花の咲く色 1
「ん・・・」
カカシさんがベッドの上で伸びをしている。
両手を、ぐーっと上に伸ばして。
その様子を俺は布団の中から、目だけ出して眺めていた。
上半身に何も身に着けていないカカシさんは、当たり前だけど裸だ。
上半身だけ。
見事に鍛えられて、バランスのとれた綺麗な体。
ランクの高い任務をしているのにも関わらず、その体には殆ど傷跡がない。
優秀な忍の肉体をしている。
まさに理想の体。
そんなカカシさんを俺は見ていた。
「んん・・・」
目を瞑って、もう一回、体を伸ばすカカシさん。
惹きつけられるものがある。
なんていうか、なんていうか。
俺が言うのも何なんだけど、あれだ。
セクシー。
そんな言葉が、ぴったりと当てはまる。
男性なのにセクシーとは、これ如何に。
俺の身近に、こんな人はいなかった。
カカシさんと付き合うようになって、数ヶ月。
同じ男性として驚かされることばかりだ。
この人、俺と同じ男なのかと。
だって、男の人が女性を上回るようなセクシーさを醸し出しているなんて反則だろう。
しかも、毎朝毎朝毎朝。
カカシさんのセクシーさは無尽蔵なのだろうか。
謎だ。
で、対して俺はというと・・・。
セクシーとは全く無縁な人生を送っている。
だいたい、セクシーなんて言葉はカカシさんと付き合うようになってから、覚えて使い出した言葉だ。
どちらかというと俺は色気より食い気、花より団子みたいな感じだし。
な、の、に。
伸びをし終ったカカシさんは布団から顔半分出している俺を見て、にこりと微笑んだ。
そんな顔もセクシー感満載。
「イルカ先生、おはようございます」
「・・・おはようございます」
「今日も可愛いですね」
いつもの台詞だけど毎回、言われる度に思う。
・・・どこが?俺のどこが?
「すっごいセクシーです」
・・・・・・・・・何が?俺の何が?
そう、カカシさんの目には俺がセクシーに映っているらしい。
そんなことある訳ないのに。
天と地が引っくり返ったって有り得ない。
カカシさん、美意識が他の人と違うのかな。
それとも目が悪いとか。
うーむ。
俺の額に軽くキスをして洗面所に行ってしまったカカシさんを布団の中から見送って俺は唸った。
セクシーって何だろう。
色気とか色香とか、そんなかなあ。
男の人のセクシーって何?
疑問に思った俺は、男性限定でのセクシーさについて研究してみることにした。
布団から抜け出して、洗面所へ行くとカカシさんが髭を剃っていた。
顎に白い泡をつけて、剃刀で髭を剃っている。
あんまり、カカシさんは髭は殆ど生えない体質みたいだけど、身嗜みの一つとして朝はちゃんと髭を剃る。
もちろん、俺も。
「あ、イルカ先生。今、終わるから」
「はい」
「終わったら、朝ご飯作りますからね〜」
「はい」
カカシさんは、まめだ。
何でも、ぱっぱとやってしまう。
朝の短い時間の間にも、朝ご飯のおかずを作ったり。
俺は、いまいち手際が悪いので一人の時は朝は簡単に済ます。
パンとコーヒーとかで。
カカシさんが髭剃りをするのを、ぼーっと見ていた。
というか、見蕩れていた。
髭剃り一つにしても、俺とは違うんだよなあ。
ここにもセクシーがあった、カカシさんには。
「終わりっと。あ、イルカ先生も剃ってあげましょうか?イルカ先生、髭剃り苦手でしょ」
嬉々としてカカシさんが俺に近づいてきたのだが、丁重に遠慮した。
「自分でやりますから大丈夫です」
「そう?怪我しないでね」
あからさまに残念そうなカカシさん。
髭を剃っていて頬を、すぱーっと切った過去がある俺。
俺の髭なんて、剃っても楽しくなかろうに。
世話好きなんだろうなあ。
鏡を見ながら、大して生えてない髭を俺は丁寧に剃っていった。
てくてくとカカシさんと途中まで一緒に出勤をしてカカシさんは受付所、俺はアカデミーと一旦、分かれる。
「夕方、仕事終わり頃に迎えに行きますからね」
「あ、はい」
付き合ってから、任務以外では一緒に出勤して、一緒に帰っていた。
「夕飯、何か食べたいものありますか?」
必ず、訊いてくれる。
「あ、なんでも」
「じゃ、今日は食べて帰りましょうか」
「いいですね」
カカシさんと夕飯の約束をして、俺はアカデミーへ。
「またね、イルカ先生」
名残惜しそうにカカシさんは手を振って、任務に行く。
今日のカカシさんの任務は七班の子供たちとのはずだ。
カカシさんと分かれてから、俺は朝のことについて考えていた。
仕事の合間とか休憩時間とか昼休みとかに。
セクシーって何だろうと。
周りを見回して、同僚を見てもセクシーだと思う人間はいない。
男らしい同僚はいたが、セクシーとはまた違うよなあ。
うーん、解らない。
「どうした、イルカ?」
悩んでいると隣の同僚が声を掛けてきた。
「何か悩みか、色っぽい溜め息なんて吐いちゃって」
「は?」
今、何て?
色っぽい?
「なあ、今、何て言ったんだ?もう一回、言ってくれよ」
「え、いいけど。何か悩みか、色っぽい溜め息なんて吐いちゃって」
同僚は余すことなく、さっきの発言を再現してくれた。
「なあ」
俺は勇気を出して訊いてみた。
「色っぽいって俺のこと?」
違う、違うよな、うん。
なのに、同僚はあっさりと頷いた。
「うん、イルカのこと。最近、妙なってか変なってか、色気出てきたじゃん」
恋人でも出来たのか?と言われる。
そりゃあ、お付き合いしている人はいるけど、それは公にしていない。
誰にも公表していない。
何故なら、俺が恥ずかしいから。
俺に恋人なんてナンセンスだと自分でも思うんだ。
カカシさんには悪いと思うんだけど。
あの、あのカカシさんとお付き合いしているのが俺だなんて。
例え・・・、例えカカシさんから付き合ってほしいと言われたからって、本当にカカシさんと俺が付き合っているなんて言う度胸はない。
親しい人の多いカカシさんの広い人間関係に亀裂が入るような気がする。
そう考えるとカカシさんは俺のどこを気に入ったんだろ。
セクシーさの欠片もない俺のどこが・・・。
気が滅入ってくるのを振り切って、俺は男の人のセクシーさについて探究することを改めて決めた。
花の咲く色 2
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