続 大人と子供15
イルカ先生の言葉を聞いて俺は、また目に涙が浮かんでしまった。
なんだか涙腺が人生で一番、緩んでいるようだ。
しょうがない、長い人生、こんな時もあるさ。
答えの代わりにイルカ先生を抱き締めた。
これでイルカ先生には俺の気持ちが、きっと伝わっているはずだ。
何かを感じ取ったのだろうか、ふとイルカ先生が顔を上げて俺を見た。
優しく微笑むと手を伸ばしてきて袖口で、再び俺の涙を拭ってくれる。
「今日は泣き虫ですね。」
「だって。」
しょうがないじゃん、情けないけど感情がとめられないんだから。
「嬉し泣きです。」
そう、いい訳した。
「人生で一番、嬉しい日ですから。」
イルカ先生は俺の、いい訳を聞いて穏やかな目になる。
「そうですね。人生で一番嬉しい日ですよね。」
「うん。」
俺が頷くと、晴れやかに笑うイルカ先生。
「二人、一緒でよかった。」
「うん。」
「カカシさんと一緒でよかった。」
「うん、俺も。」
すごく、いい雰囲気になった。
外だけど人目はないし、このままキスに持ち込もうとした時に、邪魔が入った。
「イルカ先生ー。」
「おーい。」
ナルトとサクラが手を振って俺たちの方に走って来るたのだ。
イルカ先生は、いつの間にか、しっかりと俺の腕から離れていた。
二人は息を切らしながらイルカ先生に興奮気味に話しかけた。
「イルカ先生、元に戻ったのか?」
「ああ、さっきな。」
「体は大丈夫なんですか?」
「大丈夫だよ。ありがとう、サクラ。」
イルカ先生は大きな手で子供達の頭を撫でる。
「心配かけたな、ごめんな。」
「いいんです。」
サクラは首を振った。
「カカシ先生が一緒だから、余り心配してなかったし。」
イルカ先生とサクラが話している横でナルトが俺に聞いてくる。
「なんで、イルカ先生、子供になったんだってば?」
「えーとねえ。」
それは教えてもいいもんなんだろうか?
事情が事情だしねえ。
ちらりとイルカ先生に目配せするとイルカ先生は微かに頷いた。
自分で説明する気なのかな、じゃ任せてしまおう。
俺は口を出さないことにした。
「そうそう。なんで子供になったのか私も知りたい。」
ナルトの言葉を聞いたサクラも言う。
「でも子供のイルカ先生、すっごく可愛かったですよ。」
「俺、もう一度会いたいってば。」
その言葉を聞いたイルカ先生は、ほんの少しだけ悲しげな顔になった。
「子供時代ってのはな、一度でいいんだよ。」
諭すような口調だ。
「俺は偶然が重なった因縁というか、そんな感じで子供になってしまったけど。子供時代は一回だけでいいと思ったよ。」
俺は無言でイルカ先生の言葉を聞いていた。
「子供に返ったからといって楽しいことばかりじゃない。辛いことも悲しいことも思い出す。」
だから、イルカ先生はナルトとサクラを教師の顔をして言った。
「子供時代は大切に生きなさい。もちろん、それからの人生も大切だけどな。」
二人は少し考えて「分かった。」と返事をした。
「そうか。」
イルカ先生は微笑を浮かべる。
「じゃあ、これから、また修行に行くから。」
「またね、イルカ先生。」
ナルトとサクラは修行の途中だったようで、手を振って走って行ってしまった。
子供時代を駆け抜けるように。
それを見送り俺はイルカ先生を振り返る。
聞いてみたいことがあった。
「子供になって子供時代に返って・・・・・・辛かったんですか?」
「それは。」
イルカ先生の目が遠くの方を見た。
懐かしむような表情になる。
「それは、皆、同じです。カカシさんも子供時代が楽しいことばかりではなかったでしょう。」
「まあね。」
思い出したくないこともある。
今は、それを心の奥深くにしまっているだけだけど。
「帰りましょう。」
振り切るように俺の手をイルカ先生が掴んだ。
「一緒に帰って、一緒にご飯を食べて。」
イルカ先生の言葉を俺が続けた。
「一緒にお風呂に入って、一緒に布団で寝ましょうね。」
「一部分、できなかったらごめんなさい。」
「それは駄目です。」
手を引かれて手を引いて、笑いながら歩く。
幸せは、ここにあった。
「ところで、カカシさん。」
興味心身にイルカ先生が尋ねてきた。
「さっき、子供の俺を育てるって言ってましたけど。」
「はい?」
「もしも、その。」
ちょっとだけ赤くなってイルカ先生は言った。
「もし年頃になって、カカシさんじゃない、他の誰か好きになっていたら、どうしたんですか?」
「えー、それはですねえ。」
そういうこともあると思っていたから、その対処も決めていた。
「そういう時は、涙を呑んで・・・。」
俺は息を飲んで、すっと吐き出す。
「全身全霊で阻止するつもりでした。」
俺の答えを聞いて、イルカ先生は安心したように肩の力を抜いた。
「よかった。」
「よかった?」
「そうですよ。そこで、俺を諦めるとか言ったらショックで倒れていました。」
「え?」
どういうこと?
「それだけ、カカシさんが好きだってことです!」
イルカ先生が叫ぶように言って、俺から離れようとしたけど、そうはさせない。
俺たちは、じゃれ合いながら家まで帰った。
いつものように。
いつもの日常のように。
それから、しばらく経って家に二人でいた時にイルカ先生が驚くようなことを言った。
「俺が味噌ラーメン好きなったのって、カカシさんが切っ掛けみたいですよ。」
「そうなの?」
「子供になった時にカカシさんに一楽連れて行ってもらって、食べたら美味しくて味噌ラーメン好きになったみたいな感じです。」
「へええ。」
面白いな〜。
イルカ先生の子供時代の記憶に俺が登場するなんてね。
「ちょっと記憶が重なっていたり矛盾していたり、ごちゃまぜになっていますけどね。」
「それって一種のパラドックスなのかな?」
思いついて言ってみるとイルカ先生は肩を竦めた。
「さあ、どうでしょうね。」
俺にしてみれば、カカシ先生とこうなってしまったこと事態がパラドックスですよ、なんて身も蓋もないことを言っている。
「えええ〜。」
俺は後ろからイルカ先生の背に乗っかった。
乗っかりついでに耳元で囁く。
「俺とこうなったって、どうなったの?」
「え?」
イルカ先生の動きが止まる。
「ねえ、教えてよ。」
更に耳元で囁くとイルカ先生の体温が上昇して背中から見えている頬がピンク色になっていくのが、よく見えた。
なんというか浮き浮きと心が揺れる。
俺は身を乗り出して、その頬に唇を寄せた。
「こういうことだよね。」
そう言って軽くキスをする。
「俺たち、大人だからね。」
そう、俺もイルカ先生も大人同士でよかった。
子供もいいけど、やっぱり大人がいい。
小さなイルカ先生、もう会えないけど大好きだよ。
今のイルカ先生を大事にするから。
だから俺を許してね。
心の中で、そっと謝るとイルカ先生が呟いた。
「今も昔もカカシさんが大好きだなんて。」
昔もって子供の頃のことなのかな?
もはやイルカ先生の頬は朱色だ。
「大人でよかったです。でないと、こういうこともできませんからね。」
そう言ってからイルカ先生は俺にキスを返してくれた。
それから二人でキスをした。
大人のキスを。
俺たち大人だから。
終り
続 子供と大人14
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