天使の眼3
※オリキャラ注意
カカシとイルカの様子には、お構いなしで光の球は話を続ける。
「イルカの、人間の世界で暮らす様子を上から見ていたんだけどね、人間の世界でも勤勉で真面目、正直で嘘をつかない。それが評価されて許されて帰って来いってわけさ。」
「でさー。」と光の球から溜息のようなものが漏れた。
「天界も忙しくてさ、是非ともイルカに戻ってきて仕事をしてほしいんだよねえ。」
なんだか、天界も人間の世界に似ていて、仕事事情は変わらないらしい。
「こんなことになるんなら人間の世界に修行に行かせるんじゃなかったよ。」
イルカを消すとか死なそうとか危害を加えるような意思はなさそうである。
そこのところはカカシは一安心したのだが、イルカを天界へ連れて帰られてはたまったものではない。
「ねえ、帰ってきてよー、帰ろうよ。」
強請るように言う光の球は、まるで人間の子供のようである。
「ねえねえ。」とカカシとイルカの周りと、ぐるぐると飛び回った。
そんな光の球体の様子を注意深く観察しながらカカシは、そっとイルカに聞いた。
「あれって、本当に天使なの?かつてのイルカ先生みたいに翼がないけど。」
「今は精神エネルギーだけの姿なので、あんな形に見えるのです。」
イルカは説明してから、辛そうに顔を歪める。
「誰もいない場所ならと思って、ここを選んだのですがカカシさんが来てしまうなんて。」
顔を見られたくないのか、イルカがカカシの肩に顔を埋めた。
「どんな結果になっても俺はいいと思って、でも最後にカカシさんに会ったりすると悲しくなるから・・・。」
悲痛な声で言う。
「今更、帰って来いなんて、俺、どうしたらいいんだろう。」
イルカは誰に話しかけるわけでもなく、自分自身に向かって呟く。
「俺は・・・・・・。」
その続きはカカシの耳にだけ聞こえた。
こんなにカカシさんを好きになってしまったのに。
「どうしたらいいかだって?」
光の球体が密やかな雰囲気を、ぶち壊すように会話に入ってきた。
「そーんなの簡単だよ。イルカは、その人間にご執心のようだけど、イルカの記憶からその人間の記憶を消去してしまえば一発オッケー。あ、その人間からもイルカの記憶を消しておくから問題ないよ。」
事も無げに言う。
まるで壊れた玩具を直せばいいのだという風に。
「それから、イルカに関わった人間の記憶も全部消しておくから平気。迷わず、天界に帰っておいでって。」
ぐるぐる回っていた球体は、カカシとイルカの前で、ぴたりと静止した。
「ね?解った?僕には、それくらい間単に、できちゃう力はあるしさー。」
光の球体の言い分を聞いてカカシは頭が痛くなってきた。
子供の我が侭な言い分のようにしか聞こえない。
記憶を消せば総て解決すると思っているのか。
例え、そうなっても心の奥底に大事な記憶や思い出は残るはずだ。
それが人間だとカカシは言ってやりたかった。
だが、その前にイルカが、すっと一歩前に踏み出し、光の球体の前に進み出た。
「お断りします。」
きっぱりと迷いもなく言い切った。
「帰ることはお断りします。申し訳ありません。」
「へええ。」
イルカの答えに光の球体の天使は機嫌を損ねたようである。
「そんなこと言っちゃっていいのかな?もう一度、よーく考えてみたら?」
「いえ。」
真っ直ぐな視線をイルカは逸らさなかった。
「あなたが巨大な力をお持ちなのは存じておりますが従えません。」
「そう、折角、迎えに来たのになー。」
イルカは前言を翻そうとはしない。
カカシは、はらはらと会話の行く末を見守っていた。
自分も何かイルカの助けになりたかったのだが入り込む隙がなく、また、この光の球体の天使とイルカは知り合いのようで話を遮るタイミングが掴めない。
「あっ、そー。」
光の球体は僅かに膨らんだ。
イルカの答えを良しとせず、どうやら怒っているようだ。
「じゃ、いいよ、帰ってこなくて。その代わり、まさか、このままでいられると思ってないよねえ。」
嫌な沈黙が落ちた。
「天界に帰ってこない、用のない天使は地獄に行きなよ。終わらない苦しみが無限に続く地獄にね。」
地獄?
