告白 後編
次の日もカカシさんは告白されていた。
しかもアカデミーの中庭の、割と人目につく場所で。
なんで俺は、こんな告白シーンに、いつも遭遇してしまうのだろう。
物陰に身を隠して己の不幸を嘆いていると告白が始まってしまった。
こうなったら姿を見せたら無粋だし、終わるまで身を潜めているしかない。
聞いていると淡々とカカシさんは女性を振っていた。
そして泣いて去っていく女性。
好きな人に振られるのって辛いだろなあ・・・。
といってもカカシさんにはカカシさんの事情があるし。
俺には、どうにも出来ない。
そうこうするうちにカカシさんから俺に声が掛けられた。
「イルカ先生、いるんでしょう?」と。
「あ、はい。います・・・。」
渋々、俺は姿を見せた。
なんか気まずいなあ。
泣きながら去って行ってしまった女性は、どうしただろう。
気になって、そちらを見ているとカカシさんに「俺を見てよ」と顎を掴まれ、カカシさんの方に顔を向けさせられる。
ちょっと強引なカカシさんだ。
「俺といる時は俺を見て。」
熱のこもった目で見つめられて不覚にも、どきっとしてしまった。
格好いいカカシさんに。
「何を気にしているんですか?」
訊かれて俺は正直に答えた。
「あのー、先ほどの女性はどうしたのかと。」
「あー。」
カカシさんは頭を、がしがしと掻いた。
なんか違うでしょ、的な雰囲気を漂わせて。
俺が女性を気にするのは変なのかな。
「イルカ先生は気にしなくていいんですよ。」
「でも。」
そうは言っても気になってしまう。
振られたら、どんな気持ちになるんだろ・・・。
「そうだ!」
急に何かを思いついたようにカカシさんは言った。
「そんなに気にするならイルカ先生も体験してみたら、どうですか?」
「体験?」
「そうですよー。」
急にカカシさんは、にこにことし始めた。
不気味なほどに。
「告白してみるんです、イルカ先生も。」
「告白・・・。」
「そうすれば、彼女たちの気持ちも分かりますよ。」
ああ、すっぱりと振られて、吹っ切れて次の恋に進むってやつか。
しかし誰に告白しろっていうんだ、カカシさん。
俺に今、そういう相手いないし。
見るとカカシさんが、俺、俺と自分を指差していた。
「え、俺がカカシさんに告白を?」
うんうん、と頷くカカシさん。
「それは、ちょっと・・・。」
まずいんじゃないか、だって男同士。
そう主張するとカカシさんは頑固に首を振った。
「俺じゃないと駄目です。だってイルカ先生、俺に告白した女性たちの気持ちを知りたいんでしょ。」
「そうですけど。」
「じゃー、俺じゃないと駄目じゃないですか!」
「そ・・・うかなあ。」
「そうですよ!」
力強く肯定されてしまう。
「それに一度、告白すると決めたからには、ちゃんと実行しないと。イルカ先生、アカデミーの先生じゃないですか。」
アカデミーは関係ないような気がする。
それに告白するって決めたのはカカシさんだ。
「試しに俺に告白してみるだけなんですから、やってみてもいいじゃないですか。」
カカシさんは熱心に俺を口説く。
まるでカカシさんの方が愛の告白しているみたいに。
でも、まあ、ちょっとやってみてもいいかなあ。
告白する体験なんて面白そうだし。
後学のために、と俺は軽い気持ちで告白することを体験してみようと思い、それを実行に移してしまった。
「えっと、では。」
こほんと咳払いして俺はカカシさんと正面から向き合った。
お互いに見つめ合う。
なんか照れくさいな〜。
試しに告白だけど、こんなに緊張するものなのか。
「さ、早く、イルカ先生。」
カカシさんが急かした。
「は、はい。」
大きく深呼吸した俺は第一声を発した。
カカシさんは、いつの間にか顔の覆面を取ってしまっている。
真剣な瞳で俺を見ていた。
「す、好きです・・・。」
出た声は思いの外、小さく掠れていた。
「つ、付き合って・・・。」
やばい、試しに告白なのに、すっごいどきどきしてきている。
「・・・ください。」
やっとのことで言ったのにカカシさんは難しい顔をして首を横に振る。
「それじゃ駄目です。」
「え、なぜ。」
「最初に俺の名前を言ってないですし、それに告白してきた人は、もっと本気で大きな声でした。」
「それは、まあ。」
確かに女性たちは一世一代な感じで告白していた。
「やり直しです、イルカ先生。」
無情にもカカシさんは駄目出ししてきた。
もう何回目だろう。
俺はカカシさんに告白していた。
「カカシさん、好きです、付き合ってください。」
「ん〜、もう一回です。」
試しに告白を体験しているだけなのにカカシさんが、もう一回を何度も言ってくる。
「もう少し、大きな声でお願いします。」
「はい・・・。」
俺は、ちょっと疲れてきていた。
告白って意外と体力、使うな。
これで終わりになれとばかりにカカシさんのリクエスト通りに大きな声で告白した。
「カカシさん!好きです!付き合ってください!」
今度は、どうだろう・・・。
じいっとカカシさんを見つめているとカカシさんが、にっこりと微笑んだ。
やった、今度はいいらしい!
