弟の気持ち
漸く、彼の心の内側に入り込むことに成功した。
弱っているところにつけ込み、スルリと包み込む様に。
二人の間の壁を取っ払って、今では親しい間柄になった。
なのに彼は勘違いしている。
あなたは俺を兄のように思っているみたいだけど。
俺はあなたを弟のようには思ってないんだよ。
もっと確たる、絶対的な存在になりたいんだ。
それは、そう恋人になりたいんだ。
今日も彼と待ち合わせて帰る。
彼はアカデミーの先生で、いつもニコニコしていて人を惹きつける。
でもね、とっても寂しがりやなんだよね。
「イルカ先生。」 待ち合わせ場所に先に来ていたイルカ先生に声をかけると、すごく嬉しそうな顔で振り返った。
「カカシ先生。お疲れ様でした。」
イルカ先生の笑顔に、すごく癒される。
「今日はどこに行きましょう?何が食べたいですか?」
そう聞いて連れ立って歩き出した。
一緒に歩くと同じくらいの身長なので、イルカ先生の肩が時々触れそうになってドキドキする。
「そうですねえ。」
どこに行くか話しながら歩く。
二人でいると、とっても楽しかった。
「最近、イルカと益々仲いいな〜。」
俺が上忍控え室で、いつのもごとく溜め息をついているとアスマが揶揄ってきた。
事情を知っているくせに意地が悪いやつだ。
「そうだよ〜、仲いいよ〜。すっごくね。」
でも、それは年上を慕ってくる、つまり俺は兄のようなもので。
俺の気持ちと違う。
「なんだよ、悩んだりして。強引にいけば、いいだろーが。」
アスマが無責任に言ってくるが、そうはいかない。
「あのね〜、そんな簡単にいけば苦労しないよ。」
はああ。 でも、今の苦労をちょっと楽しんでいる自分がいたりする。
恋に恋しちゃってる自分をさ。
「おー、愛しの君が来たぞ。」
「ん?」
本当だ、イルカ先生が控え室に近づいてくる。
時々資料とか持ってくるから、それかな。
ドアがノックされて開かれた。
「失礼します。今月の任務処理状況表をお持ちしたので、目をお通しください。」 控え室にいる上忍達に丁寧に配っている。
そして、俺とアスマのところにもやって来た。
「お二人とも、どうぞ。」
「ありがと、イルカ先生。」
「すまんな。」
「いえ、どうしたしまして。」
笑顔で答えてくれる。
「おう、イルカ。」
アスマが何故か、イルカ先生に呼び止めた。
「はい。何でしょうか?」
アスマを見るとニヤリとして、俺をチラリと見た。
何をするつもりなんだよ。
「もしも、カカシに結婚話が持ち上がったらどうする?結構な数の見合い話や想いを寄せてる女もたくさんいるらしいぞ。」
「アスマ!」
突然、何を言い出すんだ、こいつは。
「最近、仲がいいんだろ。でも、カカシが結婚したら今と同じ付き合いはできないんじゃないか?」
そうなったら、どうすんだ?とアスマはイルカ先生に畳み掛けている。
だが俺に見合い話なんかは全くない。
ついでにイルカ先生にラブラブビームを出しているから、逆に女性陣からは応援されている。
嘘ついてまで、アスマはイルカ先生に何を言わせたいんだ?
イルカ先生はアスマの話を聞いて、少し考え込んだ。
目を伏せていて表情が分からない。
顔をあげてアスマを見てきたときは笑っていた。
「その時は祝福します。」
今度は俺を見た。
「心から。」
穏やかな顔をしていた。
そして、一礼すると行ってしまった。
「アスマ。」
自分の声が低く低く響く。
「殺されたって文句ないよね。」
殺気を隠すことなくアスマに向けた。
イルカ先生にあんなことを言わせるなんて。
穏やかな顔をして笑って言葉通り、そう思っているんだろうけど。
でも、目が。
目が、とてつもなく暗く頼りなげだった。
あんな顔をされるなんて。
泣いてくれる方がましだったよ。
「すまん。」
アスマが目の前で両手を合わせた。
「いや、ちょっと、お前達の仲を進展させようと思って、その、な。」
「殺す。」
「悪かった、本当に。後で幾らでも謝るさ。だけど、今は・・・。」
アスマはなんと、頭を下げてきた。
「イルカを追いかけろ。イルカの傍に行ってやってくれ。」
「イルカ先生。」
そうだった。
ここで、アスマを殺してる暇なんてない。
そんなことする暇があるなら、ちゃんとイルカ先生に言わないと。
俺の気持ちを言ったほうがいい。
これ以上、糸が絡まないうちに。
ちゃんと『好き』だって。
『好き』の意味も。
追いかけよう、早く。
俺は上忍控え室を飛び出した。
イルカは上忍控え室から戻ると、アカデミーの職員室で通常業務をこなしていた。
だがミスが続く。
「イルカ、お前、変だぞ。」
同僚に指摘までされてしまった。
「変かな、俺?」
「うん、今日はおかしい。」
「そっか・・・。」
自分で、何でだろう?と考えてみるが理由は分からない。
ただ、胸が痛いだけだ。
カカシ先生が結婚したら・・・、そう思うと胸がずきずきする。
「変なの。」
声に出して言ってみる。
カカシさんが結婚したら、そしたらカカシさんは幸せになる。
「いいことじゃないか。だって、あの人は兄のような人なんだから。」
イルカは集中すべく無理やり書類に目を通し始めた。
カカシのことを考えないようにして。
しかし胸は痛いままだった。
兄の悩みの続き
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