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鳴き声 前編



イルカと知り合ってカカシは気がついたことがあった。
人から、よく物を貰う。
それは食べ物というか、軽食類や菓子が多い。
「ほら、イルカ」
同じ上忍のアスマはイルカの姿を見るたびにポケットから菓子を出す。
まるで、イルカにあげるために常備しているかの如く。
「休憩時間にでも食べろ」と渡している。
また、同じく上忍でくの一の紅もイルカに食べ物を差し入れしたりしている。
それは女性だからなのか、スイーツの類が多いが。
イルカは大変恐縮し、必ず辞退を申し出るのだが、最終的に押し切られて渡されていた。
「いつも、すみません」
頭を下げるイルカは気の毒なくらい、畏まっている。
「こんなに頂いてばかりで」
しかし、イルカに食べ物をあげた人間は決まって、こう言っていた。
「いいんだ、気にするな。イルカが腹を空かせていないかと心配でな」
「イルカ先生がお腹を空かせているのかと思うと、気が気じゃないわ」
皆、一様にイルカがお腹を空かせていないかということを気に掛けている。
どうしてだろう?
カカシは疑問に思った。
大人なら、お腹が空けば自分で判断して食事くらいするだろう。
なのに。
イルカに食べ物を渡すのは・・・。
それは何を意味するのだろうか?
何気なくイルカを気に掛けていたカカシは、ますますイルカに興味を持ったのだった。



イルカはアカデミーの先生を主な仕事としている。
しかし、時には受付所にいたり、火影の補佐をしたりと様々な業務をこなしていた。
任務に出ることは少ないようだったが、常に忙しそうである。
そんなイルカがアカデミーで教えていた子供たちをカカシが引き継ぎ、現在は上忍師として下忍の指導をしていた。
イルカと知り合ったのは、そういう経緯である。
最初に会ったときのイルカは好印象だった。
「初めまして」と柔らかく笑うイルカにカカシは魅了された。
手を差し出されて握り返すと、その温かい感触に驚いた。
「カカシ先生」と自分を呼ぶ声が穏やかで優しい。
忍者なのにこんな人がいたのか、と衝撃を受けてしまったほどだ。
傍に居るだけで、気持ちが落ち着き寛ぐことができる。
つまり。
カカシはイルカを気に掛けると同時にイルカを気に入ってしまっていたのだった。



「こんにちは」
外で子供たち相手にの体術の指導をしていたときだ。
イルカが通りかかった。
両手に荷物を抱えているので、里中で用事であったのだろう。
イルカは荷物を抱えたまま、指導しているカカシの横へ立ち、子供たちが訓練している様を眺めている。
「イルカ先生は、これからどこかへ?」
尋ねるとイルカは首を振った。
「用事が終わって、帰る途中です」
「そうですか」
何とな〜くイルカ先生を飲みにでも誘ってみようかな〜とカカシが考えていたとき、丁度、訓練が終了した。
「イルカ先生〜」
子供たちが、ばらばらと駆け寄って来た、イルカに。
「イルカ先生、どうしたんだってば?」
「こんにちは、イルカ先生」
「どうも・・・」
三人三様に話しかけている。
「うん、今、お使いの帰りなんだ」
手が離せないイルカは、にこにこして子供たちの問いかけに応えている。
「みんな、頑張っているなあ。偉いぞ」
多分、荷物を持っていなかったら、ここでイルカは子供たちの頭を撫でているはずだ。
子供たちは照れ笑いを浮かべて、イルカの賛辞を聞いている。
少しばかり近況を話し、そろそろイルカが立ち去ろうとしたとき。
子供たちがポケットから何かを取り出し、イルカに差し出した。
「イルカ先生、これあげるってば!」
「イルカ先生、これ食べて」
「食べてくれ」
差し出したのは包み紙に包まれた、飴玉やクッキーだった。
「い、いや、いいよ。自分たちで食べなさい」
首を振って断るイルカだが、子供たちは引かない。
「いいから、食べてほしいんだってば」
「お願い、イルカ先生食べて」
「遠慮するな」
両手が塞がっているイルカのポケットに子供たちは差し出したものを入れてしまった。
「あ、りがとう、ごめんな」
済まなそうにするイルカに子供たちは口々に言う。
「いいんだってば」
「気にしないでください」
「腹を空かすな、イルカ先生」
やっぱり、ここでもイルカがお腹を空かさないように気にしている。
子供たちでさえも。
「うん、分かったよ。またな」
カカシに一礼するとイルカは去って行ってしまった。
腑に落ちないものを感じて、カカシは訊ねる。
「何で、イルカ先生にお菓子あげるの?」
「それは・・・」
子供たちが、ふっと遠い目をしたような気がした。
「知らなくていいってば」
「知らないほうがいいわ」
「知る必要はない」
教えてくれなかった。



