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幸せ星 馴れ初め



カカシは、むしゃくしゃとしていた。
自分の無力さに。
中忍になって三年。
三年間、自分なりに一生懸命に中忍としても職務を真っ当してきたつもりだった。
だけど。
「ちきしょー」
唸ってカカシは地面を蹴った。
中忍になって三年でもカカシの前には大きな壁が立ちはだかっていた。
それは子どもだということ。
六歳で中忍になったカカシは三年たっても、まだ九歳であったのだ。
力はあるはずなのに子どもゆえに庇われて子どもゆえに甘く見られる。
それがカカシは我慢ならなかった。
一人前に扱ってほしい。
何度も訴えたが回りの大人たちは分かったと言いながらも、死に急ぐことはないと 九歳のカカシを同じ中忍なのに子どものように。扱われてしまう
そのことにカカシは、むしゃくしゃとして。
そして、ちょっと悲しくて。
任務が終わった後、カカシは一人、里の外れの森の中で悩みながらも拗ねていたのであった。



森の中、木の根元で膝を抱えて座っているカカシの耳に遠くから微かな声が聞こえてきた。
声が近づいてくるに連れて、それが能天気な歌声だと分かる。
舌足らずな歌声は、どうやら幼い子どもの声だった。
能天気な歌声は、迷子の猫がどうとか言っている。
「僕のおうちはどこかなあ〜」
近づいてきて歌声の主は森の中で迷子になっているらしかったのだ。
カカシの目の前に茂みが、がさがさと音と立てたかと思うと、そこから小さな顔が覗いた。
幼い子ども特有の小さなまん丸な顔とまん丸な黒い目。
頭の天辺で髪が結ってあり、それがぴょこんと揺れていた。
その子はカカシと見とめると無邪気な顔で、にこーっと笑った。
そして言った。
「みーつけたー」



みつけた、と言う言葉にカカシは目を、ぱちくりとさせた。
隠れん坊なんてした覚えはないし、大体にして 目の前の子どもと会うのは今日が初めてで話したこともない。
会ったこともないのに見つけられても困惑してしまう。
それに第一、自分より年下の子どもと遊んだことがない。
周りは皆、大人ばかりだったから。
どんな風に話したらいいかも分からなかった。
気後れするカカシを余所に子どもは、とことことカカシの傍に来た。
背は低く体は小さい。
何故か左手にはストローを挿して飲むパックのジュースが握られていた。
「見つけたから、今度はおにいーちゃんが鬼だよ」
子どもはカカシに言った。
「僕のこと見つけてね」
そう言い残して子どもは出てきた茂みに戻ろうとしている。
迷子じゃないのか?
カカシは子どもの手を、がっちりと掴んだ。



「ちょっと待て。おまえ、迷子じゃないのか?」
「えー」
カカシの質問に子どもは首を傾げる。
違う、と首を振った。
「さっき、うちはどこかと言っていただろ?」
再度、質問すると子どもは漸く「あー」と自分の状況を思い出したようだった。
「そうそう、僕、迷子なんだよねー」
迷子の割には暢気さ全開である。
ちっとも困っているようには見えない。
「かくれんぼ、しようよ」
そんな提案してきた。
カカシは、はあっと溜め息を吐く。
「隠れん坊なんてしたら余計、家に帰れないと思わないのか?」
「やだなあ、そのうち帰れるよ」
だって地球は丸いもん、とか暢気な割には、どこで覚えてきたのか口は達者だった。



「ところで、おにーちゃんはここで何しているの?」
一つの話題が続かないのも子ども特有のものかもしれない。
子どもはカカシに興味を示してきた。
「何って何でもいいだろ」
自分は大人だと思っていたカカシは子どもに自分の悩みを言うのが躊躇われた。
言っても、どうせ分からないと思っていたし。
「子どものくせに口出しするな」と、つい乱暴な口調になってしまった。
子どもは、くりくりとした目でカカシを見つめて持っていた紙パックのジュースを、ちゅーっと吸った。
そして言ったのだ。
「はんこうき?」



「反抗期って・・・」
よもや子どもの口から、そんな言葉が出るとは思わずカカシは絶句してしまった。
子どもからは驚くような言葉が次々と出てくる。
「生きていると辛いことってあるよね、そんな時って、つい『なげやり』になっちゃうよねー」
大人のような口調だった。
誰かの口真似かもしれない。
「そういうときはねー、美味しいもの食べてたくさん眠れば、わすれちゃうんだって」
「あ、そうなんだ」
「うん!あ、そうだ、このジュース飲む?」
子どもは飲みかけの紙パックのジュースを差し出してきた。
「・・・いい。いらない」
「そう、美味しいのになあ」
ちゅーっと子どもは、またジュースを飲んだ。
ジュースは子どものお気に入りらしい。
「あ、なくなっちゃった」
今、飲んだので紙パックのジュースは空になってしまったようだ。
「今度は、おにーちゃんのも持ってきてあげるねー」
子どもはカカシの手を取って勝手に指きり拳万をした。
小さな手は、やけに温かく感じたのだった。



