助けた人1
あ〜、もう面倒だなあ。
カカシは、よく知る仲間のよく聞く口癖を心の中で呟いていた。
ほんっと面倒〜。
それを口に出すのも面倒だった。
なぜなら、とても疲れていたから。
難しい単独任務を言い渡されて、その任務を完了したもののカカシは、ぼろぼろになっていた。
文字通り全身ぼろぼろで、頑丈で耐久性のある忍服もぼろぼろ、激しい戦闘で額宛も紛失していた。
チャクラも体力も、気力さえも底を尽き果てている。
そんな状態で何とか彼んとか里近くまで帰還した。
今にも倒れそうである。
おまけに不幸なことに怪我もしていて、踏んだり蹴ったりだ。
「あ〜、もう駄目」
呻くような声を上げるとカカシは倒れこんだ。
木の葉の里は、すぐそこ、目の前にあるのに。
もう少しで帰れるのに。
「誰か拾ってくれないかな」
俺のこと・・・。
そんなことを考えているカカシの目は、だんだんと閉じられていく。
いつも顔を覆っている布は、今はない。
戦闘で破れてしまっていた。
額宛もなく覆面のないカカシは珍しく素顔を晒していたのだった。
カカシの意識が落ちる寸前だった。
誰かの声がした。
非常に慌てている声。
「どうしたんですか!」
誰かが駆け寄ってくる気配がする。
最後の体力、気力を振り絞り閉じかけられた瞼を持ち上げると見知った人間だった。
彼の人となりは、よく知っている。
だから安心した。
決して自分を手荒に扱ったり、ひどいことはしないと確信しているから。
その人はカカシが指導している下忍の子どもたちの元担任のアカデミーの教師だ。
子どもたちから、その人柄をカカシは聞いていた。
お人よしで大らかで困っている人を放っておけない。
頑固だけど優しいところもあるのも知っていた。
イルカ先生。
心の中で、その名を呼ぶとカカシは今度こそ目を閉じた。
もう、大丈夫だと。
偶々、偶然、イルカは里の近くの森の中を歩いていた。
散歩していた訳ではなく、里の周囲のトラップの定期点検に来ていたのだ。
トラップは外部からの敵の侵入を防ぐためのもので里にとっては重要である。
「ここはオッケー。これで点検は終了かな」
特に問題点はないのでイルカが里へと帰ろうとした時だった。
微かに呻き声が聞こえた。
「敵!」と一瞬、身構えたが呻き声が聞こえた後、どさりと何かが倒れるような音がした。
「誰かいるのか・・・」
油断せずにイルカは声のした方へと近づいて行く。
木の陰から、そっと覗き込むと人が倒れているのが見えた。
その人は、ぴくりとも動かない。
忍らしいが忍服はぼろぼろで額宛もなく、どこぞで戦ってきたかと思われるような風体だった。
怪我もしているようで、体のあちこちから出血している。
大変だと思ったイルカは木の陰から飛び出した。
「どうしたんですか!」
駆け寄り、倒れている人の体を抱き起こす。
その人は薄っすらと目を開けてイルカを見たのだが、口元に微笑を浮かべると目を閉じてしまった。
名前も何も言わずに。
額宛もなく、また本来、忍服の二の腕部分や
ベストの背中部分についている里のマークも服がぼろぼろで判別出来ず、どこの里の忍か判らない。
「どうしよう・・・」
敵だったらという思いがあるが怪我している人を放ってはおけない。
このまま放置しておいたら死んでしまうかもしれない。
そんな気持ちがイルカを後押しした。
「助けなきゃ」
イルカは倒れていた人を、よいしょと背負う。
背負った人を揺らさないようにして小走りを始める。
「本当なら病院に連れて行った方がいいんだけど」
だけども身元が判らない。
どこの誰かも判らない人間だ。
イルカは迷う。
「里に報告しないといけない事案だよな」
でも怪我をしているし、それが治ってからでもいいんじゃないか?
怪我をして体が弱っている時に取調べを受けるのは辛いんじゃないだろか、と仏心を出してしまった。
だから体が治ってからでも・・・。
「うん、そうしよう」
一度、決めるとイルカは早い。
「俺の家で養生してもらって怪我が治ってから、この人のことを里に報告しよう」
上から少し怒られるかもしれないけど。
それに・・・。
イルカを見たときに浮かべた微笑が思い出される。
穏やかな顔だった。
穢れを知らぬ子どものような顔で。
「きっと悪い人じゃないさ」
イルカは助けた人を自分の家に運ぶ。
それが里の有名な上忍、はたけカカシとも知らずに。
イルカがカカシをカカシと判らなかったのは理由があった。
単純明快に素顔を見たことがなかったのである。
カカシの顔は普段、顔の半分を覆う覆面と片目を額宛で隠している。
その隠されている部分の顔をイルカは一度も見たことがなかった。
カカシの髪が灰銀色なのは承知しているが助けた人も同じ髪の色だな、くらいにしか思わなかったのである。
助けたカカシを運びながらイルカは呟いていた。
「髪の色はカカシさんに似ているけど別人だよなあ。だって世の中には三人は同じ姿の人がいるっていうし」
カカシさん、いつもクールで笑っているところなんて見たことないし想像出来ないし、なんてことを思っている。
カカシはイルカのことをよく知っていたが、イルカはカカシのことをほとんど知らなかった。
知っているのは強くて凄腕の上忍で好きな本が何かということくらいで。
あとはカカシに指導を受けている元教え子からの情報によるもの。
頻繁に遅刻するとか忍犬使いだとか本気になると凄いとか。
個人的なことは特に知らない。
なので怪我して倒れていた人がカカシだとは露ほどにも思っていない。
強くて高名なカカシが、まさか怪我して倒れていて自分が助けたとは夢にも思ってないイルカであった。
助けた人2
text top
top