幸せ星1
「あれ?」
夜、帰宅したイルカは郵便受けの中に一通の手紙を見つけた。
清潔感のある白い封筒が印象的だ。
「また、来てる・・・」
手紙を郵便受けから取り出したイルカは手紙の封を切る。
ざっと手紙の内容に目を通す。
中には分厚い手紙の束が入っていた。
それはイルカの安否を気遣うもので最後には必ず、体に気をつけるように、と書いてあった。
差出人の名前はない。
そんな手紙はイルカが両親を亡くしてから何通か届いていた。
差出人の名はないが筆跡から、今までの手紙の主と同一人物と推測される。
柔らかな筆跡は女性を思わせた。
「誰だろう」
イルカには思い当たる人がいない。
なのにも関わらず、その手紙からはイルカを心配するあたたかい気持ちが感じられたのである。
「イルカ先生」
「あ、カカシさん」
次の日の夕方、受付でカカシから報告書を受け取った際に話しかけられてイルカは微笑んだ。
カカシはイルカのアカデミーの教え子を受け持っている上忍で
中忍のイルカにも気さくに声を掛けてきてくれる。
「お疲れさまです」
「いいえ〜、イルカ先生の方こそお疲れさまです。今日は忙しかったんじゃないですか?」
朝からアカデミーの演習、夕方は受付所と仕事を兼務しているイルカを労わってくれた。
「そんなことないですよ」
カカシの労わりを嬉しく思う。
上忍のカカシは中忍のイルカに、まるで親友のように接してくれた。
上忍といえば一線を画すような印象があるのにカカシは、それを感じさせない。
分け隔てがない。
そんなカカシをイルカは好ましく思っていた。
優しい人だなあ、と。
簡単に言えば好意を抱いていたのである、尊敬の念を込めて。
「そうだ」
カカシが思いついたように言った。
「イルカ先生、これから夕飯でも食べに行きませんか」
いい店を見つけたんです、とカカシが屈託なく誘ってきた。
「夕飯、ですか」
カカシに誘われてイルカは逡巡する。
迷ってしまう。
カカシさんて目立つ人だし。
自分なんかが傍にいてもいいのだろうか、と躊躇う気持ちが前に出てくる。
カカシに憧れて尊敬している人間をイルカは両手の指を超えるほど知っていた。
この前も誘われて食事行ったばっかりだし、今日は・・・。
断ろうとした時だった。
受付の交代時間になり後ろから、とんと肩を叩かれた。
「よ、交代だぜ」
受付でのイルカの交代要員が来ていた。
イルカの受付での仕事の時間は終わっていた。
「あ、うん」
交代要員に引継ぎを行う。
「ここはこうで、あ、それは纏めて提出しておいてくれ」
「分かった」
イルカと同じ中忍であった交代要員の同僚はイルカより、少しばかり年上であった。
「お疲れー、イルカ」
年上ン同僚はイルカの背を、ぽんぽんと軽く叩いてから頭を撫でてきた。
「こら、よせってば」
頭を撫でられた所為でイルカの髪は乱れてしまう。
同僚の男性はイルカの抗議に、ちっともめげずに、よしよしと頭を撫でてくる。
イルカを年下の弟のように。
それもそのはずで、この同僚には幼い弟妹がたくさんいて家では面倒見がよいお兄ちゃんなのだ。
スキンシップが多少過剰なところが玉に瑕なのだが。
イルカのことも本当の弟のように可愛がってくれていた。
それを知っていたからイルカも強く出られない。
同僚だけど年上なので兄のように慕ってもいた。
そんな時、イルカと同僚との間を遮るような声がした。
「イルカ先生」
ちょっと強めのカカシの声だ。
「仕事が終わったのなら行きませんか」
「あ、すみません」
慌ててイルカは謝った。
カカシの誘いを断るつもりだったのに逆に待たしてしまっていた。
これではカカシの誘いを断ることは出来ない。
流動的にカカシの誘いでイルカは夕飯を一緒に行くことになってしまった。
「お待たせしてしまって申し訳ありません」
再度、イルカが謝るとカカシは肩を怒らせて目を剣呑に細めている。
怒っているらしい。
待たせたことがカカシの気に障ってしまったのだ。
怒っているカカシを見るなんて初めてでイルカは緊張してしまう。
どうしよう、カカシさん怒っている・・・。
待たせたことについては謝ったのだが。
だがカカシはイルカの思惑とは全く違うことを言ってきた。
受付所を後にして店に向かいながら二人きりになった時だ。
「イルカ先生!あいつ、何なんですか!」
「・・・あいつ?]
「ほら、さっき受付でイルカ先生の体にべたべた触っていた馴れ馴れしいやつですよ」
憤慨したように言い、カカシは不愉快そうな顔をした。
「体を触ったり髪を触ったりして図々しいったらないですよね!」
カカシが怒っていた理由とはイルカが考えているのとは少し違っていた。
「え、と、それは」
イルカは一応、弁解してみた。
「あいつ、小さい弟や妹がいるので俺のことも同僚だけど弟みたいに可愛がってくれていて」
「可愛がる!」
その言葉にカカシは敏感に反応した。
「可愛がってくれるって・・・」
苦虫を噛んだような苦い表情をカカシは作る。
「じゃあ、イルカ先生はあいつのことが好きなんですか?」
カカシから暗く低い声が聞こえた。
なんだか、おどろおどろしい感じがする。
イルカは、そんなカカシに驚きながらも隠す必要もないので正直に話した。
「好きか嫌いかって言ったら好きですけど」
だって同僚だし面倒見のいい、気のいいやつだし、とイルカは心の中で付け加える。
「そうですか」
明らかにカカシは、がっかりしている。
がくん、と肩も落ちた。
意気消沈している。
「カカシ先生?」
あまりのカカシの変貌振りにイルカは心配になって顔を覗き込む。
体の具合でも悪いのか。
「なんでもありません」
カカシは弱弱しく笑みを浮かべた。
強がっている風である。
「ちょ、ちょっと・・・。ちょっとだけ、びっくりして心臓が止まりそうになっただけですから」
「ええ!心臓が」
それは大変なことなのではないだろうか。
病院で診てもらった方が、と勧めるイルカにカカシは大きく息を吸い吐いてから宣言した。
「大丈夫です。でも俺めげずに頑張りますから!」
「あ、はい」
どうやらカカシは元気になったようだった。
呆気にとられるイルカにカカシは「あ、店に着きました」と告げる。
店に入ってからはカカシは普通で。
普通に喋り食べて笑顔も見せた。
その後は、いつも通りのカカシの様子にイルカは安堵の息を漏らしたのだった。
幸せ星2
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