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夏の風物詩



「ねえ、イルカさん」
カカシがイルカに話しかけた。
「はい?何ですか」
イルカはテストに目を通しながら、返事をする。
赤ペンを握っているので採点しながらだ。
「それに、ここでは、その呼び方はしないという約束でしょう?」
ここ、とは教師の聖地の職員室。
カカシとイルカの他には誰もいない。
夜遅いので他の職員は、とっくに帰宅していた。
「え〜、そうだっけ?」 カカシは、すっとぼけた。
「そんな固いこと言わないでよ、イルカさん。せっかく、二人きりなのに」
きちんと背筋を伸ばして、椅子に座っているイルカの隣にカカシは来る。
二人の机は隣同士なので、すぐ傍だ。
イルカが手にしているテストを覗き込み、点数を見る。
「へー、イルカさんのクラス、平均高そう」
「生徒たち、頑張っていますからね」
イルカの顔が自然に微笑む。
「あ!なに、これ」
ある生徒のテストの隅っこに書かれた小さな文字をカカシは発見した。
「・・・海野先生大好きLOVEとハートマークじゃない」
「え?あー、本当ですね」
照れたようにイルカは頬を引っ掻く。
「こんなこと書いても点数におまけしないのに」
困ったものですね、というイルカは生徒に慕われていること間違いない。
「ちょっとイルカさん!デレデレして!俺というものがありながら」
カカシは目を三角にさせて、嫉妬の炎をメラメラと燃やしている。
「畑先生?生徒の冗談ですよ。テストに書くのは感心しませんけど」
「冗談なわけないでしょーが!」
「何か怒ってます?」
先生と生徒は恋愛関係に陥らない、あるのは信頼関係だけ、と頑なに信じているイルカにカカシの考えは伝わらない。
「もう、いいです」
そんなイルカをカカシは日々、ガードしている。
たくさんの生徒、保護者に同僚の先生連中、果ては近隣の学校の関係者から。
そんなカカシとイルカは、実は恋愛中で恋愛関係で。
教師という職業上、それは秘密にしている。
誰にも知られてはいない。
誰にも知られてはいけない。
イルカは、そう思っているのだが。
カカシは真逆のことを思っていた。
バレテもいいじゃない、だって好きなんだから。
教師だって恋をするんだ、と。
割と軽めに見えるが、いざとなった真剣さを発揮するカカシと生真面目一本のイルカ。
二人が恋愛という名の関係になった経緯は、イルカに一目惚れすると同時に初恋を実らせたカカシの涙なしでは語られない、カカシの努力と汗と愛の結晶によるものだった。



「ま、それは置いておいてですね」
「何をですか」
イルカの突込みにもめげず、カカシはイルカの肩に顎を乗せた。
「明日の休み、花火大会に行きませんか?」
「花火大会?」
「そ」
テストの採点が終わったのか、イルカが顔を上げた。
肩に乗ったカカシの頭に手が届いたからなのか、撫でてくる。
「畑先生の髪って、どうして上を向いているんですかね」
撫でても撫でても立ち上がってきますよね〜と。
「俺の髪は俺自身の意思の象徴というか・・・。じゃなくて、明日の花火大会の話です」
「それって、この学校近くの河川敷で行われる全国規模の花火大会ですよね?」
「そうで〜す」
有名な花火大会でテレビ中継もされるほどだ。
「ね?イルカさん、行きましょ。ね?ね、ね、ね?」
「うーん」
イルカは腕を組んで眉を顰めた。
「その花火大会、去年、テレビで見ましたけど」
思い出しのか、憂鬱そうな顔になる。
「すっごく混んでましたよ。有名ってことは人も、それだけ大勢来るってことですよね」
知人に会うのも懸念しているようだ。
「大丈夫ですよ〜」
カカシが一つに縛っているイルカの髪の先を、くるくると指に巻きつけた。
「あーんな人込みで、知り合いに会うなんて万分の確立ですから。例え、知っている人に会っても俺とイルカさんも偶然、そこで会って〜って設定にすればいいんです」
「言っていること矛盾してますよ」
「まあまあ、いいじゃないですか」
「でも・・・」
渋るイルカ。
「二人の愛のメモリー増設のためにも行きましょうよ、イルカさん」
テストを一纏めにして机の上で、とんとんと揃えるとイルカは立ち上がった。
「あ、終わりました?」
カカシの嬉しそうな声。
イルカの仕事が終わるのを待っていたりしたのだ。
「はい、お待たせしました」
「ん、じゃ、帰りましょ、イルカさん」
「その呼び名は、ここでは・・・」
「本当に真面目なんだから、イルカさんは」
そんなとこも好きだけど〜と惚気顔のカカシは職員室の電気を消す。
暗くなった職員室には誰もいない。
カカシとイルカは一緒に学校を出ると、家に向かって歩き出した。
二人の家へ、と。



