子犬の気持ち 1
明日から遅めの夏休みに入る。
その前日、アカデミーから受付け所のある棟へ行く時に、偶然イビキさんに出会った。
イビキさんは見た目は怖い人だけど、本当は優しくて人に対して細かく気を遣ってくれるいい人だ。
大人と云う雰囲気が漂っている。
俺はとても好きだ。
偶に飲みに行った時も奢ってくれたりするし。
「イビキさん!」
俺はイビキさんの姿を見て嬉しくなって駆け寄った。
「お久しぶりですね。お元気でしたか?」
「おお、イルカじゃないか。」
イビキさんは俺を見ると相好を崩した。
「久しぶりだなあ、イルカ。元気そうで何よりだ。俺は相変わらずだよ。」
そう言って頭を撫でてくれた。
「俺も相変わらずですよ。」
そうかそうか、とイビキさんは頭をがしがし撫でてくる。
ちょっと、こそばゆい。
「仕事、忙しいんですか?」
近況を聞いてみた。
「そうだな、まあまあ忙しいな。」
イビキさんは、うんうんと頷いて俺にも聞いてきた。
「イルカはどうなんだ?明日も仕事か?」
「いいえ。」
イビキさんにちょっと悪いなと思ったけど俺は言った。
「明日から夏休みです。四連休なんですよ。」
俺は明日から休みなので浮き浮きしている。
イビキさんは呆れたように言った。
「明日から?今何月だと思ってるんだ?」
「えーと。」
今は十月だけど取れただけいいんだ。
それにカカシさんも一緒に休む予定だし。
カカシさんが今夜任務から帰ってきたら楽しい休みの始まりだし。
あははーと笑って誤魔化すとイビキさんの大きな手が俺の頭を再び撫でた。
「あんまり、無理するなよ。」
父親のように心配してくれる。
俺はイビキさんのこういうところが大好きなのだ。
「はい。ありがとうございます。」
にこにこ笑って御礼を言った。
「夏休みで四連休か・・・。」
イビキさんは小さく呟き聞いてきた。
「どこかに行く予定はあるのか?」
「いえ、里にいますよ。出かけても買い物くらいでしょうか。」
「そうか。」
急に何事か考え始めた。
一人であーでもない、こーでもないと言っている。
「イルカ。」
ちょっと改まって俺を見てきた。
「実は頼みたいことがあるんだが。」
真剣な顔をしてイビキさんは俺の両肩に手を置いて。
「新薬の実験台になってくれないか。」
と言ってきた。
結局、俺はイビキさんの頼みを断りきれず。
新薬とやらを飲んで家に帰ってきた。
イビキさんの説明によると名づけて『子犬の気持ちになれる薬』らしい。
でも、まだ実験段階で、どの程度の効果が現れるか、今一つデータが足りないらしい。
「子犬の気持ちって、そんなのになってどうすんですか?」
「潜入操作の際に役に立つ。」
イビキさんは得意気に言った。
「人懐こいならば、相手に警戒心を与えない。そこに付け入るのだ。」
「はあ。」
「しかしだな、クールな人間に薬を使って人懐こくなって当たり前だ。人懐こさのレベルがどうも分からない。でも、イルカならば。」
イビキさんは、きらりと目を輝かせる。
「普段から人懐こいし薬を飲んだら、それがどのくらいレベルアップするかよく分かるだろ?」
「はあ。」
「人懐こい人間が更に人懐こくなれば成功したも同然。だからイルカに効けば薬は有効だということだ。」
イビキさんの考えることはよく分からない。
そんな薬を開発しても役に立つのかなあ。
反論できないままに何だか言い包められてしまった。
でも。
いつもイビキさんにはお世話になってるし。
他ならぬイビキさんの頼みなので。
俺は引き受けてしまった。
子犬の気持ち 2
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