告白 前編
まただ・・・。
俺は、さっと物陰に身を隠した。
悪いと思いつつ物陰から、そっと見るとカカシさんと女性が対峙していた。
これ雰囲気からして所謂、あれだ。
その、あの、告白シーン・・・ってやつ。
女性は綺麗で可愛くて。
こんな人に告白されるなんて羨ましいと思えるような人だった。
女性は必死な感じでカカシさんに言告白していた。
「はたけ上忍、好きです!付き合ってください!」
・・・生まれてきて一度も言われたことない言葉だ、俺にとっては。
カカシさんは首を傾げて軽く言う。
「でも、俺は好きな人がいるだよ〜ね。」
「もちろん、知っています!見ていれば分かります!」
「だから、あなたとは付き合えません。」
きっぱりと断っていた。
「そんな・・・。」
告白した女性の悲壮な声。
「あなたのこと好きじゃないから。」
嫌いと言わないことで告白してきた女性と傷つけないようにカカシさんはしているらしい。
・・・が。
女性はカカシさんに、好きじゃない、と言われて、わっと泣き出して走り去って行ってしまった。
あーあ、可哀そう・・・。
実はカカシさんの告白シーンに遭遇したのは、これが初めてじゃない。
既に遭遇した回数は片手の指の数を超えている。
どんだけ、もてているんだ、カカシさん。
そうして身を隠していた俺だったがカカシさんには見破られていた。
カカシさんは上忍なんだから見破られて、当たり前と言ったら当たり前なんだけど。
「イルカ先生。」
身を潜めている俺にカカシさんが声を掛けてきた。
「いるんでしょう、出ていらっしゃい。」
怒っている風でも立ち聞きしていたことを咎める風でもない。
「・・・あ、はい。」
俺は罰が悪くなりながら隠れていた物陰から姿を現した。
まず最初に謝ってしまう。
「すみません、聞いてしまいました。」
そして見てしまいました、と。
カカシさんは困ったなあと言って、ちょっと笑う。
「野暮なことして、すみません。」と重ねて頭を下げるとカカシさんは「いいんですよ。」と肩を竦めた。
「イルカ先生になら見られても。」
「え。」
今、なんて?
「いや別に。」
カカシさんは嘯いた。
そして巧みに話題を逸らされる。
「イルカ先生には、いつも、みっともないとこ見られてしまっていますね。」
「みっともないなんて・・・。」
そんなこと思わない。
でも前から思っていたことを言ってみた。
差し出がましいかもしれないが。
「あのう、カカシさん。」
「はい、何でしょう?」
何回も告白シーンを見て女性が振られるところを見ている俺としては、だな。
「その、もっと女性に優しくしてあげても。」
いいんじゃないですか、と思うのだ。
「好きじゃないとか言われたらショックじゃないかなあ、と。」
実際、好きじゃなくても好きな人に『好きじゃない』って言われたら、すっごいショックだよなあ。
そりゃあ、嫌いと言われないだけ、いいのかもしれないけどさ。
するとカカシさんは俺の発言に目を細めた。
その目が面白そうに輝いている。
「じゃイルカ先生は、何て言えばいいと思いますか?」
逆に質問された。
「イルカ先生は告白されて断るときに、どう言えばいいと思います?」
そんなことを訊かれても困る・・・。
威張ることじゃないし、さっきも思ったことだけど俺は生まれてこの方、告白をされたことがないのだ。
だから、どう言えばいいとか分かるもんか。
しかし本当のことを言うわけにはいかず俺は口ごもる。
えーととか、うーんとか答えにならない言葉を口にした。
「告白されても、その人のことが好きじゃなければお断りするしかないと思いますがね。」
カカシさんの言うことは正論だ。
「毅然とした態度で断って振らないと、次の恋にも進めないんですよ。」
「はあ。」
そういうものなのか・・・。
恋とは奥深いものだ。
一つ、勉強になった。
俺は「すみませんでした」とカカシさんに再び、謝った。
「余計なことを言ってしまって。」
カカシさんにはカカシさんなりの考え方があるんだよな。
俺の考えを押し付けては駄目だ。
反省した俺は、失礼しますとカカシさんの前から去ろうとしたのだがカカシさんに呼び止められた。
「あ、イルカ先生。」
「はい。」
「今夜、空いていますか。」
「ええ、まあ。」
もしかして、これは・・・。
「そんじゃ、付き合ってくださいよ。」
カカシさんが、くいっとお猪口の形を指で作り飲む真似をする。
「告白を断った俺だって、ある意味辛いんです。」
だから、お酒に付き合え、とそういうことらしい。
「分かりました。」
俺は頷く。
告白されたカカシさんがその日の晩、俺を酒に誘うのは毎度のこととなって恒例になっていた。
「よかった。」
俺が了承するとカカシさんは満面の笑みを浮かべる。
これも毎度のことだ。
「奢りますからね」という言葉に釣られてしまった俺だった。
まあ、酒というものは気持ちをリラックスさせて普段、言わないことも言わせてくれる。
それが今のカカシさんだ、と俺は思った。
カカシさんに付き合って酒を飲んでいるのだが、カカシさんは珍しく愚痴っていた。
「だーかーらー、俺が告白されるのはもてるからじゃないんですよー。」
「へえー。」
信じられない。
俺はカカシさんのグラスに酒を注いで自分のグラスにも注ぎ足した。
カカシさんの愚痴を聞きながら、ぐびぐびと飲んでしまう。
だって、この酒、美味いんだもん。
・・・だもん、とか思っちゃう俺も相当、酔っているかもしれない。
自分で自分のこと寒いと思ってしまった。
「なんていうかー。」
はあ、とカカシさんが酔いにまかせて色っぽい溜め息をついた。
・・・男なのに。
男なのに、色っぽいって何だよ!