そっとカカシさんは俺の両手を掬い上げて握った。
「はい、俺もイルカ先生のことが好きです。」
・・・・・・え、なに。
「付き合いましょう、俺たち。」
・・・・・・え、ええっ。
両手を握られている俺は逃げられない。
俺がカカシさんに告白して、それがカカシさんに受け入れられた、ということか。
ええっと、ええっと。
どうして、なんで、こうなった?
思い切り戸惑っていると周囲から拍手と歓声が上がっていた。
「おめでとう!イルカ先生!」
「良かったですね、はたけ上忍!」
「やっと告白ですね、はたけ上忍!」
「お幸せに!」
「仲良くね、二人とも!」
気がつくと遠巻きに人だかりが出来て祝福されていた。
人だかりにはカカシさんに告白した女性も含まれている。
どういうこと?
激しく動揺しているとカカシさんが、にこやかに周囲の歓声に応えていた。
「どうもー、ありがとねー。」
カカシさんの覆面は、いつの間にか戻っていた。
素早い人だ・・・。
じゃなくて、えー、これは、どういう状況なんだ。
考えていくと、ある答えが導かれた。
そういや、ここは人目があるアカデミーの中庭だ。
みんな、俺がカカシさんに告白するところと見ていたっていうのか。
一部始終を、全部・・・。
告白に夢中になっていて、ぜんぜんっ気がつかなかったよ。
背中に冷や汗が流れる。
こんなところにカカシさんと二人きりでいれば、どうしたのだろう、と皆、思うよな。
そして俺が何回もカカシさんに告白していれば好奇心から見てしまうに違いない。
例え、それが試しに体験の告白でも。
試しに・・・。
はっとなった俺はカカシさんに急いで言った。
「試しに告白じゃなかったんですか!」
「試しに告白でも、告白は告白でしょ。俺はイルカ先生のことを振るとか一言も言っていませんよ。」
それは詭弁だ・・・。
「ずるい。」
恨めしげにカカシさんを見ると、反対に幸せそうに微笑まれた。
「だってイルカ先生、いつになっても俺の気持ちに応えてくれないから。
だったら俺がイルカ先生に告白されて応えればいいかと思ってね。」
幸せいっぱいのカカシさんの腕に抱きこまれる。
抱きしめられても嫌ではなくて居心地良くて、なんか安心してしまう。
「俺、何回もイルカ先生に好きですって言ったでしょう。」
「あ・・・。」
あれは本気だったのか。
「なのに、いつも相手にされなくて。辛かったんですよ、俺。」
ああ・・・。
「告白してくる女性たちも俺のイルカ先生への気持ちを知っていて告白してくるし。」
中々、イルカ先生に告白しない不甲斐なさからか、ちょっと意地悪されてました、とカカシさんに言われた。
そうだったのかー。
「ま、でも。」
カカシさんは俺にウインクする。
「これだけイルカ先生との仲をみんなに見せびらかしておけば周囲から公認の仲になりますし、明日から俺に告白もなくなるし、一石二鳥です。」
「そうですか。」
「イルカ先生も、ほんとは俺のこと、好きでしょう?」と顔を覗き込まれたが俺は明後日の方向を見た。
「・・・ここでは言いません。」
「そう。」
嬉しそうなカカシさん。
「二人きりの場所じゃないと。」
言えるわけがない。
俺もカカシさんが好きです、ってね。
告白 前編
text top
top