カカシは聞きなれない言葉に戸惑う。
イルカ先生が地獄に落ちてしまうって・・・。
話が止め処なく、カカシの想像もつかない方向に進んでいた。
光の球体は最後宣告を告げた。
「天界に帰るか、地獄に落ちるか、どっちがいい?」
カカシは息を呑む。
「地獄に落ちた場合は俺の記憶を消すようなことはないでしょうか。」
変に落ち着いているイルカは冷静に聞いた。
「消す必要ないでしょ。」
光の球体は興味なさそうに答えられた。
「ならば落ちる方を選びます。」
「えっ!」
イルカの答えに光の球体の天使は驚いていた。
「それ、本気?」
「はい。」
「イルカ先生!」
カカシも驚き、慌ててイルカの傍らに近寄った。
「天界やら地獄やらと俺には話の展開が急すぎて、どうにも上手い言葉が出ませんが。今の話からするとイルカ先生は、人間の世界からいなくなり、尚且つ天界とやらには帰らないために無限の苦しみを受けることになる、そういうことですか?」
イルカの肩を揺さぶってカカシは強く問い質す。
「そんなこと、しなくていいんです。そんな目にイルカ先生が会うくらいなら、俺・・・。」
カカシは、ぐっと言葉を飲み込んだ。
俺、の後の言葉が思い浮かばない。
多分、俺はイルカ先生が帰っても、いなくなっても平気ですから、とでも言えばいいのだろう。
そう言おうとすると、何かが胸にこみ上げて来て、目頭が熱くなってきた。
「大丈夫ですから。心配しないでください、カカシさん。」
カカシの様子を見てイルカが微笑んだ。
「俺、人間の世界に来て、カカシさんを好きになって『好き』って、こんなに優しく温かい感情なんだと初めて知りました。一人の人を愛するって、すごいことなんですね。天界の愛は平等でしたから。」
自分の肩の上に乗ったカカシの手を労わるように、ぽんぽんと叩く。
「俺は、この感情を忘れたくありません。カカシさんを、ずっと好きでいたい。好きであることが俺を勇気付けてくれます。だから辛くても悲しくても大丈夫です。」
「イルカ先生。」
「カカシさん、好きになってくれて、ありがとう。」
憂う気配は微塵も見せずにイルカは綺麗に笑う。
「そんな・・・。」
イルカの肩に置いたカカシの手が微かに震えた。
「そんなこと言わないで、イルカ先生。」
「だって、これが一番いい方法なんです。」
違います、とカカシはイルカの言葉を全力で打ち消した。
「そういう時は、一緒に来てって言うんです!」
「一緒に・・・?」
カカシの言葉にイルカは目を見開いた。
「そうです、二人一緒に地獄とやらに落ちればいいんです。」
「カカシさん。」
「ね、イルカ先生。」
そうしてカカシとイルカの視線が絡み合い、ムードも高まったところで、またしても、それをぶち壊す者がいた。
「なあーんだ、つまらない。」
光の球体が、気づけば二人の周りをまた、ぐるぐると回っていた。
「地獄に落とすと言えば、イルカは天界に帰ってくるかとも思ったのに。」
そして質問してきた。
「愛するって、そんなのにいいものなの?」
「ええ、まあ。」
イルカが答えると光の球体は、きゅっとカカシとイルカの頭上で止まった。
「なんだか『愛』って面白そうだから、上から少し見ていることにするよ。」
「上からって、どういうことですか?」
「つまりさ、イルカは今のまま人間界にいても、いいってことさ。あ、背中の羽は成長を止めておくからね、見付からないように気をつけて。」
光の球体は、急速にイルカに興味を失ったようだ。
実に気まぐれである。
「じゃ、僕、帰るから。あー、少しの間『天使の眼』で見ていてごめんね。バイバイ、またねー。」
そう言って光の球体は急スピードで空に浮上し、あっという間に雲の間に隠れて見えなくなってしまった。
呆気に取られてカカシとイルカは去って行く光を見つめていたが、はっと気がついたカカシが空に向かって、一言叫んだ。
「もう、来るなっー!」
カカシの唯一の反撃といえる。
それから、カカシとイルカは顔を見合わせて、ちょっと笑って手を繋いだ。
「とりあえず、良かったですね。」
「はい。」
「帰りましょうか、家へ。」
「はい。」
嬉しそうにイルカは頷く。
ぎゅっと握る手に力を込めてきた。
そしてイルカは言う。
「カカシさん、大好きです。」
「俺も。イルカ先生、大好きです。」
幸せそうな二人であった。
終わり
天使の眼 2
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