5.灯かり
「パックン?あれ、いないじゃん。」
用があるのに、いないなんて。
また、あそこだな。
パックンの行く処は見当がついている。
俺に黙って行くなって言ってあるのに。
抜け駆けはズルイよ、パックン。
カカシはパックンがいると思われる場所へと急いだ。
ある民家の玄関の前に立つ。
こんこん。
玄関の扉を軽く叩くと、家の中から「はーい。」と声がしてパタパタと足音が聞こえた。
がららと玄関の引き戸が開いて顔を見せたのはイルカだ。
「あ、カカシくん。こんにちは。」
イルカににこりとされて、慌ててにこりと返すカカシ。
すぐに反応を返せるようになり、だいぶ進歩した。
「もしかしてパックンを連れに来たの?」
「あ、うん。いる?」
「うん。待っててね。」
イルカは家の中に入り、パックンを腕に抱き戻ってきた。
何で抱っこ?
パックンはイルカの腕に中で寛いでいる。
「何じゃ、カカシ。どうかしたのか?」
「何だって任務だよ。」
「任務!」
イルカの方が反応した。
「じゃあ、パックン。急いで行かないと。」
パックンをカカシの腕に渡してくる。
「二人とも気をつけてね。」
イルカは心配そうな顔をした。
「うん、簡単な任務だから大丈夫だよ。」
カカシが安心させるように言った。
「こっちのことは心配するな。イルカの方こそ夜は大丈夫か?」
だが、パックンが逆にイルカのことを心配している。
「う、うん。」
イルカはちらりとカカシを見ると目を伏せた。
「大丈夫だよ。ありがとう、パックン。」
カカシを見ないようにして、ぎこちなくパックンの頭を撫でた。
何かを隠しているように見える。
「じゃあ、またね。」
行ってらっしゃい、と顔を上げた時には、いつものイルカに戻っていた。
任務に向かいながら木々の間をパックンと共に難なく飛ぶ。
「ねえ、パックン。イルカの何を心配していたのさ。」
別れ際のパックンの言った事が気に掛かり聞いてしまう。
「大丈夫か、なんて聞いていただろ?」
「ああ、それか。」
パックンは、したり顔で答えた。
「実はな、イルカの家は今、電気が止められていてな。」
「え?」
「夜は家の中が真っ暗闇になるので、イルカはひどく怖がるのじゃ。」
「何で電気が止められたの?」
パックンが呆れたようにカカシを見た。
「電気代が払えないからに決まっている。」
「電気代・・・。」
「夜はイルカは電気を付けっ放しで寝ているらしいのだが、そのせいで電気代がかかってな。しかし明るくないと寝れぬのだからしょうがない。」
カカシはどう言ったものやら分からずにパックンの話を聞いていた。
「最近疲れているみたいなので尋ねると、夜眠れないと言うのでな。理由を聞いたら、そういうことだったんじゃ。」
「で、パックンはどうしてあげたの?」
「夜に一緒に寝ただけだが。イルカと。」
「寝た、って一緒に布団で?」
「当たり前じゃ。」
パックンが何やら胡散な目でカカシを見た。
「イルカがわしのことを、しっかりと抱きこんで寝ただけじゃが。」
イルカが暗いのを怖がる原因は薄々分かってはいるが、いいなあ、とカカシはつい思ってしまう。
「だから昨日の夜はいなかったのか。」
「うむ。カカシには悪いとは思ったがイルカは昨日は、ぐっすり眠れたようじゃ。」
「そっか、なら良かった。」
でも、とカカシは心配になる。
「いつから、イルカの家は電気が点くの?」
「電気代を払ってからじゃろう。」
「だから、それはいつだよ。」
電気が点かないとイルカは夜眠れない。
過去の厄災に今だ怯えているのだろう。
パックンは難しい顔をした。
「いつかは分からんが今晩ではないと思うぞ。」
カカシが足を速めた。
「じゃ早く任務を終わらせて帰ろうよ。」
急げば夜には帰れるよ、とパックンを急かした。
パックンも走る速さを上げる。
「それには賛成だ。」
「でさ、今日は俺もイルカの家に泊まるからさ。」
「何故じゃ?」
パックンが不思議そうな顔をする。
「イルカにはわしがいれば充分じゃぞ。」
「それが狡いっての。」
口喧嘩の様相を成してきた。
「俺だってイルカと一緒に布団で寝たいもん。」
「それはわしの特権だ。」
「そんなの、狡い!」
任務とは思えないほど、ぎゃあぎゃあと騒ぎながら移動する。
もはや任務は二の次になっていた。
大急ぎでカカシとパックンは夜までに任務を終わらせて報告を済ませた。
そして更に急いでイルカの家に向かう。
「あ、パックン。電気が点いてるよ。」
カカシはイルカの家の前で立ち止まった。
「本当じゃ。では電気代が払えたのだな。」
パックンも立ち止まる。
「ねえ、パックン。イルカの家、電気点いてるからもう行かなくていいんじゃないの?」
カカシの声には元気がない。
「うむ。そうだな。」
パックンも元気なく同意した。
カカシとパックンは肩を落としてしょんぼりとする。
「帰るか、カカシ。」
「そうだね。」
回れ右してカカシとパックンが去ろうとした時、後ろから元気な声がした。
「あっ。パックン、カカシくん。もう帰ってきたの?」
玄関からイルカが顔を出して「お帰りなさい。」と言い、にこにことしている。
「玄関の方で気配を感じたから、もしかしてと思って来てみたんだ。」
サンダルを履いたイルカが外に出てきて寄ってくる。
そして慣れた手つきでパックンを抱き上げてカカシの手を引いた。
「今から夕飯なんだ。よかったら食べていってよ。」
「いいの?」
カカシの躊躇いを余所にイルカは嬉しそうに言った。
「うん、勿論。それに今日は友達に二回も会えたし、いい日だね。」
「いい日?」
「そう思わない?」
イルカの問いかけにカカシは引かれた手を握り返した。
「うん、俺もそう思うよ。」
イルカに手を引かれて灯かりのある家に入る。
なんか幸せかも。
カカシがそう思いながらパックンを見ると目が合う。
お互いに考えていることは同じだと知れた。
少し笑った。
4.梨と友達
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