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若き忍の星9



俯いたイルカは、ぜいぜいはあはあと息を切らしている。
何とか息を整えようとしているが自分ではどうにもならないらしい。
「あーっ、もう!」
大声を出したイルカは、ぎゅっと目を閉じ両手で耳を塞いでいる。
「どうして・・・。違うってば、そうじゃないから!」
カカシから見たら意味不明なことを言っていた。
切羽詰っている様子が見て取れる。
「これは俺の感情じゃなくて、違うから。俺の気持ちは・・・」
イルカは混乱していた。
ここまで来るとカカシでもイルカが間違って飲んでしまった薬の正体の予想がつく。
「好きだけど好きじゃないから!」
イルカが飲んだのは所謂、惚れ薬という類の薬に違いなかった。



「これは、まあ」
なんとも言えずカカシは気の毒そうな目でイルカを見つめた。
溜め息が漏れる。
「とんでもないもの飲んじゃったんだねえ、イルカは」
好きな子に飲ませろ、とは好きな子に飲ませて自分を好きにさせればいい、と何とも安直な薬であった。
一般的に言えば惚れ薬を飲ませた人間は最初に見た、会った、声を聞いた人を好きになると法則である。
イルカの場合でいえば好きになったのは単純に考えてカカシであろう。
それ故にイルカはカカシに「触わらないで」とか「寄らないで」とか言っていたのである。
もう手遅れみたいだが。
イルカは必死に自分に言い聞かせている。
「好きじゃないけど好き、だけど好きじゃないから。でも好きだけど」
相反する気持ちと心中、盛大に闘っているようだった。



「ふーん」
イルカの様子を観察してカカシは冷静に分析した。
「この手の薬って余り効かないのが常なんだけど」
感服したようにカカシは頷く。
「さすが木の葉の医療はすごいね。薬、一つ取っても世界一!」
褒め称えている。
そのカカシの横でイルカはカカシを見ずに懸命に葛藤している。
「ふむ」
カカシは何事かを考えて思いついたように、にこりと笑ってイルカの肩をぽんと叩く。
「イルカ!」と名前を呼んだ。
不意を突かれてイルカはカカシを見てしまう。
にこりと笑ったままのカカシはイルカに向かって両手を広げてみた。
自分の胸に飛び込んでおいで、という風に。
ふらふらとカカシに吸い寄せられるように近づいてくるイルカ。
黒い瞳はカカシだけど映して揺らめいている。
しかし、あと一歩というところでイルカは僅かに正気に返った。



自分の行動に、はっとなってイルカは硬直する。
「ち、違います、俺・・・」
揺らめいていた瞳が泣きそうになってカカシを見ている。
「はいはい」
優しい声でカカシは宥めた。
「いいのいいの、こっちにおいで」
腕を広げてイルカに微笑む。
「カカシさん!」
そう一言、叫んだイルカはカカシの胸に飛び込んできた。
ぎゅっとカカシの首に腕を回し、しがみついて来る。
「カカシさん、好きです!好きだけど好きじゃないんです!」
「分かったから、もう大丈夫だ〜よ」
「好きじゃないけど好きなんです!」
泣きそうなイルカの声にカカシは少し嬉しそうな顔をしているように見えた。
口元が緩んでいる。
薬で朦朧としているイルカに、どさくさ紛れに告白していた。
「俺は好きだからね、イルカのことが」
カカシはしがみついて来るイルカを落ち着かせるように大きな手でイルカの背を摩る。
もちろん、暗部の装備でイルカの背を傷つけぬようにだ。
それは、やがて合流地点で長いこと待たされた里の迎えの忍たちが痺れを切らして辺りを捜索し、カカシとイルカが発見するまで続けられたのであった。



