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ずっと待っていた1



「ムカつく〜っ」
言ってからイルカは木の幹を、どんと叩いた。
握り締めた拳で、力いっぱい。
「めちゃくちゃムカつく」
言ったイルカの顔色は悪い。
青褪めて血の気を失っている。
腰のポーチから兵糧丸を取り出したイルカは、それを口に含んだ。
眉を顰めて飲み下すのに四苦八苦している。
がりがりと噛み砕き、どうにか嚥下した。
だが嚥下した途端に激しい吐き気に襲われる。
胸を押さえてイルカは、しゃがみ込んでしまった。
口元を押さえて目を閉じて、どうにか吐き気をやり過ごしている。
はあはあと息が荒い。
「くっ、あーもう!」
吐き気をやり過ごしたイルカは、ふらふらと立ち上がる。
「ちきしょー、何で俺がこんな目に」
目が潤んで涙目になっていた。
イルカは弱弱しく呟いた。
「気持ち悪い・・・」
空腹で気持ち悪くて、アレを思い出して気持ち悪くて。
だが任務中なので耐えている。
耐えているというより、アレを誰にも知られたくない気持ちの方が強い。
その気持ちだけが今のイルカを支えていた。
兵糧丸が効いてきたのか、イルカの体力は持ち直してきたようだ。
「空腹なのに食えないなんてなあ」
育ち盛りなのに、と愚痴めいたことを言うイルカは現在、十六歳であった。
まだまだ身長も体重も増えるお年頃。
そして精神的にも発達する時期だ。
なのに。
イルカは精神的なダメージを喰らい、食事が喉を通らなくなっていた。
それが、もう一週間も続いていた。



カカシが任務で他の隊と合流した時に、真っ先に目に付いたのは後方にいる小柄な体つきの黒髪を結った少年だった。
カカシの隊の隊長が何やら長々と作戦について説明し、それを隊の皆は聞いていた訳だが。
・・・・・・ん?
見回して目に入った少年を何となくカカシは凝視してしまう。
どっかおかしい。
なんか変。
どう言ったらいいか・・・。
生気がないというか沈んでいるというか。
とにかく他の人間と比べて雰囲気が違う。
見たところ、まだ年齢が低いようだし、こんな任務に慣れてない?
緊張している?
様々なことを考えたが、どうもしっくりこない。
うーん。
隊長の話をそっちのけでカカシは考えてしまう。
なーんか変だよねえ。
どこがどうとか具体的には言えないが。
その少年から目が離せない。
どうしてだろう?
その疑問は後に長い時間が経ってからカカシ自身が知ることとなる。



「・・・という訳で」
長々とした隊長の話は終わった。
ほとんどカカシの耳には届いていなかったが。
「これで話は終わりにする。各自、自分の責務を果たすように」
それから、くるりとカカシの方を向く。
「じゃあ、カカシ。偵察、頼んだぞ!」
「えー、俺がー」
「そうだ、あいつと一緒に行け」
隊長が指差したのは先ほどから目が釘付けになっていた少年だ。
「まだ中忍に成り立てだから色々と教えてやれ。先輩としてな」
ぽんとカカシの肩を叩いて少年を、ちょいちょいと手招きした。
「これから偵察行ってくれ。こっちは上忍のはたけカカシ、こっちは海野イルカだ」
勝手に紹介される。
海野イルカと紹介された少年は頭を深々と下げた。
「よろしくお願いします、はたけ上忍」
懇切丁寧な態度であった。



「あー、よろしく」
カカシはぶっきら棒に挨拶をする。
こういうのは苦手であった。
先輩ぶるのも上忍ぶるのも。
自分的には合っていない。
だいたい、いつも適当で本気は時々出せばいい。
よく言えば冷静沈着、別の角度から言わせると気楽という感じだった。
「こちらこそ、よろしくご指導願います」
下げた頭のままでイルカは言った。
「ということで」
隊長はカカシに向かって命令する。
「イルカを連れて偵察に行ってこい。ターゲットの位置の把握と戦闘要員及び戦闘体勢の把握。期間は三日間だ」
「オッケー」
カカシは頷いた。
そしてイルカに告げる。
「じゃー、行っこか」
「はい」
「俺についてこれる?」
「ご心配なく」
「そ」
にこっと笑った瞬間にカカシは消えた。
同時にイルカも姿を消す。
こうして二人は偵察に出発したのだった。



