呟いた。
「でだな、時間短縮のためにカカシにその宿場町まで出向いてもらって、その仲間と接触し直接情報を受け取ってきてほしいんだ。」
「えー、なんで、俺が。」
不満そうにカカシは抗議した。
「面倒そうだし、いやだなあ。」
「そう言うなよ。」
仲間はカカシの肩を、慰めるように叩く。
「情報収集しているのは年若い忍びだ。お前も十九で、とりあえず若いんだから、年が近いほうが自然に接触できるだろう?」
「自然に〜?」
「そうだ、兄貴だとか従兄弟だとか再従兄弟とだとか何とか言えばいいだろ。」
「兄貴ねえ。」
気が進まぬカカシに仲間は言った。
「情報収集している仲間にはカカシのことは伝えてあるから。宿場町まで行けば相手から接触してくるはずだ。」
もう決定事項になっているらしい。
「はいはい。」
カカシは重い腰を上げると指示されたとおり、その大きな宿場町とやらに向かった。
宿場町に入る前にカカシは忍服から一般人の服装に変化した。
ラフな服装がカカシを若く見せ、右目はさり気なく前髪を垂らして覆い隠す。
ぶらぶらと町を歩くと色々な人間が目に付いた。
旅姿の者が一番多く、次には町にある宿屋の人間であろう者たちが多くいたのだが、店の路地を少し裏手に回ると少々、目つきが鋭く柄の悪い者が目に付いた。
町を観察をしながら歩いているとカカシは勢いよく、正面から誰かにぶつかられた。
カカシなら避けることもできたのだが、何だか相手が意図して、ぶつかってきたような感じがして避けることはしなかった。
「ごめんよ、兄さん。」
ぶつかってきた相手は、頭がカカシの胸くらいまでしかなく見上げてくる顔は大人びていたが雰囲気は、あどけないものが漂っていた。
カカシより年下なのは間違いない。
体つきも少年特有の未完成さを残して肩は薄く体も細い。
そして、どこか人を惹きつけるものがあった。
現にカカシは見上げてくる黒い瞳に囚われていた。
黒い瞳にはカカシだけが映っている。
少年の黒い瞳に、頭の天辺で結っている艶のある黒い髪は、よく似合っていた。
顔には薄っすらと横切る傷があり、その傷でさえも愛くるしい。
黒い髪は好みだ、とカカシはぼんやりと思った。
「兄さん?兄さんってば。」
少年の呼びかけにカカシは、はっとなる。
兄さん、とは血の繋がりがある兄弟のことではなく、単にカカシが若い男性だということから呼んでいるのであろう。
「ああ、何も。平気だよ。」
カカシは知らず、ぶつかってきた少年を受け止めるために、少年の細い腰に手を回していたのだが慌てて、その手を引っ込めた。
「ぶつかって悪かったね。」
少年はカカシから一歩下がって謝ると、だっと振り向きもせずに駆けて行ってしまった。
その姿は、あっという間に見えなくなる。
ふうっと溜め息をついたカカシの手の平に小さな紙切れが残されていた。
紙切れには宿の名前と、部屋の番号、そして夜、とだけが記されてある。
「なるほどねえ。」とカカシは呟き、口角が少し上がった。
また、あの少年に会えるのかと思うと不思議に楽しくなったのだ。
Slow Starter2
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