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正体不明 1



初対面で不躾に言われた。
「イルカって髪を下ろすと、どうなるの?」
おまけに呼び捨て!
初対面でだぞ?
これが上忍のマナーなのか?
こめかみが、ぴくぴくするのを抑えて俺は何とか堪えた。
なんたって、この人、これから俺の大事な教え子の先生になる人だから。
ここは、ぐっと堪えないと。
堪えて答えた、なるべく愛想よく。
「え、えっとですね、普通です」
「普通って?その答え変でしょ」
突っ込まれた。
アンタの方が変だっての。
俺の髪の長さなんて、どうだっていいじゃん。
確かに俺は髪を一つに纏めているよ。
縛っているよ、理由はただ一つ、邪魔だから。
下ろしていると邪魔だし。
短くすると、しょっちゅう切らなきゃいけない気がして、つまりだ。
要するに面倒なのだ、髪の手入れが。
少し伸ばして縛っておくのが、一番楽。
理由は、そんだけ。
そんだけなのに。
「普通って、どんな普通なの?髪は、どのくらいの長さ?下ろすと雰囲気変わるの?ねえ、ちょっと下ろしてみてよ」
「はあ?」
初対面で呼び捨てされて、そんでもって唐突に髪を下ろせとかって。
いったい、何様?
俺が非難がましい目で見ても、そんなの何のその。
ちっとも効いてない。
上忍だからか?
上忍って、そんな偉いの?
俺の気も知らず、上忍は暢気にのたまう。
「イルカが髪を下ろしたの、見てみたいなあ」
だ、か、ら!
なんで、呼び捨て?
さっぱり訳が解らなかった。



この上忍は、はたけカカシという。
コピをする忍者とか、写輪の眼を持つとかで、所謂、すごい忍者だ。
ビンゴブックにも掲載されているらしい。
らしいって、ビンゴブックを見たことがないから知らないが。
そんな人が俺の大事な教え子を指導する、上忍師になった。
どんな人か、ものすっごく気になった俺は挨拶と称して、この上忍に会ったのだ。
会った途端に、冒頭の台詞。
・・・よく解らない人だ。
と、とにかく。
俺は気を落ち着けて、会話の軌道修正を試みた。
呼び捨てにされたのは、この際、忘れて気持ちを切り替えて。
「あ、あのですね、子供たちのことなのですが・・・」
「そうだ、今日、俺んち来る?」
「い、いえ、そうではなく、子供たち・・・」
「イルカの家でもいいよ」
「・・・じゃなくて」
「再会を祝して乾杯しようよ」
だめだ、会話が成立しない。
がっくりときたのだけど、だけど。
ちょっと待て。
会話の中に重大な発言があった。
上忍の発言に。
さいかい?さいかいって再会か?
俺は目の前の上忍を頭から爪先まで、まじまじと見た。
どこかで会った?
覚えがない。
記憶を掘り起こしても会ったという記憶がない・・・・・・・・ような気がする。
「ねえ、いいでしょ」
肩に腕を回される。
これは、あれだ、あれ。
あれ風に言うと、肩を抱かれる、だ。
・・・男同士で肩を抱き合うって、深い絆と友情で結ばれた親友だったら有り得るだろう。
でも、俺、この人と親友でもない。
むしろ、知らないことの方が多くて、知人の域を出ていない。
だって、俺にしたら今日、初めて会った初対面の人だもの。
しかし、だからと言って・・・。
俺の肩を抱いて、ふふふふと笑っている上忍を横目で見た。
正直に初対面だとか、再会って何?って尋ねたら、エラいことになりそうな気がする。
上忍の機嫌を損ねるのも怖い。
今日のところは大人しく、従っておこう。
会話から何か糸口が見つかるかもしれない。
そう思って俺は、この胡散臭い上忍と乾杯だか祝杯だかをすることになった。