里に帰還したイルカは任務の報告が済むと兎にも角にも、真っ先に薬品を開発する部署にいる友人を尋ねた。
言わずもがな、苦情をいうためにだ。
それと解毒剤をもらうために。
友人から渡された薬の所為で、口で言うのも大変な、えらい目に遭ったのだ。
そう惚れ薬とやらの所為で。
「どーしてくれんだよ、ええ」
尖った声を出してイルカは友人に詰め寄った。
「とんでもないことになったじゃんかよ」
少々、言葉が荒々しい。
「俺がカカシさんを好きだってことになっているじゃないか!」
イルカは近くにあった机を拳で、どんと叩いて抗議の意を露わにした。
「まあ、いいじゃないか」
友人は、のんびり言った。
「長い人生にハプニングはつきものさ」
「ハプニングじゃねええ〜」
イルカの口調は刺々しい。
「人為的な事故だろ、これは」
怒っている。
「早く解毒剤を出せよ、今すぐに」
「あのさあ」
実は、と言って友人が告白した内容にイルカは驚愕した。
「解毒剤がない〜!」
「そうそう」
友人は他人事のように頷く。
「元々、惚れ薬ってのに解毒剤はないのが通例だし、それにあれは試作品だったし。効き目もいつ切れるか分からないし」
とんでもないことを言っている。
「そんな・・・」
イルカは絶句してしまう。 「任務前に飲んだ薬は里に帰ってきてから全部、イルカの体から抜いたから安心だしさ。惚れ薬に関しても心配ないよ」
根拠のない慰め方をする。
「心配ないって言うけどなあ」
目を三角にしてイルカは言った。
「カカシさんに抱きついている俺を他の人に見られた時、めっちゃくちゃ恥ずかしかったんだぞ!」
分かるか、この気持ちと、とうとうとイルカは自分の気持ちを語ったのだが友人には一蹴されてしまった。
「だってカカシさんに聞いたら、このままでいいって言っていたよ」
いつの間にやらイルカの知らないうちにカカシとコンタクトを取っていた。
「カカシさんの都合が悪くないなら、まー、いっかと思ってさ」
「まー、いっか・・・じゃない。カカシさんの都合じゃなくて俺の都合で考えろよ」



その時だった。
「イルカ〜」
背後から聞きたくないも声がした。
「こ〜んな所にいたのね、探したよ〜」
「う・・・」
声を聞いたイルカの体が固まり、動きが止まる。
カカシの声であった。
イルカの振り向こうとする力と振り向きたくないという力が拮抗している。
結局、ぎこちない動きでイルカはカカシの方を振り返った。
「カ、カカシさん」
「はいは〜い」
嬉しそうに返事をしたカカシはイルカの方へ、両腕を広げる。
するとイルカはカカシに否応がなく抱きついてしまっていた。
ついでに、こんな言葉も言っている。
「カカシさん、好きです!でも好きじゃないんです、好きだけど」
やっぱり言っていることは矛盾している。
「じゃ、イルカは連れて行くから」
カカシは薬品開発部のイルカの友人に断ると、そのままの体制でイルカを連れ去ってしまった。



「ちょっとカカシさん、離してください」
イルカは言ったのだがカカシは、ひょうひょうとして答えた。
「くっ付いているのはイルカでしょ」
「それは、まあ・・・」
確かに、そうなのだが。
「こ、これは薬の作用で俺の力では、どうしようもないんです」
訴えてみたものの、カカシはイルカを腕に抱いたまま歩いている。
離そうとしない。
本来、腕に他の人間を抱いたまま歩くのって困難じゃないのかなあとイルカは頭の隅で思ったのだがカカシは軽々とイルカを抱いて重さを感じさせずに歩いている。
そこら辺が上忍たる所以かもしれない。
「だ、だいたい、お互いが離れていれば、この薬の効き目は殆どないんですから」
抱きついたまま間近にあるカカシの顔をイルカは顰め面で見る。
「カカシさん、暗部でしょう。里外に任務に行かなくていいんですか?」
訊くとカカシは、けろっとして言った。
「ああ、それねえ。当分、暗部は休業して、休養のため里にいることになったから、俺」
「ええ〜」
イルカから悲壮な声が上がる。
「ってことは、あの・・・」
「そ、つまりさ」
ひと気のない場所まで来るとカカシはイルカに囁いた。
「俺はイルカの傍にいるってことだ〜よ」



イルカを抱きしめてくる手が、とても優しい。
「なんかイルカのこと好きになっちゃったみたいなんだよねえ」
「え・・・」
「なんでかな、恋はある日突然にって感じなのかなあ」
「え・・・・・・」
「イルカも俺のことが今は薬の作用で好きなのかもしれないけれど」
囁いてくる声は愛しげだ。
「傍にいれば、きっと俺のこと好きになるよ」
好きにしてみせるから、とカカシはイルカの耳元で断言した。
「そ、んなこと・・・」
呆然としながらイルカは反論した。
「だって俺たち、男同士で。それにカカシさんが俺のことを好きだなんて」
信じられない、と声がする。
「恋って言われても。短い時間、たった数日、一緒にいただけなのに」
戸惑う心情が声から滲み出ていた。
「だーかーらー」
カカシがイルカの顔を両手で挟む。
「それが恋なんだよ、イルカ」



それからカカシの顔がイルカに近づいてきて。
そっと唇と唇が触れ合う。
正真正銘のキスをする。
若き忍の二人には恋の花が咲きそうであった。
大輪の花が。
その花は、きっととても綺麗に違いない。



終わり




若き忍の星8



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