その後、子どもを家までカカシは送っていった。
正確には森の外まで。
森の外まで連れて行くと一軒の家が見え、それが子どもの家だった。
カカシのバイバイーイと手を振り子どもは家に駆けて行く。
振り返って叫んだ。
「またねー、おにーちゃん!」
「うん、またな」
子どもと別れる時にはカカシは素直な気持ちになっていた。
見知らぬ子どもとの取り留めの無い会話。
脈絡がなく意味のない話。
なんだか、それが妙に面白くて楽しい。
ひと時の子どもとの触れ合いだったがカカシの心に何かを齎したのもしれなかった。



それから何度か任務の合い間に、その子どもに何回か会った。
子どもの家の近くの森の中で。
子どもが迷子にならないように。
約束通り、子どもは紙パックのジュースをカカシに持って来てくれた。
それは時には紙パックの牛乳だったりしたこともあって、その時、子どもはむくれていた。
「かーちゃんがさー」
大人のように愚痴を言う。
「ジュースばっかりじゃなくて、ぎゅーにゅーも飲みなさいって言うんだよねー」
僕、これ嫌いと顰め面で牛乳を飲んでいた。
「まあ、いいじゃないの、牛乳も」
大人びた子どもの様子がおかしくてカカシは笑う。
子どもと会う時は、随分と笑っているような気がする。



任務も焦らず気負わなくなってきた。
自然の流れに任せて頑張ればいいと思えるようになってきていた。
ある日のこと、子どもが片手に一つだけお気に入りの紙パックのジュースを持ってきた。
「家に一つしかなかったんだー」
あげる、とカカシに差し出してくる。
「え、いいよ。俺、いらないから飲みなよ」
カカシは遠慮したのだが子どもは頑固に横に振った。
「ううん、僕、へーき。おにーちゃん、疲れているんだから飲んで」と譲らない。
「なら、貰うけど」
子どもが、じっと見つめる前でカカシは紙パックにストローを挿して飲んだ。
余りにも子どもが、じっと見つめるので「一口、飲む?」と差し出すと子どもは、やはり首を横に振った。
「ううん、いらない」
「なんで?」
「だってさー」
子どもは大きな目を、くりっとさせる。
「最初に会ったとき、おにーちゃんの僕が飲んだの飲まなかったでしょ?」



カカシはびっくりした。
子どもが、そんなことまで覚えていたなんて。
「あれは、えっと初めて会って驚いたからで」
今では子どもに心を開いていたので、そんなこと気にならない。
そう言うと子どもは嬉しそうな顔をして、ごくんと一口、カカシからジュースを貰って飲んだ。
そしてカカシは、もう一回ジュースに口をつけたのだが、そこではっとなった。
これって間接キス!
カカシは、そういう知識は年の割りに豊富だったのだ。
そういえば、とあることにも気がついた。
この子の名前、聞いていない。
根本的なことも思い出す。
慌てて訊いた。
「ねえ、名前、何ていうの?」
「なまえ?」
「そう、教えてよ」
「ええとね、ユーカ」
「ゆか?」
「ちがうよ、ユウカ」
子どもは自分の名前が上手く発音出来ないらしかった。
何度訊いても舌足らずに『ユウカ』か『ユーカ』と言いカカシが聞き直すと、その度に違うと訂正された。
らちが明かない。



そうこうするうちに何者かの気配が近づいてきた。
誰かを探しているようだった。
きっと、この子の迎えに違いない。
「ねえ、お願いがあるんだけど」
カカシは子どもの手を、ぎゅっと握った。
「大きくなったら俺とさ」
ぽっと頬を染めてカカシは言った。
「俺とキスしてよ」
「きす?」
子どもは意味が分からず、きょとんとした顔をしている。
「そう。俺・・・」
その先を言おうとしたのだが感情が上手く言葉が纏まらない。
ただ、この子どもを誰にもとられたくないという気持ちが先行する。
それ、すなわち恋なのだが如何せん、カカシはそこまで答えを出せてはいなかった。
好きになったら大人はキスするから、というとこまでは知っていたのだが。



「だからファーストキスを俺にちょうだい!」
子どもはカカシの言っている言葉の意味が分かっていないのは明白であったが、 にこっと笑って「うん!」と元気よく返事をくれた。
そこへ子どもの迎えを思しき女性が現れて見咎められたカカシは、あっかんべーして逃げてしまった。
それから子どもには会っていない。



後に、その子どもがイルカと判明しカカシは狂喜乱舞する。
俺とイルカ先生は運命で結ばれていると強く確信した。
イルカに、このことを話すと何かを思い出したようで薄っすらと頬を染めていたのだった。





幸せ星14



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