ねこねこ 3
「はあ。だいぶ、やられちゃったな〜。」
暢気な口調だったが、任務でかなり傷付いて、カカシはボロボロだった。
里内に入ったものの、里外れも森の中で倒れてしまう。
倒れ付して、一歩も動けない。
チャクラも尽きて、自分ではどうしようもなかった。
「あーあ。俺、これで終りかな〜。」
走馬灯のように、人生をあれこれと振り返ってしまう。
「イチャパラの新刊、読みたかったなあ。帰ってから食べようと思っていた、冷蔵庫に入ってるプリン食べてくりゃ良かったなぁ。」
くだらないことも次々に思い出してしまった。
「あ、次の廃品回収でいいやと思っていた古新聞、この前出せばよかった。」
忍犬のことも思い出す。
「あいつら、俺がいなくなったら、少しは寂しがるかな。」
それから、イルカのことも思い出した。
「イルカ、どうしてるかな。俺のことなんて忘れちゃったかな。」
目を閉じるとイルカの姿が蘇る。
「イルカ〜。」
小さく呼んだ。
「にゃあ。」
「イルカ〜。」
「にゃあ。」
頬にざらりとした感触が。
カカシは閉じていた目を無理矢理開けた。
目の前には、白い体に黒い目の小さい猫。
「イルカ?」
信じられなくてカカシは名を呼んだ。
「にゃ。」
猫のイルカだった。
短く鳴いて、カカシの頬を舐めている。
「何で、此処に?この近くに住んでいるの?」
カカシの低い呟きにイルカは答えず、カカシの頬を懸命に舐めている。
「会いたかったんだよ。」
手を伸ばし、イルカを撫でようとしたカカシだが。
途中まで延びた手が、ぱたりと落ちた。
「はは、もう駄目みたいだ。でも。」
最後にイルカに会えてよかったな。
そう悪くもない人生だったな。
カカシの目は閉じられて。
にゃーというイルカの哀しげな鳴き声が森にこだました。
ぱちり、とカカシが目を開いた先は病院だった。
全身がだるく、体は包帯だらけだったが。
「生きてるじゃん。」
もう駄目だと思って覚悟したのに。
「どうして・・・・・・。」
考えて、最後にイルカに会ったことを思い出した。
「もしかして、誰かに知らせてくれたのかな。」
イルカのお蔭で自分は助かった。
そうに違いない。
ぱたん、と音がして病室のドアが開いた。
カカシが視線を向けると、見知らぬ人間。
黒い髪に黒い目の忍びの格好をした男。
顔には一文字の傷がある。
男は目覚めたカカシを凝視してから、相好を崩してベッドに駆け寄ってきた。
「気がついたんですね。もう駄目かと。」
良かった、本当に良かった、と胸を撫で下ろしている。
安堵して自分を見つめる黒い目が誰かに似ていた。
人間だけど、円らな黒い目。
懐かしい感じがする。
ある予感がして、カカシは名を呼んだ。
「イルカ。」
「はい。」
無邪気な返事が返ってきた。
やっぱり、そうだ、と確信する。
猫のイルカも雄だったし、この人間も男だし。
「あ。」
男は気づいたのか、慌てて口元を押さえた。
だが、もう遅い。
カカシは動く頭を男に向ける。
「イルカなんでしょ?」
猫が人間になるなんて、御伽噺もいいところだが何故かカカシは確信した。
「助けてくれて、ありがとう。」
イルカが、あそこにいてくれたお蔭で助かったよ。
「・・・・・・カカシさん。」
イルカが初めて、カカシの名を呼んだ。
猫の姿で懐かれるのも良かったが、名を呼ばれるのはもっと良い。
猫の姿も可愛いかったが、カカシの目には今のイルカも可愛く見えるから不思議だ。
体が動くようになったら、イルカを撫でてみたい。
撫でて甘やかして、じゃれあいたい。
人間の姿なのだから、多少のことは大丈夫だろう。
考えると、胸がわくわくする。
「早く元気になりたいな。」
「大丈夫ですよ。すぐに元気になります。」
カカシの思惑も知らず、イルカは微笑む。
カカシも微笑んだ。
イルカとは違う意味だったが。
後で、色々なことが分かった。
上忍控え室で猫のイルカのことを話したとき、紅や他の上忍たちは人間のイルカを知っていたので奇妙に思ったらしい。
カカシは人間の方のイルカには、生憎と会う機会がなかったので面識はなかったのだ。
それに、何故、三代目に猫の姿で甘えていたのか。
イルカは、ものすごく恥ずかしそうに、言い難そうに白状した。
「時々、猫の姿になって三代目に甘えていたんです。」
人間の時は甘えられないのですが猫の時は素直に甘えられるので、と小さい声で言う。
猫の姿だったのでカカシさんにも、ついつい甘えてしまいました、と付け加えた。
「あの猫の体の模様は?何で子猫くらいの大きさだったの?」
「三代目の趣味です。」
三代目が変化の術をイルカにかけていたので、カカシにも見抜けなかった。
カカシは眉間に皺を寄せ、イルカに聞こえないように「あの爺。」と呟く。
「え?」
「いや、なんでもないですよ。」
カカシは、にっこり笑って誤魔化した。
「じゃあ、今度は俺だけに甘えてくださいよ。」
「でも。」
「いいでしょ、だって、俺達、一緒の布団で寝た仲じゃない。」
イルカを困らせるために態と言ってみる。
「イルカは俺の膝の上が大好きでしょ。あ、腕の中の方がいいかな?」
「あ、あの。カカシさん?」
「お風呂も一緒に入りたかったんだよね?今度、一緒に入ろうか?」
人間の姿なら、風呂も問題ない。
むしろ、大歓迎だ。
それから、これだけは言っておかないと。
「もう猫の姿には、絶対にならないでね。」
「なんでですか?」
「そりゃあ、イルカが他の人間に撫で回されたら、俺がいい気分はしないからでしょ。」
すっごい嫉妬しちゃうよ。
「はあ。」
イルカは、曖昧に返事をした。
明らかに分からないといった表情だ。
今は分からなくても、追々、分かってくるだろう。
そして、痛感するだろう。
猫のイルカも好きだったが。
それ以上に、カカシが人間のイルカのことを好きになってしまったことを。
終り
ねこねこ 2
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