「やっぱり行くんですか?」
次の日の夕方。
カカシに花火大会に行こうと誘われたイルカは、直前になって不安そうにカカシに尋ねた。
「すごい人だって、さっきテレビでやってましたけど」
はぐれたりしたら、きっと会えないに違いない。
財布や携帯電話の落し物も心配だ。
「平気ですって」
イルカの不安を払拭するようにカカシは明るく笑う。
「行ったら楽しいですよ〜。せっかく、行くんだから楽しまなきゃ」
「・・・そうですね」
気持ちを切り替えたようにイルカは頷いた。
「せっかくだから楽しまないと損ですね」
「そうそう。イルカさん、その調子その調子」
気を良くしたカカシはイルカの手を握る。
「さ、出かけましょ」
「・・・カカシさん、手」
「あ、腕を組んだ方がよかった?」
「どっちも、ちょっと」
「外に出るまでだから。だめ?」
誰かに見られないようにしなければならない。
二人の恋は多難だ。
だけど。
「なら、いいです」
イルカだって、本当は好きな人と手を繋ぎたい。
それが上手く言えなく、いつもカカシにリードされてしまうのだが。
ぎゅっ。
握られた手を握り返すとカカシが、ひどく嬉しそうに微笑した。



「イルカさん、大丈夫?」
花火大会の会場に着くと人が、たくさんいた。
もちろん皆、花火を見るために来場しているわけで。
押し合い圧し合いの大混雑、大渋滞だった。
「カカシさん・・・」
いつ、離れ離れになるか分からない。
イルカは必死にカカシの姿を追った。
おまけに辺りは薄暗くなってきており、いつカカシの姿を見失ってもおかしくない。
屋外なのに満員電車のように、ぎゅうぎゅうなのは、これ如何に?といった感じだ。
あー、もう駄目だ・・・。
余りの人混みにイルカがカカシの姿を追うのを諦めかけたときだった。
ぐい。
腰が引っ張られた。
「え?」
横を向くとカカシがいた。
イルカの真横にカカシがいる。
ぴったりと体が密着していて。
「大丈夫って言ったでしょ」
人混みに押されてくっ付かんばかりのカカシの顔が、にこーっとなった。
「だ、大丈夫って・・・」
何をされているか、理解したイルカの顔が、かーっと赤く染まった。
既に暗くなっているので、赤くなったイルカは近くにいるカカシにしか解らない。
「こ、こんなことして・・・」
イルカの腰にはカカシの手が回されていた。
つまり、腰を抱かれている・・・。
「誰かに見られたら」
きょろりと辺りを見回しているイルカの心臓の鼓動は早い。
カカシには、よく解った。
それだけ、二人は密着しているから。
「平気ですよ」
人混みの中、カカシはイルカの耳元で囁いた。
髪を頭の天辺で、一つにしているイルカの耳は無防備だ。
ざわざわと騒がしいのに、カカシの低い声がイルカには聞こえる。
カカシの唇が耳に触れているようで。
ぞくっとして、イルカの身は竦む。
「誰も見てないから」
耳に触れていた唇が僅かに動き、柔らかく耳朶を噛む。
悲鳴をあげそうになって、イルカは口元を押さえる。
口元を押さえながらカカシを睨むと、ひどく楽しそうな顔をしていた。
楽しそうに、にやりと。
こんなときのカカシは誰も止められない。
無敵だ、向かうところ敵なし状態で。
イルカの腰を抱く手に力を込めて、更にカカシの方に引き寄せられる。
耳朶を噛んでいたカカシの唇が隙だらけイルカの耳裏に辿り着いた。
カカシの唇が熱を持ったかのように熱く感じてしまう。
しばし留まっていたカカシの唇は、やがて意思を持って動いた。
ちゅっ。
音が聞こえた。
その音はイルカの耳に大きく響いて。
最初に上がった花火の音よりも花火を見ている人々の歓声よりも。
一番大きな音に聞こえたのだった。




夏の風物詩 それから


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