「あれはー、嫌がらせなんですよー、一種の。」
「嫌がらせ?」
そうは思えないけどなあ。
告白するって、すっごい勇気が必要なことだと思うし。
「そう。」
カカシさんはグラスの酒を飲み干し、自分で酒をグラスに注いだ。
「絶対に断られるって分かっているから告白してくるんですよー。」
「ふーん・・・。」
絶対に断られるって、どうしてだ?
酔った頭で考える。
ああ、そうか。
カカシさん、好きな人がいるとか言っていたっけなあ。
今まで特に気にしていなかったけど興味が出た俺は何の気なしに訊いてしまった。
「カカシさんの好きな人って誰なんですか。」
きらーんとカカシさんの目が光ったような気がした。
待ってました、って感じで。
「よくぞ訊いてくれました!」
さっきまで酔っていた口調は、どこにいったのか、カカシさんはシャキーンとなった。
背筋を伸ばして俺の方の身を乗り出してくる。
「その言葉、俺はずーっと待っていました!」
やっぱり待っていたらしい。
「イルカ先生がいつ言うか、いつ言うかと待っていたんですよ。」
そう、なんだ・・・?
なんでだか知らないけど。
とりあえずカカシさんの期待の応えて俺は訊く。
「で、要するにカカシさんの好きな人って誰・・・。」
ん、ちょっと待てよ。
告白していた女性たちはカカシさんの好きな人を知っているって言っていた。
ってことは、要するに。
「カカシさんが本命の好きな人に、さっさと告白しないから女性たちはカカシさんに告白してくるってこと、ですか。」
嫌がらせって、そういうことか。
カカシさんに告白って気を持たせるなってメッセージ?
さっさと好きな人に告白してしまえと・・・。
どっちにしろ俺には縁がないことだし、羨ましいことには変わりがない。
女性に全く縁がない俺にとっては。
贅沢な悩みだな、カカシさん。
嫉妬しても、しょうがないけど嫉妬してしまう。
それを俺は酒で誤魔化した。
「お、いい飲みっぷりですね。」
カカシさんが俺のグラスに酒を注ぎ足してくれて俺も返杯して、二人でさんざん飲んで・・・。
まあ、カカシさんが奢ってくれるって言っていたし、いっか。
結局、酒を飲んで終わり、カカシさんの好きな人が誰なのかは有耶無耶になって判らなかった。
帰り道。
酔っ払っていた俺は、ふらふらと歩いていた。
隣を歩くカカシさんも結構、酔っている。
酔いながら何かを呟いていた。
「イルカ先生はー。」
俺のことらしい。
「いっくら飲んでも中々、潰れませんよねえ。」
いや、もう足にきています。
「どんなに飲んでも、いっつも必ず家に帰るし、お持ち帰りを狙っている俺としては失敗ばかりです。」
持ち帰り?
持ち帰るって何を・・・。
ああ、くらくらして考えがまとまらない。
こりゃあ、帰ったらベッドでバタンキューのパターンだな〜。
「こんなに近くにいても気持ちが伝わらないなんて、俺、悲しいですー。」
酔ったカカシさんがふざけて俺の腰に手を回して抱きついてきた。
「告白してきた女性の方が俺の好きな人を分かっているって、どういうことなの、いったい。」
そんなの知らないってばよー。
カカシさんが酔うと絡むのか、覚えとこう。
「なんで分かってくれないのかなー。」
「それはカカシさんが相手に気持ちを言わないからでしょー。」
抱きついてきたカカシさんの、俺の腰に回っている手を、ぺちぺちと叩く。
カカシさんは、きっとなって俺を見た。
「言っても解ってくれないんです!」
「言ったことあるんですか?」
「あります!でも、またまたご冗談がお好きですねーとか、はいはい俺も好きですよ〜って一蹴されました!本気にしてくれないんですよ!」
「それはまた、ご愁傷様です。」
・・・つか、どっかで聞いたことがあるフレーズだな。
そろそろ別れ道だった。
カカシさんの家と俺の家への。
「今日はご馳走様でした。」
ぺこり、と俺は頭を下げる。
「いえいえ、また付き合ってくださいね、イルカ先生。」
「はい、機会があれば。」
カカシさんと飲むのは楽しいからな。
一緒にいて話をして、とても居心地いいし。
今度、飲む時は俺が奢るか、割り勘にしてほしい。
酔った頭で「お休みなさい、カカシさん。」と言って、ぼんやりと微笑むとカカシさんが、がばっと抱きついてきた。
まだまだ酔っているみたい。
子供みたいでかわいいなあ、俺でよかったら幾らでも抱きついていいですよ〜って頭を撫でたらカカシさんが酔いに任せて言ってきた。
「イルカ先生、好きです!」
酔っているカカシさんは、ほんと子供みたいな愛情表現するなあ。
アカデミーの生徒みたい、大人だけど。
「はいはい、俺も好きですよ〜。」と返す。
・・・ついさっき、どこかで聞いたことがあるようなフレーズ、だな。
酔った俺の頭では思い出すことができず、その日は、そのままカカシさんとは家路へと別れたのだった。
告白 後編
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