「かんぱーい」
かつん、とグラスを合わせて乾杯した。
どうにか、どっちかの家は避けて、適当な店に来ていた。
初対面の人と何、話せばいいんだろ。
考えてみれば、そうだった。
会話から何か糸口たって、俺は目の前の上忍のことは何も知らないに等しい。
知っているのは名前と、二つ名ってやつと、容姿くらい。
容姿っても顔の大部分は覆面で覆われていて、片目は額宛で隠しているし、見た目の体格と髪型はつんつんヘアーで珍しい色をしていることしか分からない。
・・・まあ、ほぼ知らない人だ。
「イルカは何、食べる?何が好き?」
なのに、相手は俺のこと知っているようだしなあ。
うーん・・・。
「あ、なんでもいいです」
「なんでもが一番、困るんだよねえ」
「・・・じゃあ、テンプラで」
「俺、それ嫌い」
「えーっと」
えーっと、何を頼めばいいんだろ。
上忍の好みなんて知んないよ。
どうしたもんか、とグラスに口をつけていると注文を聞きに来た店員さんに上忍が勝手に、あれこれ注文していた。
「これとあれとそれとあれ」
俺に聞く必要あったのかな?
ちょっと疑問に思ってしまった。
黙っていると上忍が、にこにこしながら俺の方を向いた。
「いや〜、イルカと会えて本当に良かったよ。だって、恋人同士が離れ離れなんて不自然だもんね〜」
・・・・・・は?
今、なんつった?
「結婚を約束したもんね、恋人って言うより婚約者か、許婚が正しいかな。俺としてはフィアンセがいいな〜」
照れた感じで頭を、がしがしと掻いている。
「今までイルカに寂しい思いをさせちゃって、ごめんね」
これからは、ずーっと一緒だからね。
な、ん、て・・・。
なんて、言われても!
なっ、なっ、なっ、なんだっ、この展開は!
事実は小説よりも奇なりと地で行っているよ・・・。
完全に俺の許容範囲を超えてしまった。
キャパを軽く上回っている。
なんだ、コレ?
思わず、火影さまの孫の口調が出てしまうほどだ。



目の前の上忍を、まじまじと見つめる。
絶対に今日以前に会ったことはないと思う。
会ったことはない人間と恋人?婚約者?許婚?
つか、俺たち男だよな?
これは間違いない。
「そうそう、新居はどこにします?」
目の前の男は、既に覆面を下ろして俺に顔を見せている。
その顔は、かなり男前でハンサムだ。
「これからは、出来る限り一緒にいたいよね。離れていた時間を取り戻さないとね〜」
浮かれている。
「まあ、とりあえずは俺の家に来て暮らす?それとも俺がイルカの家に行ってもいい?」
同棲になっちゃうね、と、うきうきしている上忍。
「ね、イルカ!」
名前を呼ばれて、はっとして正気に戻った。
有りえない展開と話しに頭がおっつかなくて、魂がどっか遠くにいっていたようだ。
「あ、はい。そうですね」
・・・何の話をしていたっけ?
「じゃ、俺がイルカの家に住むね」
「えっ!」
「今日からイルカと一緒に住むんだ〜。夢にまで見た、憧れの恋人との同棲生活だ」
「ど、同棲?」
そ、そんな、ドウセーっていうんだ!
いや下手なダジャレを言って、寒くなっている場合じゃない。
「同棲って、あの」
パニクっていると上忍は微笑んだ、無駄に格好よく。
「イルカは何も心配しなくていいから」
不覚にも格好いい微笑に一瞬、どきっとしてしまった。
「今度は、ちゃんと約束を守るから」
「約束?」
「そ。守って護るから、イルカを」
なんだろう、上忍は真剣だった。
心に、すっと入り込んでくる声。
もしかして、聞き覚えがあるかもしれない・・・。
「あのときは、ごめん」
上忍の視線が下がる。
「イルカの命は助けたけれど、約束は守れなくて」
命を助けられたってことは、命の恩人ってこと?
「ずっと後悔していた」
しんみりとした雰囲気になる。
「だから!」
顔を上げた上忍は、真っ直ぐに俺を見た。
「今度はイルカの傍にして俺がイルカを護るから!」
有りと有らゆる外敵から!
自分の胸を、まかせろみたいな感じで、ばんと叩いている。
解らない。
・・・・・・・・・解らない。
この人、何者?
いったい、誰?
俺の恋人で婚約者で、命の恩人で。
これから同棲生活するって言っていて。
俺の記憶にない人。
悪い人ではなさそうだけど。
正体不明の上忍だった。



正体不明2

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