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生きていられる。
目の前が拓けた。
壁がなくなった。
明るくなった。
唐突に道ができた。
そんな感じだった。
「イルカ先生?」
カカシさんが俺に呼びかけて肩を揺すってくる。
胸のムカつきは、まだ残っているが今は、そんなことを言っている場合ではない。
「カカシさん」
俺は傍らのカカシさんを見上げた。
カカシさんは眠ったのか顔色が良くなっている。
カカシさんは生きている。
「カカシさん」
「どうしたの、イルカ先生」
「カカシさん・・・」
俺の様子に違和感を感じたのカカシさんが心配そうな表情になったのだが俺は構わず抱きついた。
「カカシさん!」
首に両手ですがり付いて、ぎゅっと抱きしめる。
「イルカ先生、何かあったの?」
カカシさんが俺の背に腕を回してきて抱きしめ返してきてくれた。
その腕は、いつも優しい。
いつも優しくて俺を慰めてくれてくれる。
元気をくれる。
だって好きな人だから。
カカシさんに抱きついて離れなくなっている自分に驚いた。
好きな人とは離れたくないってこうことか・・・。
遅まきながら気がついた。
それに・・・。
「あのですね」
好きな人に顔って照れてみれないものだなあ。
しみじみ思った。
「あのですね」
大きく息を吸い込み、俺は言った。
カカシさんの首に手をかけたまま、いったん、体を離す。
「俺、カカシさんが好きなんです」
「うん、知っているよ」
カカシさんの声は穏やかで優しい。
「知ってる、イルカ先生が俺のことを好きなのは」
「そ、それでですね」
俯いていた顔を何とかあげるとカカシさんと目が合った。
また、俯いてしまいそうになったけど堪える。
ドキドキしすぎて倒れそうだったけど、言わなくちゃと思ったんだ。
「その」
「うん」
「俺」
「はい」
「あの」
「イルカ先生」
名を呼ばれると不思議に落ち着いてきた。
「俺、今までカカシさんに迷惑掛けたりしちゃいけないと、ずっと思っていて」
今でも迷惑掛けてはいけないと思うけど。
「何でも一人でしなきゃいけないとか、自分で生きていかないといけないから誰にも頼れないって思っていて」
カカシさんは黙って俺の話を聞いている。
「カカシさんも俺も、お互いに大人だから甘えたりしないで一人で頑張らなくちゃとか」
そう思って生きてきた。
きたんだけど・・・。
「最初はカカシさんが里の大事な人だから助けないと、と思っていただけなんですけど」
そう言うとカカシさんは、ちょっと悲しそうな顔になる。
慌てて付け足した。
「なんですけどカカシさん、そんな俺に優しくしてくれて。髪紐をくれたりして・・・」
その髪紐は今も俺の頭で髪を結ってくれている。
「食事に誘ってくれたり、家に招いてくれて」
泊まったり一緒に寝たりして楽しかったのだ。
抱きしめてくれて、それがとても気持ちよくて安心して。
「そして、だんだん、好きになっていったんです」
「そうなんだ」
「そうなんです、それで変な話なんですけど、好きな人の前では無理しなくてもいいんだと気がついて」
本当に、それに気がつくのは、だいぶ遅かったけれども。
好きだと気がついてからも、それをあまり考えないようにしたりして逃げていたし。
あれこれと理由をつけては悩んで、一歩進んで十歩下がるようなことしていたし。
・・・それに。
そう、一番重要なことがあった。
寿命のことだ。
いつ死ぬか分からぬ身の上なのにカカシさんに好きだと言ってもらって、とても申し訳ないと思っていた。
さっき、それは解決したけどね。
それにカカシさんに自分が相応しくない、もっと好い人いるんじゃないかと思ってみたり。
ぐるぐると出口のない迷路を彷徨っていた。
「そうなんだ〜」
もう一度、言ったカカシさんは今度は俺を、ぎゅううっと抱きしめてきた。
かなりの力で体が痛い。
その痛さが嬉しくもあるんだけど、まだ傷が・・・。
「ちょっ、カカシさん、痛いです」
「あ、ごめん」
カカシさんは、すぐに力を緩めてくれた。
でも抱きしめたまま。
「嬉しさの余りです」
すりすりと俺に頬を寄せてくる。
「イルカ先生に好きって言ってもらえて嬉しくて」
「あ、ええ、まあ、はい」
「イルカ先生、俺もイルカ先生が大好きです」
「お、俺も、です」
何回も好きと言うのは恥ずかしい・・・。
「イルカさん、好きです」
「え・・・」
急に先生呼びから変わって戸惑った。
イルカさん、て。
「最初に会ったときは、こう呼んでいたでしょ」
カカシさんが、からかうように流し目をくれる。
「まあ、そうですけど」
「イルカさん」
「はい・・・」
そんな呼び方されると背中が痒くなってしまう。
「あの、先生の方でいいですから」
いつもの呼び方の方がいい。
なのに、カカシさんは俺を抱きしめたまま言う。
「もう、恋人なんだからいいじゃない」
・・・こい。
・・・・・・びと。
恋人?
「恋人!」
「そうでしょ」
カカシさんが、にやっとする。
「大好き愛してるって告白して、思いが通じたら恋人でしょ」
・・・・・・・・・そうなのか?
「そうなの。俺はイルカ先生が好きで、イルカ先生は俺が好きなんだから恋人でいいでしょ」
むしろ恋人以外にありえないとカカシさんが断言している。
ここまで長かったなあ、ほんとっ嬉しいとカカシさんが嬉々として俺を抱きしめた。
抱きしめてくれるのは嬉しい、とっても。
「イルカ先生の人生初の恋人でしょ、俺?」
「あ、ああ、そうですね」
そういや、そうだった。
「これから、よろしくね」
「俺の方こそ、よろしくお願いします」
カカシさんと自然と目が合って。
引き寄せられるようにキスをした。
ああ、幸せだ。
とっても。
俺も・・・幸せになっても良かったんだな・・・。
もう、一人で頑張らなくてもいいんだ。
抱きしめてくれる人が、ここにいるから一緒に頑張っていけばいいんだ。
大好きカカシさん。
その後、気になっていたことを聞いた。
「俺が急に部屋に現れて驚かなかったんですか?」
「ぜーんぜん」
カカシさんは憮然として首を横に振った。
「どーせ、あいつの仕業かと思ったから」
「あいつ?」
「ほら、前に俺がクナイを投げつけた傲慢で横暴で軽薄で、いけすかないおかしなやつがいたでしょう」
「ああ・・・」
あいつのことか、大魔王。
なんか、いちいち当たっているな。
「俺、あいつ、大嫌い」
カカシさんが珍しく感情的になって、そんなことを言っていた。
あれから、ずっと対抗心を燃やしていたらしい。
「でもまー、俺の方が勝っているし」
にこ、と笑ってカカシさんが俺を見た。
「イルカ先生が好きなのは俺だけだもんね」
「はい」
本当のことだから頷いた。
「カカシさんだけが好きです」
「イルカ先生!」
雨霰のようなカカシさんのキスが顔中に降ってきた。
「愛してます」
ずっと一生一緒です。
俺の一番欲しい言葉をくれたのだった。
終わり
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