魔法の指輪 後編
里に着き、報告書を出したイルカは、家に帰ろうかどうか迷い始めた。
つい、勢いで帰ってきちゃったけど。
不審な指輪を持っていていいのだろうか?
もし、この指輪が危険物だったら?
というより、さっきの出来事は幻術とかだったりして・・・。
考えがドンドンと悪い方向へ向かっていく。
どうしよう。
火影様に見せた方がいいのか・・・。
でも、何の変哲もない、ただの指輪だったら、忙しいのに、お手を煩わせることになる。
でもでも、万が一、何かあったら?
危険物として封印した方がいいんじゃないか?
任務帰りで疲れていたイルカは、グルグルと考えて。
結局、ある人物に助言を求めることにした。
「カカシさん、いらっしゃいますか?」
上忍控え室のドアを控え目にノックして、イルカは声を掛けた。
最近、イルカは元教え子の上忍師となったカカシと比較的、仲が良くなっている。
年齢が近い所為か、飲みに行ったり、休憩時間に立ち話をしたり、昼食を摂ったり。
階級は違えど、カカシはイルカにとても親切にしてくれて、頼り甲斐もあった。
良き相談相手でもある。
「イルカ先生。」
カカシはイルカを見ると、とても嬉しそうに微笑む。
「どうしました?イルカ先生から、俺の方に声を掛けてくれるなんて初めてですね。」
「そう、でしたっけ?」
実はそうなのだ。
イルカはカカシに気後れして、自分からは声を掛けづらかった。
「あの、少しお話があるんですが・・・。」
言い淀むと、カカシは「場所を変えましょう。」とイルカの手を引き、控え室を後にする。
イルカは大人しく付いていった。
誰もいないアカデミーの屋上で、イルカは包み隠さずにカカシに全部話した。
カカシは茶化しもせずに、熱心にイルカの話を聞いてくれる。
「どう思いますか?」
イルカは話し終わってから意見を求めたが、思いのほか、カカシの真剣な目にぶつかり戸惑ってしまった。
「あの、カカシさん?」
イルカの両肩を掴んで、カカシはグッと顔を寄せてきた。
「それで、イルカ先生。怪我とかはなかったんでしょうね?」
「ないです。」
「変なことはされませんでしたか?」
「へ、変なこと・・・って?」
カカシが慌てているようだが、イルカには理由が分からない。
「変なことって何でしょうか?やっぱり、幻術の類いとか・・・。」
「いえ、違います。」
イルカの返事に安心したのか、カカシは小さくため息をついて、肩から手を離した。
「じゃ、指輪とやらを見せてもらえますか?」
「あ、はい。」
イルカは懐から指輪を取り出すと、カカシに渡した。
カカシは指輪を受け取り、しばらく見ていたが、徐に左目にかかっている額宛を取った。
写輪眼?!
始めて見る左目にイルカの心臓は高鳴った。
おまけにカカシの顔の上半分だけだが、それも初めて見る。
カッコいい目元。
なんだか、妙にドキドキする。
「うーん、特にこれと言って、おかしな点は見つかりませんね。」
「そうですか。」
カカシの見立てにイルカはホッとする。
「良かった。カカシさんに見てもらって、大丈夫なら大丈夫ですね。」
「まあ、大丈夫だと思いますよ。でも、せっかくだから。」
イルカの方に、カカシの左手が出された。
いつの間にやら、手甲はない。
「嵌めてくれませんか、指輪。あ、薬指にね。」
「でも・・・。」
あの池の主は何て言っていたっけ?
指輪を嵌めてあげて取れたら、その人は自分のことが好きだとか言っていたような・・・。
「イルカ先生、大丈夫だから。嵌めてみて。」
「あ、はい。」
カカシの声に釣られて、イルカは細く長い指に指輪を嵌めてしまった。
取れなかったら、どうしよう?
青くなるイルカの横で、カカシは嬉しそうにしている。
ものすごく。
「イルカ先生に指輪嵌めてもらっちゃった。それも、薬指に。」
夢がこんなに早く叶うなんて、とご機嫌だ。
「じゃ、次はイルカ先生に嵌めて上げますね。」
「え?」
カカシは自然な動作で、指輪を取り、恭しくイルカの左手の薬指に指輪を嵌めた。
「ええ?」
カカシ先生が指輪を取れたってことは・・・。
つまり。
カカシ先生は自分のことが好きなのか?
いや、そんなことはないって。
さっき、おかしなところはないって言ってたじゃん。
「あ、あれ?」
イルカは嵌められた指輪を自分で引き抜こうとしたが、頑として動かない。
「な、何で?」
「あー、やっぱり・・・。」
動揺するイルカの横で、カカシが悲しげな声を上げた。
「イルカ先生はまだ、なんだ。」
「まだって、何が?」
「俺のことを、恋愛に至るまで好きじゃないってこと。」
「れ、恋愛?!」
晴天の霹靂とは正にこのことかもしれない。
固まるイルカにカカシは説明する。
「池の主とやらが言ったことは本当なんだなー、と思って。そのことについて、おかしな点はないと言ったんです。」
「そんな〜。」
「ねえ、イルカ先生。」
カカシは意図的に、イルカに向かってニコリとした。
「俺のこと嫌い?」
「嫌いじゃないですけど・・・。」
口を隠している布も取り攫い、もう一度、ニコリとした。
「俺はイルカ先生のこと好きだなあ。」
イルカに近づき、目を覗き込む。
「俺のこと、好きになってよ。」
低い声で耳元で囁くと。
イルカは真っ赤になって。
そして、音がする。
カラン、と。
イルカの指から指輪が抜け落ち、床に転がった。
『そういえば。』
池の底で、イルカに指輪を渡した池の主は、思い出したように声を上げた。
『あの者に渡した指輪には、もう一つ作用があったのを忘れておった。』
『作用とは?』
イルカに助けてもらった亀が聞く。
『好いた相手に指輪を嵌めると、好きになってくれる作用じゃ。』
しばらく池の主は考えて。
『ま、良いか。』
と、締めくくった。
『好きは好きだし、愛に嘘も真もなかろう。愛は愛じゃ。』
うんうんと、一人頷く池の主を亀は呆れたように見ていた。
イルカとカカシを結びつけた指輪の行方であるが。
準危険物として、永久に封印されたという。
魔法の指輪 前編
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