イルカ先生がお腹を空かせると何かが起こるのか?
最近のカカシは、そればかり考えている。
イルカのお腹には秘密があるのか。
いったい、どんな秘密が・・・。
ある夜のことだ。
単独任務を終えたカカシは深夜の受付所に報告書を出しに行った。
この夜の受付所の係はイルカ。
カカシが受付所に足を踏み入れたとき、先客がいた。
顔見知りの上忍だ。
上忍とイルカは話していた。
その話し声が聞こえる。
「腹、減ってないか?」
「あ、大丈夫です」
にこ、と笑ったイルカが返事をすると上忍が、どこからか取り出したのか、何やら包みをイルカに渡していた。
「夜勤は腹が減る、休憩時間にでも食べてくれ」
包みの中は食べ物らしい。
「そんな・・・。いいです、受け取れません」
両手を振って断るイルカ。
だけども、この上忍も引かなかった。
「いいから、気にしないで受け取ってくれ」
腹が減ったら心配だから、と。
「すみません」
小さくなったイルカは、上忍の押しに負けて受け取っていた。
「ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げている。
「いいんだ。じゃあな」
安心したように立ち去る上忍に、カカシは訊いた。
「なんで、イルカ先生に食べ物あげるの?」
すると、ぽんと肩を叩かれた。
「忍犬使いなら・・・。犬が好きなら、いずれ解るときが来る」
意味深な発言だ。
その発言からカカシは思い出した。
この上忍は自分と同じ、忍犬を使役しているということを。



「今晩は、イルカ先生」
先ほどの上忍と入れ替わりにカカシは受付所に入る。
任務の報告書をイルカに提出した。
「任務、お疲れさまです」
深夜にも関わらず、笑顔で報告書を受け取りイルカはチェックする。
イルカの笑顔は疲れたカカシの心を潤してくれた。
「はい、大丈夫です。どうぞ、ご自宅に帰って、お休みになってください」
「うん・・・」
ちら、と机の隅っこに置いてある、さっきの上忍が置いていった包みを見る。
微かな匂いは、やっぱり食べ物だ。
「あの、イルカ先生」
「はい」
イルカが顔を上げる。
・・・なんで、食べ物を貰うの?
常々、思っていた疑問を本人に訊こうとしたのだが。
口から出た言葉は全く違っていた。
「今度、飯でもどうですか」
突然のカカシの言葉にイルカが、きょとんとしている。
「飯、ですか?」
何の脈絡もなく、いきなり言われたら誰でも戸惑うものだろう。
「ええ、前々からイルカ先生と話す機会があったらと思っていたんです」
イルカと二人で食事をしながら話をしたら、楽しそうだ。
もっとイルカの声を聞いて、笑った顔が見たいと思う。
自然に、そう思った自分にカカシは驚いた。
・・・俺って、結構、イルカ先生のこと気にしていたのね。
「あ・・・。えっと、俺でよかったら」
はにかんだ顔のイルカが頷く。
照れたように顔にある傷に触る。
「ぜひ、ご一緒させてください」
了承を貰えた。
「じゃ、明日ってか、今日の夜にでも」
時間は既に零時を回っている。
「約束ですよ」
カカシが言ったときだった。
どこからから聞こえてきた。
きゅうん、きゅうきゅう、くうくう。
子犬の鳴き声が。
本当に子犬の鳴き声しか聞こえない。
忍犬使い、犬に精通しているカカシが間違えるはずがない。
「子犬?」
どこに?
見回しても、そんな気配はどこにもない。
ただ、哀しそうな鳴き声がする。
雨の日に捨てられずぶ濡れになった子犬の哀愁を帯びた鳴き声。
くうくう、くうん、きゅう。
聞いているだけで胸が締め付けられる。
胸が痛くなってくる。
そして、イルカはと見ると・・・。
耳から項まで、首から上が赤く染まっており、見たこともない表情をしている。
めちゃくちゃ恥かしい、どこかに逃げ出したいと思っているような顔。
犬だったら、耳と尻尾が垂れ下がっているはずだ。
イルカのその姿に、カカシは胸がきゅーんとした。




鳴き声 後編


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