偵察に出発してから一時間ほど走った。
カカシとイルカは枝から枝へと、ひゅんひゅんと飛び移っていく。
偵察に出てから特に話もしていなかった。
走り続けるカカシに遅れることなくイルカがついていく。
初めて見たとき、どっか変?と思ったのは幻覚かと思えるような機敏な動きだ。
もしかして目の錯覚だったのかな?
カカシは横目でイルカを追う。
結った黒髪が動くたびに左右に揺れ動くのが面白い。
まるで犬の尻尾みたい。
自分の忍犬たちを思い出して和んでしまった。
イルカの髪も嬉しくなると揺れるのかな?
犬は嬉しいときに尻尾が揺れる。
そんなことを考えてカカシは覆面の下で、にやにやと笑みを浮かべてしまった。 ちなみにカカシは顔半分を覆面で覆っている。
格好つけているわけではなく忍者としての嗜みだ。
イルカってさ〜、なんていうかさ〜。
密かににやにやしながら再び、横目で見たときにイルカの姿はなかった。
どさっと何かが地面にぶつかる音がする。
はっとしたカカシが音がした方向を見るとイルカが倒れていた。
飛び移っていた枝から落下したらしい。



「え・・・」
忍者が移動中に枝から落ちるなんて通常ならあり得ない。
「イルカ!」
すぐにイルカの傍に行き、抱き起こした。
「ちょっと!どうしたの?」
瞼を閉じたイルカは返事をしない。
抱き起こした体が微かに震えていた。
腕を取り脈を診ると弱い。
呼吸も細々としている。
体温も低かった。
カカシも少しなら医療の心得がある。
戦闘に出る忍者は専門的な医療の知識はなくとも応急措置くらいは出来るように訓練されていた。
イルカの症状を見たカカシはすぐに手持ちの水筒を開けて水を口に含んだ。
脱水症状が出ている、と判断したためだ。
この場合、何故イルカに脱水症状が出ているのかは置いといて。
医療行為の一環としてイルカの口に水を含ませるために口移しをしようとした。
その瞬間、ぱちりとイルカの目が開いた。
近距離過ぎるカカシの顔に驚いている。
そんなことに構わずカカシはイルカに水を飲ませようとしたのだが。
イルカに顔を背けられた。
「いやだ・・・」
拒否の言葉がイルカから出る。
「いやだ・・・」
「あのねえ」
含んだ水を思わず飲んでしまってカカシは顔を顰めた。
「脱水症状が出ているんだから早急に水を飲まなきゃ駄目なの」
「やだ、離してよ。触るな・・・」
「離してって言われてもねえ」
今のイルカの体に力はない。
一人では歩けない状態だ。
「そんなことできるわけないでしょ。水を飲みなさい、水分摂らないと」
説得してみたものの、イルカは頑なで顔を背けたままである。
「ちょっと聞きなさいって。このままだと、もしかして死んでしまうかもよ」
「それでもいい」
低い声がイルカから漏れた。
「なんだって!」
ついカカシも声を荒げてしまう。
「簡単に死ぬなんて言うな、バカ」
「死んでもいい」
きっとしてイルカがカカシを見返してきた。
「男にキスされるくらいなら死んだ方がましだ!男にキスされるなんて絶対にいやだ、死んだ方がましだ」
「このヤロ〜、人が心配していれば」
売り言葉に買い言葉で。
もう一度、水を口に含んだカカシはイルカの顎を掴むと唇を合わせて。
無理矢理、イルカの口に水を流し込んだ。
ごくりと飲み干すまで唇を合わせたまま。
イルカの抵抗も適わずに医療行為の一つとして。
カカシはイルカにキスをしたのだった。




ずっと待っていた2



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